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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

認知症の人が自宅で一人暮らしができなくなったら? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(8)】

骨折をして手術を受けた軽度の認知症の伯母ヨシエさん(83)がリハビリを行う回復期病院に移って約1カ月。ナオコさん(53)とケアマネジャー、病院のスタッフとの間で退院後の生活に向けた話し合いが始まりました。「リハビリの結果、自宅に戻ることは可能」という担当医の判断のもと調整が進んでいましたが、ナオコさんは施設入所を希望した場合にどのような選択肢があるのか知りたくなっていました。

自宅での生活が困難……特養は要介護3以上の高齢者施設なので注意しよう

ナオコさんは誤解されないように尋ねてみました。

「自宅で一人暮らしを続けることができなくなったらどうなりますか?」

回復期病院のソーシャルワーカーが説明を始めました。

「認知症があって一人暮らしができなくなった場合、自宅に代わる施設に入ることになります」

ナオコさんは自分が知っている施設をあげてみました。

「自宅に代わる施設といいますと、特別養護老人ホームになりますか?」

特別養護老人ホームは、日常生活を送るうえで常時介護が必要で、自宅で一人暮らしをすることができない、あるいは同居する家族がいても介護することが難しい高齢者が入所する施設です。介護保険の施設サービスで「介護老人福祉施設」と呼ばれています。主に社会福祉法人が運営する公的な施設なので住居費・食費・日常生活費といった費用の自己負担分はありますが、収入や課税金額に応じて補助や助成を受けられるので比較的低額で利用できます。施設によって個室や相部屋があります。

「はい、その施設も選択肢の一つになりますが、伯母様の場合は介護保険の認定が要介護2になりますので、入所を申し込むことはできないのです」

ケアマネジャーにこう告げられ、ナオコさんは驚きました。

「えっ、それはどういうことですか?」

ケアマネジャーの説明によると、2015年4月に介護保険制度の見直しが行われ、原則として要介護3~5の認定を受けた人でないと特別養護老人ホームに入所できなくなりました。この政策の背景には、当時、特別養護老人ホームの待機者が全国で約52万人となり、後期高齢者人口の増加でさらに増え続けることが予想されたためです。

「伯母様の場合、介護保険の区分変更を申請すれば要介護3に認定される可能性があり、入所申し込みがまったくできないということではありません。ただ、入所も申し込み順ではなく必要性の高い要介護4~5の人が優先されますので、伯母様の現在の状態ですぐにお近くの施設に入所できるかは分かりません」

ケアマネジャーの説明を聞きながら、ナオコさんは伯母さんに特別養護老人ホームに入所してもらうのは簡単ではないことを覚悟しました。

自宅での生活が困難……有料老人ホームは介護保険を使えるか確認しよう

「特養に入れないとなると民間の有料老人ホームということになるのでしょうか? 伯母が入所できる施設は他にありますか?」

ナオコさんはため息まじりに尋ねました。

有料老人ホームは、主に民間企業が運営する高齢者施設です。元気なうちから入居できる施設と介護が必要になってから入居できる施設があります。費用は施設によって違いますが、一般的には高額で、月々の住居費・食費・日常生活費のほか、入所一時金が必要な施設も多いです。提供されるサービスも施設によって異なります。「特定施設入居者生活介護」もしくは「介護予防特定施設入居者生活介護」の指定を受けている有料老人ホームの場合は、介護保険を利用して介護サービス、介護予防サービスを受けることができます。

●公益社団法人 全国有料老人ホーム協会

ホームページ
https://user.yurokyo.or.jp/

ソーシャルワーカーはもう一つ教えてくれました。

「もちろん、特養の他にもいくつかありますよ。例えば伯母様には認知症がありますので、グループホームも入所申し込みが可能です」

グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、認知症の人が少人数(5~9人)で共同生活をする施設です。地域の住民とも交流しながら家庭的な雰囲気の中で、食事や入浴、排泄など生活に必要なサポートを受けられます。また、入居者の能力に応じて食事の支度や掃除などの家事を分担します。このような生活を送ることによって残された機能を維持し、認知症の進行を遅らせることが期待されています。

「そういえば介護保険のパンフレットで紹介されていたことを思い出しました。グループホームは伯母さんの今の暮らし方にとても近いので、安心して過ごせそうですね。でも、人気もすごく高いのでしょう……」

ナオコさんはおずおずと尋ねました。

「ええ、そうですね。以前と比べると全体数はかなり増えていますが、希望する人も多いので、気に入った施設があったからといってすぐに入所できるかは分かりません。特養ほどのハードルの高さではないですけれど……」

ソーシャルワーカーはこう言いながらタブレット型端末で伯母さんが暮らしている埼玉県内の自治体のホームページを検索し、そこに掲載されているグループホームの待機者数を確認してくれました。

