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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

認知症の人の家族が知っておきたい成年後見制度 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(13)】

ナオコさん(53)は、伯母ヨシエさん(83)の担当ケアマネジャーから「認知症がそれほど進まない前に成年後見制度を申請して、伯母様の意向に沿った後見人を決めておかれることをおすすめします」とアドバイスを受けました。成年後見制度を利用して後見人を決めておくことは、認知症の人の家族にとって大切なことの一つですが、どのような手続きが必要なのでしょうか?

成年後見制度の利用……権利擁護センターや社会福祉協議会に相談窓口

先延ばしにはできない手続きだと観念したナオコさんは、重い腰を上げて最寄りの地域包括支援センターに出かけました。ここにはソーシャルワーカーがいるので、成年後見制度の相談にも応じてもらえると思ったからです。

対応してくれたソーシャルワーカーは、権利擁護センターや成年後見制度に関するパンフレットを手渡してくれましたが、思わぬ答えが返ってきました。

「せっかくお越しいただいたのに申し訳ありませんが、社会福祉協議会に設置されている権利擁護センターでご相談されたほうが詳しいお話が聞けると思います」

さっそく権利擁護センターのパンフレットを読んでみると、成年後見制度に関しては、一般相談だけでなく、司法書士による専門相談もしているようです。パンフレットには費用のことが書かれていなかったので、電話で問い合わせてみると、いずれも無料とのことでした。

(相談料がかからないのは本当に助かるわ……)

ナオコさんは安心しました。

「司法書士の専門相談は月1回の予約制になりますので、一般相談をお受けになって相続など専門的な知識が必要になった場合にご利用される方が多いです。センターの相談員でも十分にご相談に乗れますので、ご都合のよろしいときにいつでもお越しください」

ナオコさんは思いました。

(成年後見制度はややこしそうだけれど、書類の書き方も教えてもらえるみたいだし、分からないことは何でも専門家に聞いて手続きを進めよう……)

成年後見制度に関する相談は、市区町村にある社会福祉協議会のほか、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、日本司法支援センター法テラス、公益社団法人社会福祉士会や都道府県社会福祉士会が運営する「権利擁護センターぱあとなあ」などさまざまな機関でも受け付けています。

任意後見か法定後見か……早めに動いて情報収集がかぎ

地元の社会福祉士会が運営する「権利擁護センター」の一般相談に出かけてみると、相談員はまずパンフレットを使って成年後見制度の概要について説明してくれました。それによると、成年後見制度には判断能力が十分にある人を対象とした「任意後見」と、判断能力が十分でない人を対象とした「法定後見」との2種類があるということでした。

任意後見とは、将来、後見人になる人を自分で選んだうえで、公正証書を作成して代理権を与える契約(任意後見契約)を結んでおき、判断能力が不十分になった段階で家庭裁判所に任意後見監督人(任意後見人を監督する人)の選任申立てを行って援助を開始してもらう制度です。認知症が進行している場合は、任意後見契約を結ぶことが難しくなるので、本人に判断能力があるうちに任意後見の手続きを行うことがポイントです。

費用は任意後見契約の公正証書を作成する手数料と専門家に公正証書の作成を依頼する場合はここでも費用がかかります。また、任意後見監督人選任申立てを行う際には別途費用が発生します。

(伯母さんには任意後見を利用するのは難しいかも。認知症の場合、やっぱり何でも早めに動いて情報収集することが大切なのね……)

こう悟ったナオコさんですが、大きなため息をつきました。

そのため息を聞いて、相談員が慰めてくれました。

「実際は認知症の人の判断能力が低下し、さまざまな問題に直面してから後見人を選出する法定後見をご利用されるご家族が大半です。任意後見を利用できなくてもご心配なさらないでくださいね」

(いざとなって慌てるのは私だけじゃないのか……)

