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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

サービス付き高齢者向け住宅の情報はどこにある? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(11)】

ナオコさん(53)は、認知症の伯母ヨシコさん(83)の終の棲家となる施設を探す中で、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」という住まいがあることを知りました。この住まいは、自宅での生活が不安になってきた高齢者のために作られた賃貸住宅のようですが、どのような特徴があるのでしょうか? 認知症の人も利用できるのでしょうか?

サ高住……日中は介護福祉士などケアの専門家が常駐

ナオコさんは、サ高住の情報を集めるため、伯母さんが暮らす自治体にある最寄りの地域包括支援センターに出かけました。

「あのう、サ高住について詳しいことを知りたいのですが、パンフレットはありますか?」

ナオコさんは窓口の職員に尋ねてみました。すると職員は自治体が作成している高齢者の住まいに関する冊子を開きながらアドバイスしてくれました。

「ここにサ高住のことが少し書かれていますが、都道府県の担当課(高齢社会課など)や民間が運営する有料老人ホーム入居相談センターなどに問い合せたほうが知りたい情報を得られると思います」

(高齢者の住まいだと地域包括支援センターにはあまり情報がないのね……)

ナオコさんは少し残念に思いました。

サ高住とは2011年10月に施行された「高齢者住まい法」に基づいて創設された住宅のことで、厚生労働省と国土交通省が共管しています。この制度が発足して以来、サ高住は基本的に増え続けており、2023年3月末現在、全国に約8200棟(約28万戸)が整備されています。

サ高住の設備は、原則として25平方メートル以上の専用部分に加え、台所、水洗トイレ、洗面、浴室、収納を備え、室内はバリアフリー対応となっています(*1)。また、日中は介護福祉士などケアの専門家が常駐し、安否確認や生活相談サービスを行っていますが、その内容は施設によって異なります。

*1…居間、食堂、台所、その他の住宅の部分が共同利用するための十分な面積を有する場合は専用部分の床面積は18平方メートル以上。共用部分に共同利用できる台所、収納、浴室を備え、各戸にある場合と同等の居住環境が確保される場合は各戸に備えなくても可能。

長期入院したら……事業者が入院を理由に一方的に解約できない仕組み

(高齢者の住まいという位置づけらしいけど、終の棲家になるのかしら。医療的処置が必要になれば退所を求められるのでは……)

ナオコさんは不安になりました。

サ高住の契約には賃貸借方式と利用権方式(*2)があります。いずれの場合も長期入院などを理由に事業者が一方的に解約できないことになっており、高齢者の居住の安定が図られた契約内容となっています。

*2:「賃貸借方式と利用権方式」…賃貸借方式は一般のアパートやマンションと同じように賃貸借契約となり、借地借家法によって借主の権利が守られています。利用権方式は居室や共用スペースを利用できる権利と食事や介護などのサービスを受ける権利を契約するものです。

そして、サ高住の最大の特徴は入居者が自宅にいるときと同じように介護保険の居宅サービスが利用できることです。そのため、介護が必要な状態でも介護保険の居宅サービスや地域の介護保険外サービスを上手に組み合わせることによって、サ高住で暮らし続けることが可能です。

国土交通省の「第5回サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会資料」(2020年12月)によると、運営情報を提供してくれた事業者のデータでは、85歳以上の人が57.3%、75~84歳の人が30.8%となっています。要介護度別でみると、要介護1~2の人が全体の約4割を占めています。要介護3以上の重度者も全体の3割強です。

重度認知症について、「応相談」(対応実績あり+対応実績なし)のサ高住が50.7%ですが、「応相談」(対応実績あり)だけをみると38.0%です。平均要介護度が高いサ高住では「応相談」(対応実績あり)とする比率が高く、平均要介護度1未満のサ高住では「対応なし」とする比率が高いようです。

●国土交通省の「第5回サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会資料」

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001381203.pdf

「認知症の高齢者を受け入れてくれるサ高住がたくさんあることを知って安心したわ」とナオコさんは胸をなでおろしました。

しかし、ナオコさんが最も懸念しているのは、サ高住が終の棲家になり得るかということです。

認知症や看取りへの対応……目安の1つは職員体制や併設施設の情報

(認知症の高齢者を受け入れてくれる、そして死ぬまで面倒をみてくれるサ高住の情報はどこで入手できるのかしら……)

このような情報が知りたい場合、すでに介護保険を利用している人は担当のケアマネジャーにまず尋ねてみるといいでしょう。また、サ高住を運営する事業者は都道府県などに登録することが義務づけられており、その登録内容は一般社団法人すまいづくりまちづくりセンター連合会が運営するウェブサイト「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」で公開されています。一般の人も閲覧することができます。

