認知症とともにあるウェブメディア

アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

納得のいくケアプランをどう作る? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(4)】

東京で暮らすナオコさん(53)は、埼玉県内で暮らしをしている軽度の認知症の伯母ヨシエさん(83)が介護保険サービスを受けられるように準備を進めてきました。要介護認定を受け、ケアマネジャーを決め、いよいよケアプランの作成が始まります。認知症の人はどのようなことに気をつけてケアプランを組み立ててもらえばいいのでしょうか? 伯母さんのケースをもとに具体的なポイントを探ってみたいと思います。

ケアプラン作成……本人のこと、家族のこと、希望を事前にまとめておきましょう

ナオコさんは、担当のケアマネジャーから連絡をもらいました。伯母さんの日常生活の様子や困っていることを確認したうえで、本人や家族の要望を聞き、ケアプランの方向性について話し合いたいということです。

(ケアマネジャーさんと会う前に、どんなことを準備しておけばいいのかしら……)

要介護認定のための訪問調査の際、しっかり準備をしていなくて失敗した経験があるナオコさんは、こう思いました。ケアマネジャーとの話し合いを円滑に行い、納得のいくケアプランを作成してもらうために、認知症の人の家族が事前に準備しておきたい主なことは次のとおりです。

家族が事前に準備しておきたいこと

①地域包括支援センターの窓口でパンフレットなどをもらい、介護保険サービスおよび介護保険外サービス(介護保険サービスでは適用できない部分を補うサービスで家事代行サービスや外出支援サービスなど)の種類と内容についてあらかじめ調べておきましょう
②ケアマネジャーとの話し合いに備えてメモを作成しましょう
・本人の性格、職業、趣味、特技などの生活歴を書き出す
・朝起きてから寝るまでの日常動作の状況(布団の上げ下ろし、洗面、着替え、食事づくり、排泄、入浴など)を時系列で書き出し、その動作について本人ができること・できないことを具体的に記すようにしましょう
・本人が生活するうえで困っていること、家族が不安に思っていることを書き出しましょう
③本人や家族が希望している介護サービスを書き出しましょう

ナオコさんは、地域包括支援センターの窓口でもらったパンフレットに目を通し、介護保険によるサービスには「居宅サービス」、「地域密着型サービス」、「施設サービス」の3種類があることを知りました。

(この先、伯母さんの認知症が進んでいくことを考えると、グループホームか特別養護老人ホームに入所してもらったほうが私も安心だけど……)

ナオコさんは考えました。しかし、どこで生活をしたいのか、伯母さんの気持ちをそれとなく確かめると「私はどこも悪くないから、どこにも行かない」という答えが返ってきました。

ナオコさんは、ケアマネジャーと話し合うためのメモをとりあえず作成したものの、希望する介護サービスについては空欄のままで話し合いの当日を迎えました。ケアマネジャーは最初に認知症の人が受けられる介護保険サービスの種類と内容について説明してくれたので、ナオコさんは自宅でもさまざまなサービスが受けられることを理解しました。

それでも不安は消えません。

「認知症を患っているので、施設で暮らしたほうが安心だと思っていますが、伯母は自宅で暮らしたいと言っています。認知症で一人暮らしなんてできるのでしょうか?」

ナオコさんは正直に尋ねました。

すると、ケアマネジャーが説明してくれました。

「伯母様の場合は、自分でいろいろなことができなくなって不安になり、少し混乱されているので、できないことをサポートして生活を立て直してあげることで落ち着かれる可能性があると思います」

「でも、ご心配されているように認知症が進行すれば予測できないトラブルが起こる恐れがありますし、いずれ一人暮らしは難しくなります。よい施設が見つかるまでの間だけという気持ちで、在宅を選択されるご家族も多いですよ」

ナオコさんは伯母さんから「ナオコちゃん、私をどこにもやらないで……」と何度も懇願されていました。ナオコさんは決心しました。

(いろいろなサービスを入れてもらって当面は在宅でやってみよう。ダメならそのときに考えるわ……)

ケアマネジャーに居宅サービスを中心としたケアプランを組み立ててもらうことにしました。

「認知症で一人暮らしの方だからこそ、ご親族の方とは緊密に連絡を取らせていただきます。一緒に伯母様の生活を支えていきましょう」

ケアマネジャーはナオコさんを励ましてくれました。

どこまでサポート……自己負担も考え無理のないケアプランをつくりましょう

要介護2の判定が出ている伯母さんの生活を振り返ってみると、日常生活動作の多くは介助が必要な状態でした。一人暮らしのため安否確認も兼ねたサービスを頻回に入れたほうがいいというケアマネジャーの判断から、訪問介護員(ホームヘルパー)などが訪問して「身体介護」や家事面における「生活援助」を行う訪問介護(ホームヘルプサービス)と通所介護(デイサービス)を柱とするプランが提案されました。伯母さんの場合は次のとおりです。

