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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

ケアマネジャー、どう選べばいいの? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(3)】

軽度の認知症と診断された伯母ヨシエさん(83)が、介護保険サービスを利用するためには要介護認定を受けてからもまだまだ準備が必要です。次はケアマネジャー選びです。ケアマネジャーは伯母さんに必要なサービスを組み合わせたケアプランを作成し、主治医をはじめ利用する各サービス事業者との調整を行う重要な役割を担っています。つまり、伯母さんが住み慣れた自宅や地域で安心して暮らしていけるかどうかのキーパーソンになるため、慎重に選びたいものです。どのようなことに気をつけて選べばいいのでしょうか? ナオコさん(53)と一緒に考えてみましょう。

ケアマネ選び……得意な領域を調べてみましょう

「自宅を訪ねてきてくれるケアマネジャーに支払う交通費を考えると、多くの人は自宅から近い居宅介護支援事業者を選んでいます」という話を、地域包括支援センターの窓口の職員に聞いていたナオコさん。納得しかけたものの、疑問が湧いてきました。

(いやいや……。薬局だって病院に近いだけで選んじゃいけなかったし……)

そこで「認知症の対応に詳しいケアマネジャーさんはいないのでしょうか?」と改めて聞いてみました。

すると、窓口の職員は「介護保険を利用される高齢者の場合、認知機能の低下や何らかの認知症の症状を抱えている人が多いので、医療系・福祉系に関係なく、どのケアマネジャーさんも対応できますよ」と教えてくれました。

(医療系・福祉系って、いったいどういうこと……)

ナオコさんは新たな疑問を持ちました。ケアマネジャーは公的な資格で正式名称は「介護支援専門員」です。各都道府県が毎年1回、ケアマネジャーの試験を実施しています。この試験では保健・医療・福祉に関する法定資格を持ち、実務に従事した期間が5年以上でかつ従事日数が900日以上の人か、介護保険施設等で相談援助業務に従事した期間が通算5年以上でかつ従事日数が900日以上の人が受験できます。そのため、どのケアマネジャーも基本的に自分が得意とする専門分野があります。その専門分野に応じて、一般的に医療系・福祉系と呼ばれているのです。そしてケアマネジャーがいる事業所を「居宅介護支援事業者」と呼びます。

例えば、人工呼吸器やIVH(中心静脈栄養)を装着している人、気管切開のカテーテル(管)を挿入している人、胃ろうを造設している人など、いわゆる「医療依存度が高い人」は、医学的知識や臨床経験を持っている医療系ケアマネジャー(特に看護師出身者)のほうが適切に対応してもらえる可能性が高いという意見もあります。

認知症の場合、認知症が進行したり、他の身体の病気が併存したりして、医療依存度が高くなれば別ですが、伯母さんのように軽度の認知症であっても身体的問題がそれほどない人はケアマネジャーの専門分野にこだわらなくて大丈夫なようです。

認知症ケア専門士……生活支援だけでなく認知症の症状へも的確なサポート

ただし、ケアマネジャーの中には「認知症ケア専門士」(https://ninchisyoucare.com/senmonsi/Dsenmonsi.htm)の資格を取得している人がいます。認知症ケア専門士とは、日本認知症ケア学会が認定する資格で、認知症ケアに対する専門的な知識と技術、倫理観を備えています。2022年12月現在、全国に約32000人の認知症ケア専門士がおり、そのうち約12000人はケアマネジャーの資格を持っている人です。

認知症ケア専門士の資格を持っているケアマネジャーに担当してもらうことで、生活支援だけでなく、家族が困る認知症の行動・心理症状(BPSD)(幻覚、妄想〈物取られ妄想が典型的〉、抑うつ、意欲低下などの精神症状と徘徊、興奮などの行動異常)についても的確なサポートを早めに受けられる可能性があります。

認知症ケア専門士および認知症ケア専門士が在籍する施設・団体については、日本認知症ケア学会のホームページで検索することができます。ぜひ参考にしてください。

●日本認知症ケア学会ホームページ「専門士検索」

http://184.73.219.23/dome/chihocare/senmonsi/senmonsikensaku/index.htm

●日本認知症ケア学会ホームページ「専門士のいる施設・団体」

http://184.73.219.23/dome/chihocare/senmonsi/shisetsukensaku/index.htm

こうしてナオコさんは認知症ケア専門士の資格を持つケアマネジャーを探すことにしました。学会のホームページを利用して認知症ケア専門士が在籍する施設・団体を検索すると、伯母さんが暮らす自治体で複数の施設・団体が見つかりました。

どの情報に着目……ケアマネ数、併設サービスを参考にしよう

次にナオコさんは地域包括支援センターでもらってきた事業者リストを照らし合わせて認知症ケア専門士が在籍している居宅介護支援事業者を見つけ、リストに掲載されている詳細情報から各事業者のケアマネジャー数や併設サービスを調べてメモに特徴を書き出しました。

【A】居宅介護支援事業者…ケアマネジャー4人、併設サービス/訪問介護、訪問看護、デイサービス、通所リハビリ
【B】居宅介護支援事業者…ケアマネジャー6人、併設サービス/訪問介護
【C】居宅介護支援事業者…ケアマネジャー2人、併設サービス/訪問介護、認知症対応型デイサービス