●「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」

https://www.satsuki-jutaku.jp/

ナオコさんもさっそく「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」を使って、伯母さんが暮らす地域のサ高住を検索してみました。すると18件のサ高住がヒットしました。この中に認知症の人を受け入れてくれたり、看取りまで対応してくれたりする施設はあるのかしら? ナオコさんはサ高住別に掲載されている情報をていねいに確認していきました。

このサイトには、施設ごとに年齢層別人数分布、男女別人数分布、要介護度分布をはじめ、夜間を含めた職員の配置状況、保有資格、緊急通報サービスの状況といった情報とともに重度の認知症や看取りへの対応についても掲載されていました。

(うーん、ネットの情報では概要しかわからないわ。もっと詳しいことが知りたいならそれぞれのサ高住に直接連絡して確かめるしかないわね。それにしても実績に加えて安心できる目安になるものはないのかしら……)

こんなとき、目安の1つになるのが職員体制や併設施設です。「認知症への対応可」「看取りの実績あり」というサ高住では、夜間職員の配置率(夜勤の配置率)が高いことが分かっています。また、看取りの実績があるサ高住では「訪問看護ステーションを併設している」「医療機関との協力や連携体制を整備している」という傾向があります。これらの点についても確認してみましょう。

サ高住の入居費用……敷金、家賃・サービス費のみで介護や医療の費用は別

(それにしてもサ高住の場合、費用はどのくらいかかるのかしら……)

サ高住の入居に関する費用は、敷金、家賃・サービス費のみと定められています。したがって権利金や契約更新料、礼金などの費用は必要ありません。前払金を支払う場合も入居者が不利にならないよう契約に関して配慮されています。

また、介護保険による居宅サービスを利用する場合は利用料の自己負担分(1~3割)を支払うことになり、介護保険外のサービスを利用する場合も別途費用が必要です。

(グループホームと同じくらいの費用がかかると考えておいたほうがいいわね……)

とナオコさんは思いました。

ナオコさんは認知症の伯母さんの終の棲家としてグループホームとサ高住の2つの施設を絞り込み、担当のケアマネジャーとじっくり相談しました。そして、最終的にサ高住を選択しました。グループホームは居宅サービスではないため、これまでのケアマネジャーからグループホームに所属するケアマネジャーに変更しなければならないことにナオコさんはひっかかったのです。

その点、サ高住はケアマネジャーを変更する必要はなく、入院前と同じように居宅サービスを提供してもらえるメリットがあります。また、自宅と同じように複数の事業所のスタッフが出入りするので、密室でのトラブルは起こりにくい面もあります。

ナオコさんがケアマネジャーの力を借りて探し出してきたのは、在宅医療専門クリニックが運営するサ高住です。オープンして日が浅かったことから運よく部屋が空いていました。さっそく見学し、部屋の間取りもサービスも、そして肝心の費用も納得できるものでした。隣の自治体にあるため、主治医を変更しなければなりませんでしたが、新しい主治医からこう説明を受けました。

「伯母様の体調が悪くなったときは必要に応じて地域の医療機関や福祉施設と連携して対応しますし、看取りも訪問看護ステーションと組んで積極的に行っていきます」

ナオコさんは心の底から安堵しました。

こうして認知症の伯母さんは安心して暮らせそうな場所を見つけることができました。しかし、ナオコさんの仕事が終わったわけではありません。そうです。伯母さんには持家と財産があります。この処分と管理をどうするのか? このお話は次回に続きます。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
サ高住によっては台所、収納、浴室は共同で利用する場合があります。また、提供する介護・医療・生活支援サービスも費用も施設によって異なります。「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」でこれらの情報を得て、複数のサ高住を比較検討するとともに、必ず見学や体験入居して納得のいく選択をしましょう。

解決策②
医療的処置や認知症の人を受け入れてくれるサ高住は人気が高く、空きがないことも予測されます。さらに、看取りまで対応できるサ高住は少ないので、時間がかかってもいいように早めに動きましょう。

解決策③
「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」を利用して認知症の人を受け入れてくれたり、看取りに対応してくれたりするサ高住を探しましょう。その際、実績に加えて目安になるのが①夜間職員の配置率が高い、②訪問看護ステーションを併設している、③医療機関との協力や連携体制を整備しているといった点です。電話で施設に詳細を確認するとき、これらの項目も確認しておくとより安心です。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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