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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

認知症の人が骨折、リハビリ病院のその先は? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(7)】

アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

軽度の認知症の伯母ヨシエさん(83)が、埼玉県内の自宅で転倒して骨折し、地元の救急病院に入院しました。それから2週間が経ち、退院日を迎えました。今、地域医療の現場では、急性期治療が終わって状態が安定するとリハビリを行う回復期病院に移るような地域医療機関の連携の仕組みがあります。東京都内で共働きをする姪のナオコさん(53)が転院先の病院探しで苦労することはありませんでした。しかし、その先どうなるのか、ナオコさんの不安が解消されたわけではありません。伯母さんは自宅に戻れるのでしょうか?

認知症患者の骨折リハビリ……回復途中で行き場を失わないように注意しよう

回復期病院に移る頃には、「術後せん妄」(*1)の症状も治まったものの、転院から数日間は回復期病院から「ご家族の付き添いをお願いします」という電話がかかってくるかもしれないと思い、ナオコさんはヒヤヒヤしていました。

*1:術後せん妄…手術をきっかけにして起こる精神障害のことで、高齢者に起こりやすいとされています。手術後1~3日目から錯乱や幻覚、妄想などの症状が出現し、1週間ほど続いた後、次第に落ち着いていくとされています。

伯母さんは、日中にリハビリで体を動かすようになったことで生活のリズムを取り戻し、以前よりは夜に眠れるようになったので、急性期病院である救急病院の術後に体験したようなことは起こりませんでした。

(やれやれ、これでひと安心……)

ナオコさんは胸をなでおろしました。こうして伯母さんのリハビリは順調に進んでいきました。

その後、伯母さんのお見舞いに病院を訪れたある日のこと、ナオコさんは見知らぬ女性から声をかけられました。

「うちの義母が四六時中騒いで、同室のみなさんにもご迷惑をおかけしたようで本当にすみません」

その言葉を聞いて、ナオコさんは他人事とは思えなくなりました。

「いいえ、うちの伯母も前の病院では個室での付き添いをつけて大変でした。高齢者を抱えているとお互いさまですよ。それで、お義母さまはどうなさったのですか? やはり個室で付き添いですか?」

ナオコさんは尋ねてみました。

その女性が言うには、義母は認知症を発症しており、入院してしばらくすると昼夜を問わずちょくちょく「トイレに行きたい」と訴えるようになったそうです。

「不安やストレスのせいじゃないかと言われて、近くの心療内科に連れて行ってもらい治療を受けましたし、ここのお医者さんや看護師さんにもいろいろ対応してもらったのですが、ちっともよくならなかったのです。それで、リハビリを続けることが難しくなり、退院することになりました」

(リハビリができない状態になると即退院になるのか……)

ナオコさんは少なからずショックを受けました。回復期病院の目的は、集中的なリハビリによって日常生活動作(食事、着替え、入浴、排泄、移動など)を改善し、寝たきりを防止したり、自宅をはじめ生活の場に復帰したりすることなので、この対応はもっともなことなのですが、回復の途中で行き場を失った患者や家族はどうなるのでしょう。

退院……入院中からケアマネと連携して早め早めに退院後の環境を整えよう

「それで、この後はどうなさるのですか?」

ナオコさんは重ねて尋ねました。

「病院でも看きれない義母を、私たちが自宅で介護するなんてできません……。ケアマネジャーさんと相談し、とりあえず認知症の治療をしている病院に入院させることにしました。でも、長くは入院できないようなので、ケアマネジャーさんに義母が安心して暮らせるところを探してもらっているところです」

女性はそう話すと大きなため息をつきました。

(回復するまで入院させてもらえないのに高齢者が安心して暮らせる場所なんてあるのかしら……)

(自宅で介護できないとなると、いろいろな医療機関を探して転々とすることになるのね……)

ナオコさんは高齢者やその家族が置かれた厳しい現実を知り、暗澹たる気持ちになりました。

(一人暮らしの伯母さんは、この先いったいどうなってしまうの。私が引き取って面倒をみるのは絶対に無理……)

ナオコさんは不安が募りました。

回復期病院の入院期間は、保険診療によって疾患ごとに決められていますが、その人の病状やリハビリの目標、経過、退院後の生活準備などによっても入院期間は長くなったり短くなったりします。一般的に入院すると、医師や看護師、リハビリスタッフ(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)などが患者の日常生活動作の程度を確認し、リハビリ計画書が作成されます。それにもとづいて日々のリハビリや介護が行われるとともに、担当スタッフ全員で患者の状態について話し合い、入院目標や退院後の生活目標を設定します。

回復の見通しが分かると退院予定日を知らされ、退院後の生活のための話し合いが始まります。回復期病院においても、治療や手術を行う急性期病院同様、地域医療連携室のソーシャルワーカーが中心になり、退院後(転院を含む)の生活の相談に乗ってくれます。一人暮らしで認知症を発症している人は、家族と同居している人より生活支援サービスが必要になり、退院後の調整にも時間がかかることが予測されるため、早めに対応してくれる傾向があるようです。

また、入院前に介護保険サービスを利用していた場合、回復期病院のソーシャルワーカーからケアマネジャーに連絡がいき、退院後の生活のための話し合いにケアマネジャーも加わります。