(うーん、この候補の中からどこを選べばいいのかしら……)

ナオコさんは迷いました。

そして、目に留まったのが【C】の居宅介護支援事業者に併設されている「認知症対応型デイサービス」でした。ナオコさんは、ひきこもりがちになっている伯母さんにデイサービスを定期的に入れたいと思っていたので、この事業者のケアマネジャーにプランを頼めば、併設されている認知症対応型デイサービスを優先的に利用させてくれるかもしれないと考えました。

(ここがいいかしらね……)

ナオコさんはメモを眺めながらつぶやき、第1候補として浮上してきた【C】居宅介護支援事業者を赤丸で囲みました。

このナオコさんの選び方、あながち間違いでもないのですが、介護報酬(介護保険で提供したサービスに支払われる報酬)の中には「特定事業所集中減算」という項目が設定されており、ケアマネジャーが特定の事業所に80%を超えるサービスの紹介を行っていると「サービスの囲い込み」と判断されて介護報酬の減算対象になります。

つまり、利用者が公平にサービスを選択し利用できる仕組みになるよう考慮されているため、ナオコさんが認知症対応型デイサービスを利用したいという理由で【C】居宅介護支援事業者を選んだとしても、優先的に利用させてもらえるとは限らないのです。

では、何を参考にして居宅介護支援事業者を選べばよいのでしょうか?

それは「ケアマネジャーの人数」です。ケアマネジャーの人数が1~2人という小さな居宅介護支援事業者の場合、1人のケアマネジャーが担当する件数はかなり多いことが予想されます。そのため、きめ細かいサポートや対応を期待できない恐れがあります。

ケアマネジャーの人数が多いと、事業者全体で豊富な事例を経験しており、何か困難な問題が起こったときも担当のケアマネジャーだけで抱え込むのではなく、他のケアマネジャーの経験や知恵を出し合えることができるので、さまざまなサービスを組み合わせて課題を乗り越えられる可能性があるかもしれないからです。

ケアプラン……介護保険外サービスの組み合わせも相談してみましょう

さらに、認知症の人がケアマネジャーを選ぶ際に押さえておきたいのが、24時間連絡体制を確保し、必要に応じて利用者などからの相談に対応できる体制を確保しているか、という点です。

また、介護保険のサービスだけでは伯母さんのような軽度の認知症の人の暮らしを支えきれないことがあります。このときに利用したいのが地域のボランティアなどが提供している介護保険外のサービスです。介護保険外のサービスを積極的にケアプランに取り入れているか、ということもケアマネジャーと正式に契約する前に確認しておきましょう。

こうしてナオコさんはケアマネジャーの人数が最も多かった【B】居宅介護支援事業者のケアマネジャーにケアプランを依頼することにしました。もちろん24時間相談体制が整備されていて、介護保険外のサービスも活用する方針だということは確認済みです。

ケアマネとは契約……どうしても合わないなら交代も可能です

担当のケアマネジャーは看護師出身で「主任ケアマネジャー(主任介護支援専門員)」(*1)の資格を持つベテランの人に決まりました。認知症ケア専門士の資格は持っていませんでしたが、認知症に対する経験も豊富です。

「必要に応じて事業所内にいる2人の認知症ケア専門士の資格を持つケアマネジャーにも相談しながらサポートしていきますので、ご安心くださいね」

にこやかに対応してくれたので、ナオコさんも伯母さんも心強く思いました。

*1:主任ケアマネジャー…ケアマネジャーとしての実務経験が5年以上あり、主任介護支援専門員研修を修了した人に与えられる資格です。地域のケアマネジャーのまとめ役的存在として指導・育成・支援・相談などの業務にも携わっています。

(地域包括支援センターの資料やインターネットで入手できる情報は限られているから、自分が知りたい情報は事業者に電話をかけて積極的に集めることも必要ね。何よりも相性の問題があるから最後は直接会って決めることが大事だと思うわ)

ナオコさんは学びました。ちなみにケアマネジャーと相性が合わないときは、事業者の責任者に申し出れば変更してもらえますし、契約した後でも交代することは可能です。

さあ、いよいよ「ケアプラン(介護サービス計画書)」の作成が始まります。一人暮らしの軽度の認知症の人は、どのようなことに配慮しながらケアプランを組み立てればいいのでしょうか? 伯母さんのケースをもとに具体的に考えてみたいと思います。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
ケアマネジャーは医療分野と福祉分野が得意な人に分かれますが、身体的問題がそれほどない人の場合は、ケアマネジャーの専門分野にこだわらなくてもいいでしょう。

解決策②
認知症ケア専門士の資格を持つケアマネジャーに担当してもらうことで、家族が最も困る認知症の行動・心理症状(BPSD)についても的確なサポートを早めに受けられる可能性があります。

解決策③
ケアマネジャーの人数が多い事業者は、多様な経験を持つケアマネジャーが在席している可能性があります。担当ケアマネジャーで課題解決が難しいときでも、経験や知恵を出し合って対応してもらえることも期待できます。

解決策④
認知症の人は、24時間相談体制の整備状況や介護保険外のサービスの活用方針・活用状況などもあらかじめ電話などで確認しておくといいでしょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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