月:朝/訪問介護 昼/配食サービス 夕/訪問介護
火:朝~夕/デイサービス 夕/訪問介護
水:朝/訪問介護 昼/配食サービス 夕/訪問介護
木:朝~夕/デイサービス 夕/訪問介護
金:朝/訪問介護 昼/配食サービス 夕/訪問介護
土:朝~夕/デイサービス 夕/訪問介護
日:朝/訪問介護 昼/配食サービス 夕/訪問介護

食事づくりに不安があったので、朝もしくは夕方の時間帯に1~2回の訪問介護のサポートを入れて、デイサービスがない日は配食サービスをお願いすることにしました。

ただ、週3日の配食サービスは介護保険外のサービスになるため、全額自己負担です。毎回かかるデイサービスの食費や活動費、介護保険サービスの利用料の自己負担金などを含めると毎月それなりの出費になります。幸いなことに教師だった伯母さんには十分な年金や貯蓄がありました。

(安否確認の費用だと思えば安いものだわ……)

ナオコさんはこう思いました。こうしてナオコさんはケアマネジャーと何度もやりとりをしながら納得のできるケアプランを組み立てましたが、同時に新たな不安も出てきました。

デイサービス……本人の希望や生活歴、症状も考慮して選びましょう

(ひきこもりがちの伯母さんが、デイサービスを利用してくれるのかしら……)

(自分のペースで暮らしてきた伯母さんが、毎日、家の中に他人を入れることができるのかしら……)

ナオコさんは自分が不安に思っていることをケアマネジャーに打ち明けました。すると、ケアマネジャーはデイサービスに関しては「自分から通いたいと思っていただけるように、伯母様が得意だったことや好きだったことができるようなデイサービスを探しましょう」と提案してくれました。そして、英語が得意で習い事が好きだった伯母さんの生活歴を考慮して、ヨガや絵画、英会話など多彩なプログラムを用意するカルチャースクールのようなデイサービスをいくつか見つけてくれました。

さらに、入浴の手順が分からなくなり、不安が先立っている伯母さんには一人でゆっくり入浴できる個浴設備のあるデイサービスのほうがいいと、アドバイスしてくれました。

また、「認知症対応型通所介護」というデイサービスがあることも教えてもらいました。従来のデイサービスより定員が少ない12人以下のため、利用者1人に対するスタッフ数の割合が多く、手厚いサポートが期待できます。例えば、レクリエーションだけでなく、一般住宅のような居室空間で洗い物や掃除などの日常生活の個別訓練を受けられるほか、ひきこもりの人に対してはスタッフがあらかじめ家庭を訪問し、慣れてもらってからデイサービスを開始するといった対応のきめ細かいことをする事業所もあるようです。

ただし、利用料が通常のデイサービスより高いため、伯母さんのように訪問介護など他のサービスをたくさん組み合わせたいときは、介護保険の支給限度額内でサービスを調整するのが難しくなり、場合によっては自己負担の費用が増えてしまうことがあります。また、「地域密着型サービス」に分類されるので、原則として住んでいる市区町村外の事業所で行われているものは利用できません。

訪問介護の回数……多いとヘルパーの固定化が難しくなる可能性

訪問介護の心配に関してはケアマネジャーからきっぱり言われました。

「同じようなことを心配されるご家族は多いですが、訪問介護を利用しないと伯母様の一人暮らしは成り立ちません」

「伯母様に拒否されないように最初はご本人が受け入れてくださるサポートから始めて、少しずつ信頼関係を築きながら提供するサポートを広げていきます。伯母様に受け入れてもらえるようにこちらも対応していきますので、ご安心ください」

ナオコさんは見通しがついたことで、少し不安が和らぎました。ただし、伯母さんのケアプランのように頻回に訪問介護を受ける場合、1カ所の訪問介護事業所では対応できないため、複数の事業所がかかわることになり、ヘルパーの固定化も難しいということでした。

(ぜいたくを言ってもキリがないわ。ヘルパーさんが多い分だけ、伯母さんとウマの合う人が見つかる可能性も高くなると思うことにしよう)

ナオコさんは気持ちを切り換えました。納得のいくケアプランを作成するうえではこんな考え方をすることも大事なようです。

伯母さんの生活を支える、いわば屋台骨のような支援は、介護保険サービスを中心に組み立てることができました。しかし、これで十分というわけではありません。伯母さんができるだけ住み慣れた家で暮らし続けるには、さらにきめ細かいサポートが必要です。次回は、各地域で取り組んでいる「介護保険外サービス」の利用法を考えてみます。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
不安や心配に思っていることは、ケアマネジャーに何でも正直に伝え、よく話し合ったうえでケアプランの方向性を決めることが大事です。

解決策②
地域のデイサービスのことはケアマネジャーがよく知っているので、本人の生活歴や認知症の状態に合った事業所をいくつか紹介してもらい、実際に体験してから本人が落ち着いて利用できそうなデイサービスに決めるのがよいでしょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

「project50s」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

この特集について

認知症とともにあるウェブメディア