認知症グループホームはどのようなところ? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(9)】
作・渡辺千鶴、岩崎賢一、イラスト・ゆぜゆきこ
骨折のリハビリのため、回復期病院に入院していた認知症の伯母ヨシエさん(83)が「自宅で一人暮らしをするのは心細い」と言い出し、在宅介護から施設での介護に方向転換することになりました。ナオコさん(53)は、最後まで安心して暮らせる終の棲家を念頭に、認知症の伯母さんが申し込める施設の中からグループホームを第一候補に考えました。そして、空きのあるグループホームにさっそく見学に出かけました。
グループホーム……自宅にいるような生活空間
ナオコさんが見学に出かけたグループホームは、最寄り駅から15分ほど歩いた閑静な住宅街にありました。施設の外観が一般的な住宅とほとんど変わらないことにナオコさんが驚いていると、グループホームの管理者が声をかけてくれました。
「ここはもともと民家だった建物を改築して使っているのです」
玄関から家の中に入ってみると、室内も家庭的な雰囲気が漂っています。
グループホームは、次の3タイプに大別されます。
- 併設型…老人ホーム、デイサービス、老人保健施設、病院などに併設されています
- 単独型…一戸建ての建物。民家などを改築して使用していることもあります
- 合築型…ビルやマンションの一角やワンフロアを利用しています
ナオコさんが見学しているグループホームは、②の単独型です。ただし、タイプは違っていても、どこも「ユニット型個室」が基本となり、居室は個室か準個室となり、食堂、居間、台所、浴室、トイレなどを共有します。
「うちでは6人の認知症の方が共同生活を送っています。どの部屋からも庭を眺められるので喜ばれていますよ」
管理者の説明を受けながら案内してもらった5畳ほどの居室は日当たりもよく、ベッドのほかに小さなタンスと鏡台が置いてありました。このグループホームでは、これまで使用していたお気に入りの家具を持ち込んでもいいそうです。
「これはいい工夫ですね」
ナオコさんは感じました。新しい場所に移ってもなじみの持ち物に囲まれて過ごすことができたら、伯母さんも気持ちが落ち着くだろうと感じたからです。
介護保険適用……適用される「介護サービス費」とされない「生活費」
さて、ナオコさんがもっとも気になるのは費用です。
「あのう……、費用のことですが、こちらは保証金や入居一時金が必要でしょうか?」
ナオコさんは単刀直入に尋ねました。費用がかかるとケアマネジャーに聞いていたからです。保証金はいわゆる賃貸契約の敷金にあたるもので、家賃の滞納や居室の修繕・清掃などに充てられ、退所時に差額分が返還されます。入居一時金は施設を利用する権利を取得するための費用です。一定期間内に退所するときは返還金を受け取ることができます。施設によって償却期間と償却率は大きく異なるので、支払う場合は事前によく確認しておきたい項目の一つです。
「うちでは入居一時金は必要ありませんが、保証金をいただいております」と管理者は答え、「ご参考までにどうぞ」と言って1カ月あたりの利用料金の目安が載っているパンフレットをナオコさんに手渡してくれました。それをみると、介護保険の自己負担金以外に、家賃や食費、水道光熱費、共益費・雑費がかかることが分かりました。
グループホームの費用は「介護サービス費」と「生活費」に大きく分けることができます。介護サービス費には介護保険が適用され、要介護度ごとに基本額が設定されています。入居者は自己負担割合分(1~3割)を負担することになります。さらに、介護サービス費にはさまざまな加算料金が加わり、その費用の自己負担割合分も負担しますが、施設の介護体制や提供されるサービスによって支払う金額は異なります。
また、介護サービス費の中には医療にかかる費用は含まれていないので、生活習慣病などの持病があり、治療を受ける場合は別途、医療費の自己負担金も発生します。
生活費は、家賃、食費、水道光熱費、共益費・雑費などで、家賃は居室の広さによって金額が異なる施設も少なくないようです。また、生活費とは別に紙パンツ費、理美容費、娯楽費などの費用がかかったときは実費で負担することになります。
(ゆっくりと暮らすためには、グループホームでも毎月20万円はかかるのか……)
(伯母さんの場合は年金で何とか賄えるけど、年金が少なかったり貯蓄がなかったりする人はグループホームの利用はどうするのかしら?)
