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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

一人暮らしの伯母さんがMCIか認知症かも まず何をすべき? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(1)】

初夏の風が心地よいと感じられるのは、3年ぶりにマスクを外した日常を取り戻したからかもしれません。東京・品川のオフィスに通勤するようになった会社員ナオコさん(53)に、LINEでメッセージが届きました。実家の愛媛県で悠々自適の生活をしている母親ミサコさん(80)からでした。

「ナオコ、この頃、ヨシエ姉さんの様子がおかしいらしいの。一度、見に行ってちょうだい」

プロローグ

ヨシエさん(83)は母親ミサコさんの3歳年上の姉、つまりナオコさんの伯母さんです。埼玉県内で一人暮らしをしています。老化に伴う認知機能の低下ではなく、どうやらMIC(軽度認知障害)か軽度の認知症のようです。独身できた伯母さんにとって親族で近くに暮らすのは、東京都内で共働きの夫と大学生の娘2人と暮らすナオコさん一家だけです。厚生労働省によると、2025年には高齢者の5人に1人の約700万人が認知症になると予想されています。アラフィフ、50代にとって、ナオコさんは他人事ではありません。このようなとき、私たちはどのようにサポートしていけばいいのでしょうか? 一緒に考えていきましょう。

一人暮らし……行き来を控えて気づくのが遅れていませんか

ある夜のこと、ナオコさんのもとに母親からLINEのメッセージが届いていました。

「ナオコ、この頃、ヨシエ姉さんの様子がおかしいの。一度、様子を見に行ってちょうだい」

伯母さんは中学の英語教師として定年まで勤め上げ、その後は得意の英語を生かして外国人旅行者向けの観光ガイドを不定期でしたり、写経をしたりするなど、少なくとも新型コロナウイルス感染症のパンデミック前までは、はつらつと過ごしていたはずでした。

東京と埼玉という距離ですが、ナオコさんも仕事で責任ある立場になり、娘たちも大学生となりそれぞれの生活を楽しむようになっています。コロナ禍で高齢の伯母宅を訪れることを控えていました。実家の愛媛で暮らす母親と伯母さんの間も、行き来が途絶えていました。

母親のところには、伯母さんの隣人から電話がありました。

隣人によると、日に何度も同じことを言ってきたり、ゴミ出しの日を尋ねてきたりするらしいのです。また、家にひきこもったままで出かける気配がないということでした。思い返せば、このような異変は少し前からあったようです。しかし、コロナ禍でお互いに接触しないように過ごしてきたため、近所つき合いも疎遠になってしまっていたので気づくのが遅れたようです。隣人は母親に何度も「ごめんね、気づくのが遅れて」と電話の向こうで謝っていたそうです。

伯母さんは一人暮らし。独身だったので、夫や子どもはいません。ナオコさんが大学に通うために18歳で上京して以来、伯母さんは親代わりでした。だから、ナオコさんも母親のLINEのメッセージを既読スルーにするわけにはいきません。ナオコさんは日曜日、電車で40分かかる街にある伯母さんのマンションに様子を見に行きました。

「伯母さん、どうしちゃったの?」

ナオコさんはリビングルームのドアを開けるなり、絶句して立ちすくんでしまいました。部屋の中は新聞や雑誌、食品、衣類が散乱し、部屋の隅にはトイレットペーパーの袋が10個ほど積まれていました。整理タンスの引き出しには靴下や下着が無造作に突っ込まれており、伯母さんの体をよく見ると、あざだらけになっていました。

受け答えはしっかりしているものの、伯母さんの様子が明らかにおかしいのはナオコさんにもわかります。

(ひょっとして認知症かも……)

ナオコさんは嫌な予感がしましたが、とりあえず伯母さんを病院に連れて行くしかありません。

「認知症は、どの診療科が診てくれるのかしら?」

ナオコさんはまずここで問題にぶつかりました。

何科を受診すればいいのか……「もの忘れ外来」や「認知症外来」も増えています

認知症の診断や治療を主に担当するのは、精神科、神経内科、脳神経科です。近年は一般の人に分かりやすいように「もの忘れ外来」や「認知症外来」を標榜する医療機関も増えています。家族会の全国組織である「公益社団法人認知症の人と家族の会」のホームページでは「全国もの忘れ外来」のリストを、「日本認知症学会」のホームページでは「認知症専門医がいる施設」や「認知症専門医」のリストを公開しています。

情報の入手先例

●公益社団法人 認知症の人と家族の会のHPで検索できる「もの忘れ外来」のリスト
http://www.alzheimer.or.jp/?page_id=2825
●日本認知症学会のHPで検索できる「認知症専門医がいる施設」のリスト
https://square.umin.ac.jp/dementia/g2.html

