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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

家じまい 残された持家の処分はどうすればいいのか 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(12)】

ナオコさん(53)の奮闘の甲斐があり、認知症の伯母ヨシエさん(83)は終の棲家となる「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)に引っ越すことになりました。しかし、伯母さんには持家と財産があります。これらの処分と管理について、ナオコさんには頭の痛い問題が残されました。介護や医療とはやや異なる分野ですが、どのような解決方法があるのか一緒に考えてみましょう。

サ高住の賃貸借契約……判断能力がないときは成年後見制度で後見人を選任

伯母さんがサ高住に入居するにあたり、連帯保証人が必要になりました。伯母さん、そして伯母の妹で愛媛県の実家にいるナオコさんの母親ともよく相談し、ナオコさんが連帯保証人になることにしました。

ナオコさんはふと思いました。

(サ高住では連帯保証人を求められることが多いようだけど、身寄りのないお年寄りで連帯保証人を立てられないときは、どうすればいいのかしら……)

このような場合、一般財団法人高齢者住宅財団の「家賃債務保証制度」を利用する方法があります。この制度は、高齢者住宅財団が連帯保証人の役割を担い、サ高住への入居をサポートしてくれるものです。入居者は保証期間に応じた保証料(2年間の保証で月額家賃の35%を契約時に一括で支払う)が必要になります。

サ高住の賃貸借契約では、認知症のために判断能力がないときは成年後見制度によって後見人を選任してもらい、本人に代わって契約を結ぶことになります。しかし、伯母さんの場合は軽度の認知症で、本人に入居する意思がはっきりあるとみなされたので、その必要はありませんでした。手続きにどれだけ時間を割かれるのかと心配していたナオコさんは、とりあえずホッとしました。

こうして伯母さんの住み替えは進んでいきましたが、持家の問題が残されています。

(さて、この家をどうしようかしら……)

マンションは築40年になりますが、埼玉県内で最寄り駅まで徒歩で5~6分です。伯母さんに売却することを提案しましたが、「他人に売るのなら、ナオコちゃんにあげる」と一蹴されてしまいました。

(一人で働いて、ずっとローンを払ってきた自宅だもの……。そりゃ、住めなくなっても愛着があるわよね……)

ナオコさんは伯母さんの気持ちを察しました。しかし、このまま空き家にしておいてもいいのかすっきりしません。

空き家の自宅……マイホーム借上げ制度で家賃収入を得て介護に回す方法も

そんなとき、ナオコさんの夫のマサオさん(56)がヒントになる話をしてくれました。

「この間、地方に転勤する同僚の送別会をしたとき、マイホームを借り上げてくれる制度を利用して自宅マンションを人に貸すとかいう話をしていたなあ」

そしてインターネット検索で「マイホーム借上げ制度」という方法を見つけてくれました。

この制度は、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)が行っており、50歳以上の国内および海外に居住している人のマイホームを借り上げて第3者に転貸し、その転貸収入から借上げ賃料を支払ってくれるものです。

「極論すると死ぬまで借上げてくれるということは、安定した賃料収入がずっと見込めるってことよね。その賃貸料をサ高住の費用に充てれば一石二鳥じゃない!」

ナオコさんは思わず膝を打ちました。

「おいおい、伯母さんのマンションは築40年の物件だろう。借りてもらうためにはリフォームが必要だよ」

マサオさんは案外冷静です。

「ほら、JTIのホームページにも『借上げの際には建物調査を実施していただき、必要に応じて補強・改修をお願いしています』と書いてある。耐震基準が満たないときは必ず補強工事をしないとダメみたいだよ。伯母さんのマンションは耐震工事が必要になるだろうなあ。大規模修繕でやっていればいいけど」

「そうね。他人に貸してきちんと賃貸料をいただくわけだもの。それなりの先行投資は必要よね」

ナオコさんも納得しました。

JTI以外でも、自治体や賃貸管理業者の団体がシニア層を対象に持家を貸す場合の相談を受け付けています。

不動産の活用・処分……損得勘定を十分に行ったうえで専門機関に相談しよう

また、リバースモーゲージ制度(*1)もあります。

*1:リバースモーゲージ制度は、高齢者が居住する住宅や土地などの不動産を担保に一括または定期的に融資を受け、利用者の死亡、転居、相続により契約が終了した時点で担保となっている不動産を処分し融資を返済する制度のことです。地方自治体や民間の金融機関のほか、社会福祉協議会による「生活福祉資金(長期生活支援資金貸付制度)」もあります。

(探してみると、高齢者の住み替えに関してもいろいろなサポートがあるものねえ。老いて住む家がないというのは不安なので伯母さんは大枚をはたいてマンションを買ったと言っていたわね。けれど、介護が必要になることを考えれば、高齢期の住み替えを前提に人生や貯蓄の設計をするほうがいいのかもね……)

ナオコさんは他人事ではない問題に考え込んでしまいました。

その後、ナオコさんはマサオさんと話し合い、リフォームの費用は伯母さんの貯蓄を取り崩すことになるため、その費用の回収+αが見込めない場合は空き家にしておいたほうがいいという判断になりました。そして、築40年のマンションをどの程度リフォームすれば賃貸物件としての価値が出て借り手がつくのか、地元の不動産業者にもよく確認することにしました。持家を改修して他人に貸し出し、さらにその賃貸料を新しい住まいの費用に充てたいとなると大きなリスクが伴います。ナオコさんのように自分でも損得勘定を十分に行ったうえで、専門機関に相談したいものです。

(それにしても伯母さん名義のマンションを処分する際は私が代行するわけにはいかないわよね……。伯母さんの認知症は徐々に進んでいくでしょうから、判断力が残っている今のうちに売却するのがいいのかしら……)

ナオコさんがそんなことを思い悩んでいると、担当のケアマネジャーから次のようなアドバイスを受けました。

「伯母様の認知症が進まないうちに成年後見制度を申請して、伯母様の意向に沿った後見人を決めておかれることをお勧めします」

「成年後見人って、そんなおおげさな」

成年後見制度は、認知症の人の家族にとって大切な手続きの一つとされていますが、詳しいことがまったく分からないナオコさんは戸惑うばかりです。次回は、認知症の人の権利や財産を守り、生活を支える成年後見制度についてご紹介します。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
サ高住に入居する際、連帯保証人を立てられないときは、一般財団法人高齢者住宅財団の「家賃債務保証制度」を利用する方法があります。

●財団法人高齢者住宅財団「家賃債務保証制度」リーフレット
https://www.koujuuzai.or.jp/pdf/page02_03_06.pdf

解決策②
一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)では、シニア層を対象に持家を借上げて第3者に転貸する「マイホーム借上げ制度」を行っています。持家を売却したくない場合は、このような制度を利用するのも一つの方法です。

●一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)「マイホーム借上げ制度」
https://www.jti.or.jp/lease/

解決策③
持家を賃貸する場合は、耐震工事やリフォームなどの費用がかかり、大きなリスクも伴います。費用面を中心に貸し出す場合と空き家にする場合のメリット、デメリットを十分に検討したうえで専門機関に相談しましょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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