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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

夫が糖尿病 合併症を防ぎたいと願う夫婦の選択 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~糖尿病編(3)】

ナオコさん(53)の夫・マサオさん(56)は糖尿病を発症してしまったものの、大学病院で糖尿病専門医や看護師、管理栄養士など療養チームの手厚いサポートを受けて治療の好スタートを切ることができました。ところが、血糖コントロールが安定し治療も一段落したある日、担当医から転院を勧められました。思いもよらぬ話に「せっかく大学病院にかかれたのに追い出されるのかな」とマサオさんは混乱してしまいました。さて、この担当医の提案には、どんな意図があるのでしょうか。

病院と診療所が協力して治療を行う「病診連携」を推進

糖尿病療養チームの手厚いサポートを受けながら治療を続けてきたマサオさん。しかし、仕事で新しいプロジェクトが始まり、生活がますます不規則になって、食事療法と運動療法だけでは血糖値をコントロールすることが難しくなりました。そこで、経口血糖降下剤を服用することになりました。食事療法も見直して、マサオさんの血糖値はようやく安定してきました。

ある日の診察でのこと。「今回も数値はすべていいですね。この調子でがんばりましょう」という担当医の言葉に安心したのも束の間、マサオさんは担当医から「数値も安定していますし、会社のお近くの内科医院に転院して治療を続けませんか」と予期せぬ提案を受けました。

「この病院では治療を受けられなくなるのですか」

担当医の話していることがよく飲み込めませんでした。

(追い出されるってことか?)

マサオさんの頭の中は、そのことで一杯になりました。

「いえいえ、ふだんは内科医院で投薬治療を続けていただきますが、当院には半年に1回受診していただいて糖尿病の合併症を中心にチェックしていきますから、ご安心ください。つまり、主治医が2人いるようなものです。当院を受診されたときは療養指導のサポートも受けられますよ」

担当医はこう説明してくれました。

現在、糖尿病診療では病院と診療所が協力して治療を行う「病診連携制度」が推進されています。地域の診療所は病状が安定した軽症者を中心に診て、血糖コントロールが悪い人や糖尿病の合併症が進行した重症者を病院の糖尿病専門医が治療するといった重症度に応じた診療連携が行われています。

糖尿病で怖いのは、自覚症状がないまま合併症(*1)が進行していくことです。糖尿病合併症を防ぐには定期的に検査を行い、専門医に合併症の進行をチェックしてもらい、早期発見・早期治療に努めることが大切です。そのため、もともとかかっていた病院にも定期的に受診する仕組みが考え出されたというわけです。このような仕組みは「2人主治医制」とも呼ばれ、糖尿病だけでなく他の分野でも行われています。

*1:糖尿病合併症のうち、3大合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害です。網膜症が進行すると失明する危険性があり、腎症では透析治療が必要になることもあります。神経障害では手足にしびれが起こり、糖尿病性壊疽(えそ)に進展することもあります。さらに、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの大血管障害と呼ばれる病気のリスクも高まることが分かってきています。

参考情報

糖尿病合併症について
日本糖尿病学会のサイトでは一般向けに糖尿病の解説ページを設けており、その中に合併症の情報も含まれています。


●日本糖尿病学会HP 
*インターネット情報は、最新情報を各自で確認することが重要です。

自覚症状のない時点で糖尿病合併症を早期発見

一方、一般の診療所に最初からかかっている糖尿病患者の中には、専門医による糖尿病合併症のチェックを受けたことがない人がいるかもしれません。このような患者を対象とした病診連携も始まっています。例えば、一般の診療所で腎臓機能を調べる検査を実施して糖尿病性腎症のリスクが高い人が見つかったら、大きな病院を紹介して専門医による精密検査と診断を行い、2人主治医制のもとで糖尿病性腎症の予防もしくは治療にあたるというものです。

(症状もないのに時間と費用をかけて、合併症のチェックを受けるのは面倒くさいなあ)

マサオさんは内心こんなことを感じてしまいました。糖尿病の合併症は自覚症状がないため、マサオさんのように感じる患者さんもいるでしょう。しかし、がんの早期発見と同じで、症状のないうちに見つけるのが何よりも肝心です。一般の診療所にかかっている糖尿病患者さんもかかりつけ医に一度、合併症のチェックを含め糖尿病の病診連携(2人主治医)を行っているかどうかを尋ねてみるといいでしょう。

さらに、この制度を利用するメリットとしては、糖尿病以外の病気になったときも安心して治療を受けられるということです。その代表例が手術です。糖尿病患者さんが手術を受ける場合、血糖値が高いと感染症が起こるリスクが高くなったり、傷の治りが悪くなったりすることがあるため、手術前は血糖コントロールを厳格に行って安定させることが必要です。

また、手術直後は血糖値が高くなりやすく、変動も大きくなりやすいため、血糖値の測定をきめ細かく行い、それに合わせた血糖コントロールが求められます。いろいろな診療科がある大きな病院に定期的に通院しておけば、手術のときもこれまでの治療経過を踏まえたうえで、糖尿病専門医に血糖をコントロールしてもらえるし、外科医とも緊密に連携して適切な対応をしてもらえるでしょう。

なお、糖尿病患者さんががんなどの病気で手術を受けなければならないときは、上記の理由から糖尿病専門医がいる総合病院や大学病院を選択したほうがいいといえます。

ワンストップで治療と合併症のチェックを受ける方法はないのか

こうしてマサオさんは、大学病院から紹介してもらった内科医院に転院して治療を継続することになりました。そして、転院にあたり「糖尿病連携手帳」をもらいました。

「今後は、この手帳に合併症に関連する検査結果や治療内容、療養指導内容・問題点などを記入していきますね。あなたは、この手帳を内科医院の先生に必ず見せて治療の参考にしてもらってください」と大学病院の担当医から説明を受けました。

マサオさんは自宅に戻り、妻のナオコさんに治療環境が変わることを話しました。すると、ナオコさんからはこんな反応がありました。

「事情も分かるけど、ワンストップで糖尿病の治療と合併症のチェックを受ける方法はないのかしら?」

次回は、この問いかけについてみなさんと一緒に考えてみたいと思います。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
転院を勧められたときに慌てないためにも、糖尿病診療では重症度に応じて診療所と病院で治療する患者を分担する制度が推進されていることを理解しておきましょう。

解決策②
糖尿病の合併症は自覚症状がないまま進行していきます。一般の診療所にかかっている人も大きな病院で定期的に各種検査を受け、早期発見に努めましょう。

解決策③
大きな病院に定期的に通院しておけば、糖尿病以外の病気になったときも安心できる部分があります。がんなどの手術を受けるときは厳格な血糖コントロールが必要になるため、糖尿病専門医がいる総合病院や大学病院がいいかもしれません。

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おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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