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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

グループホームは終の棲家になるのか考えた 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(10)】

軽度の認知症の伯母ヨシエさん(83)が最後まで安心して暮らせる終の棲家(すみか)を探すため、姪のナオコさん(53)はさっそく空室のあったグループホームに見学に出かけました。民家風の外観に風通しのいい明るい個室、そして入所者や介護スタッフが和気あいあいと夕食づくりを行う家庭的な雰囲気に「ここなら伯母さんもきっと気に入る」と思いました。しかし、費用とともにナオコさんが気になったのが医療体制です。グループホームは認知症の人が他の病気になっても最後まで手厚く介護してくれるのでしょうか?

グループホーム……終の棲家になるかのかぎは医療連携体制

ナオコさんは、グループホームの管理者にこのような質問をしてみました。

「もしも伯母が急病になったり、けがをしたりしたときは、どのような対応をしていただけますか?」

「病院にかかる必要があるときは、協力医療機関になっていただいている診療所の先生にまず診察していただき、そこで治療ができない場合は総合病院で対応していただくことになっています」

グループホームは「生活の場」であり、認知症の症状が安定していて共同生活をすることができるという入所条件があるため、認知症以外の大きな病気を抱えていない人が対象になります。そのため、施設内に医師や看護師を配置する義務はありません。しかし、高齢者のための施設なので、入所者の急変時に備えて、あらかじめ協力医療機関を定めておくことになっています。

「それを伺ってホッとしました。こちらの施設なら伯母さんも最後まで安心して暮らすことができそうです」

ナオコさんがこう言うと予期せぬ返事が返ってきました。管理者は申し訳なさそうに答えました。

「本当は最後までお世話させていただきたいのですが、うちの施設には看護師がおらず医療体制がほとんど整っていないので、胃ろうなどの医療処置が必要な状態になると対応できなくなります。このような場合に備えて、行政機関からも特別養護老人ホームや介護老人保健施設(*1)、介護医療院(*2)、介護療養型医療施設(*3)との連携を求められていて、うちの施設でも連携先に移っていただくことになります」

*1:介護老人保健施設…介護保険の施設サービスの一種です。病状が安定していて入院治療の必要がない要介護1~5の高齢者を対象に、家庭に復帰するためのリハビリや介護を中心にサービスを提供します。医療機関と家庭との間にある中間施設として位置づけられています。

*2:介護医療院…要介護高齢者の長期療養・生活のための施設です。要介護者で長期にわたり療養が必要な人に対し、療養上の管理、看護、医学的管理の下で介護や機能訓練など必要な医療と日常生活上の世話を行うことを目的としています。

*3:介護療養型医療施設…急性期の治療は終わったものの、長期の療養を必要とする要介護1~5の高齢者が対象です。重度の患者を受け入れてくれますが、介護やリハビリによって状態が改善してきた場合には退院を求められることがあります。

えっ、グループホームでは最後まで面倒をみてもらえないの……。終の棲家として考えていたナオコさんは愕然としました。

グループホームでも入所する認知症の人の高齢化が進み、医療処置や看取りなどが必要になってきました。国では重度化した入所者にきちんと対応ができるように介護報酬制度で「医療連携体制加算」という項目があります。

この加算を取得している施設では看護師1人以上や看護職員が常勤換算で1人以上配置され、24時間365日体制で看護師と連絡が取れる体制が確保されています。また、入所者が重度化した場合の対応についての方針を定め、本人および家族に説明し、文書で同意を得ることが義務づけられています。近年は訪問看護ステーションや医療機関と連携し、この加算を取得するグループホームが増えてきました。

さらに「看取り介護加算」を取得している施設では基本的に最後まで面倒をみてくれると考えてよいでしょう。

これらの加算を取得していないグループホームでも医療処置や看取りへの対応を考えている施設は少なくありません。どこまで対応してくれるのかは、それぞれの施設によってあるいは個別のケースによっても異なります。