在宅復帰の壁……家の中の危険をできるだけ取り除こう

ナオコさんの伯母さんの場合、転院して約1カ月後に退院後の生活についての話し合いが始まりました。最初に担当医からこのような説明がありました。

「伯母様は非常にがんばってリハビリを受けていらっしゃるので、ある一定のレベルまで日常生活動作を回復することができるでしょう。残念ながら入院前と同じ状態に戻すことは難しいかもしれませんが、これまでのように自宅で生活することは難しくないと思います」

ナオコさんも心配していることを尋ねてみました。

「先生のお話しを聞いて少し安心しましたが、家の中でまた転んでしまうことはないでしょうか?」

担当医はこう答えました。

「伯母様はご高齢ですから、その可能性はあります。でも、対策を講じることで転倒のリスクを減らすことはできますよ」

転倒を予防する対策とは、まず家の中の段差をなくし、つまずいて転ばないようにバリアフリーに改修することです。回復期病院では必要に応じて退院前にリハビリスタッフが患者の自宅に出向いて生活環境を確認し、住宅改修や福祉用具の選定に関するアドバイスをしています。ただし、住宅改修を行ったり福祉用具を借りたりするのは介護保険サービスの一つとして提供されることになるため、ケアマネジャーに連絡して手続きをする必要があります。もし、自宅から遠い地域の回復期病院に入院していて、退院前にリハビリスタッフに訪問してもらうことが難しい場合、自宅に戻った後、ケアマネジャーに相談して、このあと紹介する介護保険の訪問リハビリサービスを利用するといいでしょう。

転倒予防……訪問リハビリ活用して脚の筋力と体のバランス力を鍛えよう

伯母さんのマンションは40年前に購入したものです。家の中は段差があります。転倒を予防するには住宅を改修する必要がありそうです。

ナオコさんは恐る恐る尋ねてみました。

「住宅改修の費用は、どのくらいかかるのでしょうか?」

ケアマネジャーが概算を教えてくれました。

「例えば、介護保険の自己負担割合が1割の人は、住宅改修の費用の9割が支給されることになります。改修に費やした費用の上限は20万円で保険給付の上限が18万円になります。自己負担は今、所得などに応じ1~3割といったように変わるので注意してください。居宅サービスの支給限度額とは別枠で利用できます。20万円を超えた改修費になった場合、超えた費用は自己負担になります。伯母様のご自宅の広さであれば段差解消スローブや手すりを取り付けても保険給付内で費用は収まるでしょう」

介護保険の住宅改修サービスを利用するときの注意点は、改修前にケアマネジャーに相談し、工事を始める前に自治体の承認を必ず受けておくことです。また、介護保険サービスを利用していなくて、契約しているケアマネジャーがいないときは、住んでいる地域の地域包括支援センターの窓口に相談してみましょう。

担当医もこのような提案をしてくれました。

「つまずいても転ばないようにするには脚の筋力と体のバランス力を鍛えることが大切です。今、行っているリハビリの中でも転倒予防のトレーニングはしています。ずっと続けたいということであれば退院後のフォローアップとして当院の訪問リハビリ(*2)やデイサービスを利用することもできます」

*2:訪問リハビリ…理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハビリ専門のスタッフが患者の自宅に出向いて生活場面に即したリハビリを行い、日常生活動作をはじめ自活能力を向上させるサービスです。住宅改修や福祉用具の選定に関するアドバイスも行います。介護保険サービスの一種です。

骨折予防…万が一に備えて転倒予防グッズを上手に活用し、骨折を回避しよう

理学療法士もこうアドバイスをしてくれました。

「ご自宅では転倒予防用のくつ下や転倒時の衝撃を和らげる下着など市販されているグッズを上手に活用すると安心ですよ」

日本転倒予防学会では、一般に販売されている転倒予防グッズのうち、学会の基準をクリアした商品を推奨品としてホームページで紹介しています。

●日本転倒予防学会推奨品

https://www.tentouyobou.jp/aboutus/goods.html

(転倒予防の対策をしっかり行って、もう一度、自宅で頑張ってみるか……)

ナオコさんは心の中で思いながら女性の言葉を思い出しました。

(あの奥さんは「ケアマネジャーさんに義母が安心して暮らせるところを探してもらっているところです」と話していたけど、自宅以外にどのような選択肢があるのかしら……)

「あのう、ご参考までにお伺いしたいのですが、自宅で一人暮らしを続けることができなくなったら、伯母はどうなるのでしょうか?」

このナオコさんの疑問に対する回答は次回に続きます。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
地域医療連携室のソーシャルワーカーが中心になり、退院後の生活相談に乗ってくれます。一人暮らしで認知症がある人には早めに対応してくれる傾向があります。家族と同居している人で家族介護を続けることが難しい場合も、そのことを医師や看護師、ソーシャルワーカーに早めに伝えてすぐに動いてもらうようにしましょう。

解決策②
回復期病院では、必要に応じて退院前に理学療法士や作業療法士が患者の自宅に出向き、生活環境を確認したうえで住宅改修や福祉用具の選定に関するアドバイスをしてくれることがあります。骨折に限らず、他の病気やけがで入院した際も、このようなサービスを積極的に利用して自宅に戻った後も快適な生活が送れるように準備を進めるようにしましょう。

解決策③
住宅改修には介護保険の給付が受けられます。詳しいことは担当のケアマネジャーもしくは住んでいる地域の地域包括支援センターの窓口で相談しましょう。退院後の生活に不安があるときは、訪問リハビリなどを利用して生活場面に即したトレーニングを受けましょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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