ナオコさんは妙に安心しました。

家庭裁判所の申立て……本人・配偶者・4親等内の親族が基本

多くの人が利用するという法定後見は、認知症の人の判断能力に応じて、後見、保佐、補助の3つのタイプに分かれます。この制度を利用するには本人の住所地の家庭裁判所に後見開始の審判を申立てる必要があります。申立てを行った後、家庭裁判所では鑑定の手続き、後見人候補者の調査、本人への聞き取りなどの審理を行い、後見人を選任します。申立てから成年後見を開始できるまでの期間は概ね3~4カ月かかるとされています。

「家庭裁判所の申立てが必要なのですね。まあ、大変。それは誰がすることになりますか?」

「ご本人のほか、配偶者、4親等内のご親族の方になります」

ナオコさんは3親等にあたる姪なので、家庭裁判所に申立てをすることは可能です。なお、身寄りがない場合は市区町村長なども申立てをすることができます。

ナオコさんが次に気になったのは費用です。相談員の説明によると、収入印紙代、登記印紙代、郵便切手代などが必要になります。

「法定後見の場合は、家庭裁判所から依頼を受けた医師が、ご本人の判断能力について鑑定を行うことになりますので、その鑑定料も必要となります」

相談員の説明を聞き、ナオコさんは少し驚いてしまいました。

「えっ、主治医の診断書ではだめなのですか?」

「申立てのときに診断書も提出しますが、後見と保佐に該当する場合は、原則として申立ての後に鑑定をすることになります」

認知症の人の権利や財産を守る制度だけに本人の判断能力については厳重に確認されるようです。

手続きをスムーズに進めるため、診断書作成に関しては専用の用紙に記入しておくことです。また、鑑定に関しては本人の病状や実情をよく把握している主治医に家庭裁判所は鑑定を依頼することが多いので、申立ての前に主治医が鑑定を引き受けてくれるかどうかをあらかじめ確認しておいたほうがいいとアドバイスしてくれました。

経済的な問題で申立てにかかる費用を用意できない場合は、日本司法支援センター法テラスの「民事法律扶助制度」を利用する方法があります。この制度では、弁護士や司法書士などに手続きを依頼した場合の報酬を含め、申立てにかかる費用、医師の鑑定料を立て替えてくれます。立て替えてもらった費用については分割で返済していくことになります。

後見人……入所施設・住居の契約書の連帯保証人や身元引受人と兼任できず

「後見人は、あらかじめ候補者を決めておいたほうがいいのでしょうか?」

ナオコさんは、さらに気になっていることを相談員に聞きました。

「後見人は家庭裁判所が選任します。多くの場合、ご家族やご親族の方が後見人として選任されますが、候補者を決めていても必ずしもその人になるとは限りません。また、後見人は施設に入所する際の契約書の連帯保証人や身元引受人と兼任することができませんので、ご注意くださいね」

このアドバイスを受け、伯母さんの後見人になるつもりでいたナオコさんは、かなり慌ててしまいました。

「えっ、連帯保証人は後見人になれないのですか。まあ、どうしましょう。伯母がサービス付き高齢者向け住宅に入居するので、私が連帯保証人になってしまったのです。ああ、連帯保証人は夫にしておけばよかった。私以外の身内は高齢者ばかりで、後見人の候補者がいません」

「まあまあ落ち着いてください。身内に候補者がいない場合は、弁護士や司法書士、社会福祉士、税理士などの専門家に依頼することもできますから」

「いろいろな職種の人に後見人をお願いできるのですね。でも、その専門家はどうやって選べばいいのでしょうか?」

ナオコさんの質問に対して相談員は「あくまで一つの目安」と断ったうえでこうアドバイスをしてくれました。

「遺産相続をめぐって親族間で話し合いが必要なときは弁護士、不動産の管理が必要なときは司法書士、身上監護(*1)に伴う事務作業が多いときは社会福祉士、遺言や相続における税金処理が必要なときは税理士といった具合に、それぞれのご事情に合わせて後見人となる専門家を選ぶ方法があります」