納得のいく介護施設選び……必要性に迫られた時点で探し始めてもすぐに時間切れ

ナオコさんは、もう1カ所空きがあったグループホームに電話をかけ、医療処置や看取りの状況を確認してみました。ただ、やはり医療処置が常時必要になると退所しなければなりませんでした。困ったナオコさんは担当のケアマネジャーに相談することにしました。

ケアマネジャーは申し訳なさそうに状況を説明してくれました。

「私もいくつか電話をかけてみたのですが、医療処置や看取りまで対応してくれるご希望のグループホームはどこも人気が高くて空きがありませんでした」

そして残念そうにこう付け加えました。

「いずれ伯母様は一人暮らしが難しくなることが予測されるので、そろそろグループホームの見学をお勧めしようと思っていた矢先に、あのようなことになってしまって……」

グループホームに限らず、納得のいく介護施設選びには時間がかかります。必要性に迫られた時点で探し始めてもすぐに時間切れとなり、「空いている施設ならどこでもいい」という選択肢のない状況に追い込まれてしまいがちです。一方、高齢者も75歳を過ぎると元気だと思っていても体調を崩し、あっという間に状況が変わることがあります。

人気のグループホーム……小規模だからこそすぐ入居できるとは限らない

ケアマネジャーはこのようなアドバイスをしてくれました。

「人気のあるグループホームだと順番が回ってくるまでに数年待つこともありますから。待機者数が増えています」

ナオコさんは早めに動かなかったことを後悔しました。

「すっかり油断していました。備えあれば憂いなし、でしたね」

するとケアマネジャーが慰めてくれました。

「認知症の方がそれなりに落ち着いて暮らしていると、まだまだ大丈夫と思ってしまうご家族は多いですよ。決してあなただけじゃありません。この先のことを考えていきましょう」

ナオコさんはグループホームの待機者数、そして施設を選択するのに残された時間が少ないことも分かっていました。しかし、新しい環境に慣れるまで時間がかかる認知症の伯母さんのことを考えると、できれば住み替えはしたくないと思いました。

グループホーム以外で終の棲家となる介護施設として、ナオコさんがすぐに思い当たるのは介護付き有料老人ホームでした。

(伯母さんはまったく蓄えがないわけじゃないけれど、介護付き有料老人ホームに入居するにはちょっと費用が足りない気がする……)

(最後まで安心して暮らせる施設は、どこにあるのかしら……)

ナオコさんは深いため息をつきました。このままでは伯母さんの心身の状態に応じて最後までいろいろな施設を転々とすることになりそうです。それは伯母さんにとっても自分にとっても不幸なことのように思えます。

(何とかして伯母さんの終の棲家を探すぞ……)

ナオコさんは自分でも情報を集めようと図書館に出かけ、施設介護に関する本を何冊も借りてきました。そして、その中に「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」という聞き慣れない項目を見つけました。

「んっ、サコウジュウって何?」

ナオコさんが読み進めていくと「サ高住は賃貸契約となり、賃借人の居住権が強いので、病気になったり入院したりしても追い出されない」と書いてあります。「これ、いいじゃないの!」。ナオコさんは一筋の灯りを見出したような気持ちになりました。

さて、伯母さんにとってサ高住は終の棲家になるのでしょうか? このお話しは次回に続きます。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
グループホームは認知症以外の大きな病気を抱えていない人が対象ですが、高齢者施設なので、入所者の急変時に備えてあらかじめ協力医療機関を定めておくことになっています。受診が必要なときは協力医療機関の医師が対応してくれます。

解決策②
医療処置や看取りへの対応を含め、退所要件についても入所する前にきちんと文書で確認しておきましょう。「医療連携体制加算」や「看取り介護加算」を取得していることは、医療処置や看取りに積極的に取り組んでいる施設を探す際の一つの目安になります。

解決策③
認知症の人が一人暮らしをできるうちにグループホームの情報を積極的に集め、見学や体験入居して気に入った施設を見つけたら先に申し込んでおくのも一つの方法です。いつ施設介護になってもいいように、早めの行動を心がけましょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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