ナオコさんはそのような感想を抱きました。
介護の質……グループホームの「介護の質」をチェックするポイント
ナオコさんは、施設内を見せてもらいながら費用の話をしているうちに、20畳ほどの広さの台所と居間にやってきました。入所者全員で夕食の準備をしている最中で、スタッフと一緒に台所に立って料理をしている人もいれば、一人で黙々とテーブルにお皿やお箸をセッティングしている人もいます。
「その人の能力に応じ、できることをやっていただいています。食事の準備だけでなく、お掃除やお買い物も分担してもらっています。みなさん、認知症を抱えていてもいきいきと過ごしていらっしゃいますよ」
管理者がにこやかに話すのを聞きながらナオコさんは明るい気持ちになりました。
(ここなら最後まで自分らしく暮らせるかもしれない。伯母さんもきっと気に入ってくれると思うわ)
費用もさることながら、グループホームを選ぶときに気をつけたいのが「介護の質」です。いろいろな事業所のスタッフがかかわる居宅サービス(訪問介護やデイサービスなど)とは異なり、グループホームは施設内のスタッフでサービスが完結します。何か起こっても認知症の人は自分で訴えられないので、家族が事前に「介護の質」を十分にチェックしておきたいものです。
厚生労働省のウェブサイト「介護サービス情報公表システム」では、市区町村単位で介護事業所を検索することが可能で、各施設の詳細情報のページには運営状況を詳しく確認することができます。
●厚生労働省「介護サービス情報公表システム」
都道府県別検索のページ
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)のページ
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group18.html
また、介護報酬では「認知症専門ケア加算」が認められます。この加算を得るための要件には、認知症介護に係る専門的な研修を修了した人の人数が影響します。これも介護の質を測る目安になります。
グループホームは地域住民の交流のもと運営されることが前提となっていますが、見学の際には、外部ボランティアの受け入れや地域住民との交流がどのくらいの頻度で行われているのかも確認し、風通しのよい施設かどうかをチェックしましょう。
一方、ナオコさんは伯母さんが急病になったりケガをしたりしたときのことが心配になりました。生活の場であるグループホームではどのような医療対応をしてもらえるのでしょうか? 「医務室のような部屋は用意されていなかったし、入居者のお世話をしている職員の中にも医療スタッフはいない気がする……」
次回はグループホームの医療体制の話題を中心に、引き続きナオコさんと伯母さんの選択を追っていきます。
*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。
- ナオコさんのポイントチェック
- 解決策①
入所する際、保証金や入居一時金が必要になるグループホームがあります。入居一時金は一定期間内に退所すると返還されますが、施設によって償却期間と償却率は大きく異なるので事前によく確認しておきましょう。
解決策②
経済的にやや厳しいけれどグループホームを利用したいという人は最初からあきらめないで、ケアマネジャーや回復期病院のソーシャルワーカーに「高額介護サービス費」(*1)の活用を含め、費用の相談をしてみましょう。
*1:高額介護サービス費…1カ月に支払った利用者負担の合計が負担限度額を超えたときは、 超えた分が払い戻される制度。
解決策③
認知症の人は自分で訴えられないので、家族が事前にグループホームの介護の質をチェックすることが重要です。厚生労働省のウェブサイト「介護サービス情報公表システム」の介護事業所検索のほか、施設の利用経験がある人の家族の話などを通じて情報収集をしましょう。
おことわり
この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。
- 渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
- 愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
- 岩崎賢一(いわさき・けんいち)
- 埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。