*1:身上監護…本人の心身の状態や生活の状況を適切に把握して、介護を依頼したり、必要な契約の締結などを行ったりすることです。

前出で紹介した相談機関を含め、専門家の団体では適当な後見人の候補者がいない場合、候補者(専門家)をあっせんしてくれるところがあります。ちなみに専門家に後見人を依頼するときは報酬を支払う必要があります。報酬額は本人の資産内容と職務内容に応じて家庭裁判所が決定します。本人の財産の中から毎月支払うことになります。

市区町村による「成年後見制度利用支援事業」、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートによる「公益信託成年後見助成基金」では、所得が少ない人に対して後見人の報酬を助成しています。経済的な問題で後見人への報酬が支払えない場合は相談してみましょう。

相談……成年後見制度を利用する目的を整理することから始めよう

ナオコさんは、成年後見制度を利用する目的についても相談員と話し合いました。伯母さんの場合、身上監護に加えて不動産の管理も必要としたので、司法書士による専門相談も受けることにしました。今後は伯母さんやナオコさんの母親や父親、夫ともよく相談し、後見人の候補者を考えるつもりです。ちなみに家族や親族が後見人になった場合を含め、すべての法定後見人は家庭裁判所の監督を受け、支援した内容は文書で公開されます。第3者に依頼してもどのような後見が行われているのかわかるので安心です。

成年後見制度の手続きについてメドが立ったナオコさんは自宅に戻り、一息ついた後、お茶を飲みながら日課にしているネットサーフィンをしていたところ、気になる記事が目に付きました。認知症関連の検索をする機会が増え、少し古い記事ですが、2015年8月23日に朝日新聞デジタルで配信された記事が目につきました。

参考記事

●「認知症の夫が火災、留守した妻に責任は」

記事の内容は、認知症の夫を家に残して妻が出かけた間に火災が起き、燃え移った隣家の住人から裁判で賠償を求められたというものでした。一審の地方裁判所の判決は、夫婦の助け合いを義務付けた民法の規定を踏まえ、妻には夫を注意深く見守る義務があったとして「重い過失」と判断し、妻に賠償を命じたと書いてありました。

(本当に気の毒。自分が出かけるとき、認知症のご主人の様子は落ち着いていたのでしょう。責任を取れといわれてもどうしようもないわよね……)

認知症の伯母を持つ身としては他人事ではありません。もう少し検索してみると、その後の2015年9月19日に朝日新聞デジタルで配信された記事が見つかり、高等裁判所での二審で和解が成立していたことが分かりました。

参考記事

●「妻外出時に認知症の夫が家裁、延焼隣家との和解成立」

伯母さんが新しく入居するサービス付き高齢者向け住宅は個室です。

(一人で部屋にいるときに火災を出してしまったら……)

ナオコさんは急に不安になりました。このようなトラブルを避けるために、どのような対策があるのでしょうか? 次回、ナオコさんと一緒に考えましょう。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
成年後見制度の相談に乗ってくれる専門機関はいろいろあるので、まずは無料相談などを利用してみましょう。

●公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート

●日本司法支援センター法テラス

●公益社団法人日本社会福祉士会や都道府県社会福祉士会が運営する「権利擁護センターぱあとなあ」

解決策②
経済的に余裕がない人は無料で法律相談が受けられ、弁護士や司法書士の費用を立替えてもらえる日本司法支援センター法テラスの「民事法律扶助制度」を利用する方法があります。この制度では、申立てにかかる費用や医師の鑑定料なども立て替えてもらえます。

●日本司法支援センター法テラス「民事法律扶助制度」

解決策③
家族や親族に適当な後見人候補者がいない場合、弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士といった専門家に後見人を依頼することができます。各専門家の団体では、後見人候補者をあっせんしてくれるところもあります。また、後見人への報酬が支払えない場合は助成制度もあります。

●公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートの「公益信託成年後見助成基金」

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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