厚生労働省では、各地域のかかりつけ医と認知症の専門医療機関との連携がスムーズにいくようにこれまで「認知症サポート医」の研修を進めてきました。内科、精神科、神経内科といった診療科の医師のほか、在宅医療を専門に行う医師など多様です。研修を修了した医師は全国で約12000人になります。認知症が疑われる患者さんの中には専門外来の受診を拒む人もいます。そのような場合、最初に認知症サポート医に相談するといいでしょう。都道府県ごとに自治体や医師会が地元の認知症サポート医の情報をホームページで公開しています。各市区町村に設置されている「地域包括支援センター」(*1)に問い合せると教えてもらえることもあります。

*1:地域包括支援センターは、2005年の介護保険法改正により創設された機関で、保健師、ケアマネジャー、社会福祉士が連携して介護予防マネジメントなどの業務を総合的に行います。市区町村ごと、居住地ごとに設置されています。専門職がいる事業者(社会福祉協議会や介護サービス事業者など)に委託されているケースも多いです。

情報の入手先例

●【東京都のケース】とうきょう認知症ナビで検索できる「認知症サポート医」のリスト

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/soudan/iryou_kikan/support_meibo/index.html

不安で受診拒否……人生100年のための健康チェックと考えてみませんか

さて、ナオコさんの伯母さんも案の定、専門外来への受診を拒否しました。「私はどこも悪くない」と言い張る伯母さんを「人生100年のための健康チェックと思って診てもらいましょうよ」とナオコさんは説得し、かかりつけの内科クリニックを受診しました。

かかりつけ医の診断によると、やはり軽度の認知症が疑われるということで専門医療機関への紹介状を書いてくれました。伯母さんは少し不満そうでしたが、ものわかりがいいことを自分の長所だと思っている節もあり、かかりつけ医の指示に従ってくれました。

「なんとか一人暮らしをしているけれど、できないことも増えているようだし、介護保険の要介護認定を受けて、生活支援を受けたほうがいいですよ」

伯母さんの生活の状況をていねいに聞き取ってくれたかかりつけ医からアドバイスをもらいました。

訪問調査や医師の意見書……見栄を張らずに正確に話しましょう

「介護保険の申請ですね。分かりました」

とは言ったものの、ナオコさんは介護保険の手続きについて知りませんでした。とりあえず市役所の介護保険課に電話をして申請方法を教えてもらいました。同時に、介護保険サービスに関する情報提供や相談は地域包括支援センターで受け付けていることも案内されました。ただ、自治体から派遣される調査員によるチェックのほか、主治医の意見書を提出して審査会で専門家の判断が必要になるため、申請してから要介護認定がされるまでに2カ月近くかかることがあると聞かされたナオコさんは気持ちが焦ってしまい、ついこう思ってしまいました。

(介護保険の認定を受けないことには何も始まらないわよね。相談は後回しでいいかも……)

こうして、ナオコさんは要介護認定のための申請書を作成し、介護保険の被保険者証(65歳以上の第1号被保険者全員に交付)を添えて介護保険課の窓口に提出しました。申請書は市役所のホームページからダウンロードでき、郵送による申し込みも可能で、離れたところに暮らしフルタイムで働いているナオコさんにとっては有り難い仕組みです。そして、申請後まもなく介護保険課から「利用者のかたの心身の状態と生活の様子を確認するために訪問調査を行います」と電話連絡がありました。

(人が来るなら、家の中をちょっと掃除しておかないと恥ずかしい……)

ナオコさんは娘2人を動員し、半日かけて伯母さんの家のリビングを整え、訪問調査員を迎えました。

「自分で部屋の掃除ができますか?」

訪問調査員の質問に伯母さんは自信たっぷりに答えました。

「ええ、もちろんです。今日もきれいに片付いているでしょう」

申請から1カ月半――。伯母さんのもとに介護保険の要介護認定の結果通知が届きました。判定は「要支援2」。介護保険の対象ですが、要介護状態が軽く、生活機能が改善する可能性の高い人などです。日常生活の一部に介助が必要ですが、適切にサービスを利用すれば改善する見込みの高い人です。

要介護認定……受けたいサービスが受けられず納得いかないときの次善の策

(えっ、伯母さんは何日もお風呂に入らなかったり、トイレットペーパーを大量に買い込んだりしているのに要介護1に該当しないの……)

ナオコさんはインターネットで見ていた「要介護例」の表と判定結果を見比べて驚きました。納得ができません。

(要支援2では受けたいサービスが受けられないかもしれない……)

ナオコさんは急に不安になってきました。実はナオコさん、介護保険の要介護認定の申請手続きで痛恨のミスを冒してしまったのですが、本人はそのことに気づいていません。ナオコさんのミスはなんだったのでしょうか?

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
認知症の診断や治療を主に担当するのは、精神科、神経内科、脳神経科です。「もの忘れ外来」や「認知症外来」などの専門外来を受診するのもいいでしょう。

解決策②
患者さんが専門外来の受診を拒む場合は、最初に認知症サポート医や認知症研修を修了したかかりつけ医に相談するといいでしょう。これらの医師の情報はインターネットや地域包括支援センターで入手できます。

解決策③
少しでも長く一人暮らしを続けるためには、認知機能が低下してきて自分でできないことが増えてきたら、介護保険の要介護認定を受けて生活支援を受けるようにしましょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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