自宅での生活が困難……グループホームは地元自治体の住民が限定

「7~10人待ちといったところですね。特定の施設にこだわらない、場所も選ばないということであれば、すぐに入所できる施設も3カ所ありますよ」

「えっ、本当ですか」

ナオコさんは思わず身を乗り出しました。最初からあきらめずに探してみるものです。

(でも施設に入るのなら私が通いやすい場所にする手もあるなあ……)

そう思ったナオコさんは自宅から通いやすい自治体の施設の待機状況を尋ねてみました。するとソーシャルワーカーから意外な答えが返ってきました。

「伯母様はその自治体にあるグループホームの入所申し込みはできないのです」

というのもグループホームは介護保険の地域密着型サービス(*1)に該当するので、施設が建設されている自治体に住民票がない人は利用できないということでした。また、介護保険の認定が要支援1の人も対象外になります。

*1:地域密着型サービス…認知症や一人暮らしの高齢者が、介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らし続けるために考え出されたサービス体系。原則としてサービス事業者と同じ市町村に居住している人が対象。グループホームのほかに小規模多機能居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)、地域密着型通所介護、夜間対応型訪問介護、認知症対応型通所介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護があります。

住み慣れた地域で暮らす…自分の街の地域密着型サービスを調べてみよう

(地域密着型サービスが住んでいる地域に関係するなんて知らなかった……)

(住み慣れた街でずっと暮らせるのはいいことだけど、グループホームの数が少なくて待機者が多いところに、たまたま住んでいたら選択肢が一つなくなっちゃうってことよね……)

そのようなことを頭の中でグルグル考えているうちに、ナオコさんは自分のことが急に気になり始めました。

(私が住んでいる自治体はどうなっているのかしら……)

(私より若い子育て中の世代の家族が増えている街だから、当分の間は自治体も介護保険の地域密着型サービスより子育て支援サービスの充実に力を入れるわよね……)

(かといってマンションを買っちゃったから気軽に引っ越せないし……)

(今、家を買うのがいいのか、借りるのがいいのか、テレビでよく討論をやっているけど、やっぱり家は借りたほうがいいのかなあ……)

ナオコさんは、ケアマネジャーに「どうしましたか?」と声をかけられてハッとしました。

(今は自分のことを気にしている場合じゃなかった……)

「いえ、なんでもありません。どうぞ続けてください」

ナオコさんがあわてて答えると、ケアマネジャーはこう言いました。

「では、ご自宅に戻るという方向で退院後の調整に入ってよろしいですか? それとも先々のことを考えて施設も少し検討してみますか?」

以前、伯母さんは「どこにも行きたくない」とナオコさんに訴えていました。今回もきっと「自宅に帰りたい」と言うでしょう。でも、念のために伯母さんの気持ちを聞いてみることになりました。

「あんなことがあって、一人で暮らすのは心細くなった」

と伯母さんがこう言いました。

「施設に入ることになるけど、いいの?」

ナオコさんが念押しをすると、伯母さんは小さくうなずきました。

(一緒に住んであげられなくて、ごめんなさい……)

認知症のため少しずつできないことが増えてきたうえに、足腰が弱ってきた伯母さん。

(人生100年時代とはいえ、長生きをするって大変だなあ……)

その心中を思うとナオコさんは伯母さんが不憫でなりません。

(よし! 最後まで伯母さんらしく過ごせる『終の棲家』を見つけるぞ!)

ナオコさんは、ねじり鉢巻を締め直したような気持ちになりました。そして、ソーシャルワーカーに調べてもらい、空きのあったグループホームの見学にさっそく出かけました。

実はグループホームといっても、いくつかのタイプがあります。また、施設によってできること、できないことがあるので、それらの特徴もよく知ったうえで選んでいく必要があります。次回はグループホームの情報を中心にお届けします。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック

解決策①
特別養護老人ホームに入所するには、原則、要介護認定が3~5でないとできないため注意しましょう。入所を希望する場合はケアマネジャーもしくは住んでいる地域の地域包括支援センター窓口に相談をして、複数の施設を下見したうえで本人の希望や相性も考えて選んでいきましょう。最初はショートステイを利用してみるのも一つの方法です。

解決策②
自治体のホームページに介護保険を利用できる施設の待機者状況を掲載する市区町村が増えています。施設探しの参考にしたいですが、リアルタイムで情報が更新されていないケースもあります。地域包括支援センターでも待機者状況を把握していることがあるので、必要に応じて問い合わせをしてみましょう。

解決策③
グループホームは介護保険の地域密着型サービスに該当するので、どんなに気に入ってもその施設が設置されている自治体に住民票がない人は利用できないので注意をしてください。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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