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好きなものを食べてやせられるのか? 大学教授と管理栄養士が出した結論~その1~

マンガ・木村いこ

更年期を経て代謝が落ち、コロナ禍で在宅ワークかつ運動せずに過ごしていたら、あっという間に人生最大の体重を更新してしまった――。こんな書き出しで始まる『好きなものを食べてやせる食生活』(池田書店)の著者、堀口逸子さんと平川あずささんに会いました。アラフィフや50代と一緒にWell-Being&Social goodを考える「project50s」の主要テーマに重なります。ミドル世代である歯科医師で医学博士の大学教授である堀口さんと管理栄養士の平川さんのお話からは「ゆるやかにしっかりやせる」方法と、ちまたにあふれるダイエット本の注意点が浮かび上がってきました。3回に分けてお伝えする記事の初回「大学教授と管理栄養士が出した結論~その1~」は、入院2カ月で気づいた更年期世代のやせ方です。

運動ゼロでやせられることへの気づきは入院がきっかけ

堀口逸子さん(以下、堀口さん):更年期になると代謝が落ちますよね。そうすると、あっという間に太ります。世の中には、いろいろなダイエット本がありますが、代謝がまだ豊かな世代の人たち向けのものが多いです。20代や30代の人が「こうしたらやせました」という本が目立ちます。

――アラフィフや50代の人たちは、基礎代謝が落ちているので、目線を変えないといけないっていうことですね。

堀口さん:そう思います。同世代の子育てがひと段落した人たちは、時間に余裕がでてきたかもしれませんが、20代や30代のときのようにスポーツができるかと聞かれると、多分クエスチョンマークが浮かぶと思います。私がこの本を書くきっかけとなったのは、両足の骨折です。

――どういうことで両足を一度に骨折したのですか。

堀口さん:よく行くワインバーで食事をしていたのですが、電話がかかって来たので自動ドアから道路に出て話そうとしました。ドアからまっすぐ道路に降りていけば良かったのですが、人の邪魔になったり、車にぶつかったりしたら嫌だなと思って右側に降りました。そこに段差があって両足を骨折しちゃいました。

――入院ですね。

堀口さん:手術しました。リハビリを含めて、この入院期間中に2キロやせたことをきっかけに本を書いたんです。両足を骨折しているから、当時の私は動き回ることができません。リハビリもありましたが、動き回れない生活を強制的に2カ月続けていたら2キロやせたということは、この食事を続けていれば少しずつやせていくんじゃないかと思ったんです。毎日、スマホで食事を撮っていたんですが、その写真を見かえしていくと、入院前の食生活は食べ過ぎていたということに気づいたんです。

――整形外科系のけがでの入院なので、病院内のレストランや売店に行ったり、来訪者からの差し入れも食べたりできますよね。

堀口さん:両足骨折での松葉杖でのリハビリは、女性は筋力が男性よりもないから、松葉杖で肩を痛める人が多いそうです。私も日に日に肩が痛くなり、五十肩になり、右手しか自由にならないという感じでした。それで車いすに乗るにも難儀して、リハビリ以外は病室にいました。

平川あずささん(以下、平川さん):かわいそうでした。

堀口さん:コロナ禍だからお見舞いの人も来られません。レストランは閉まっていました。私は家族がいるわけでもないので差し入れはありません。結局、病院食オンリーなんですけど、入院していた2カ月間で「これでいけるんじゃないか」っていう感覚をもてたのがよかったと思います。「動けない」っていうことがポイントなのです。

平川さん:だから「運動ゼロ」が前提なのです。

【ちょっとちら見せ!】堀口さんの食事のビフォー・アフター

更年期で代謝が落ちてくると消費エネルギーも減って太ってしまう

堀口さん:私、ストレス満載の40代前半のときに早期閉経しちゃったんです。更年期の状態にスパッとなったんです。それで同じ食生活をしていたら1カ月で体重が5キロ増えてしまいました。

――食生活は急に変えられないんですね。

堀口さん:変えられないというか、それで太るという感覚がないから、そのまんまの食生活をしていました。かつ運動量も変わらない。これがいわゆる「代謝が落ちる」っていうことだと自覚できたんです。

――堀口さんは、歯科医師の資格を持つと同時に医学博士でもあります。公衆衛生学が専門ですよね。医学的や栄養学的な知識も持っていたんですか。

堀口さん:栄養学的な知識は皆無です。この本を書いた理由の一つにもつながってきますが、1日に必要な「カロリー」は知っていますが、それを自分の食生活で具現化できないんですよ。食べているものについて、「これ、何カロリー?」と聞かれても分かりません。人間は面倒くさいことをしたくないし、私の場合は外食も多いので、知識はある程度あっても自分の食生活に当てはめられないんです。

カロリーも、「1日の摂取量の目安が○○カロリー」というのが基本だと思いますが、それをどう3回の食事に分けるかということになりますよね。いわゆる栄養士さんたちがよくいう「一汁三菜」のスローガンも、カロリーのコントロールは皆無ですよね。要するにあのスローガンは「いろいろ食べましょう」とか「バランス良く食べましょう」とかいうことだと思うんです。

だから、平川さんと話していて、昔、「30品目食べましょう」っていっていたのは「バランスを取ってください」という専門家の気持ちが「1日30品目」という言葉に現れたものであり、「こういえばみんなに分かりやすい」と思った言葉なのだと分かりました。でも、30品目食べることによって食べていた量の上乗せになったら、カロリーは増えますよね。

堀口逸子さん

平川さん:堀口さんは更年期になると代謝が変わってくるとお話されましたが、私たち管理栄養士は栄養学的に考えていくので、代謝っていうことを「エネルギーの出納」として考えます。エネルギー(カロリー)の摂取と、消費したエネルギー量で体重の増減が決まってくるという考え方が基本です。エネルギー摂取、食べている量は変わらないけれど、更年期で代謝が落ちてくるから消費エネルギーがどうしても減ってきてしまう、という見えない部分で気づかないうちにアラフィフの人たちはじわじわと太ってきてしまうという現象があります。

若いころ、20代ならこの摂取と消費の出納の関係なら、普段通りの生活で運動を増やさなくても、食事の回数や量を減らせば簡単に体重を落とせました。しかし、摂取カロリーを減らすと、今度は体の方が「こんなに栄養が入ってこないのだったら節約しなくちゃいけない」という「飢餓モード」に入ってくるわけです。そうするとアラフィフはただでさえ代謝が落ちているのに余計に代謝が悪くなるし、燃やすより蓄えるほうにシフトしたり、悪循環が起こる負のスパイラルに陥りやすかったりするのが更年期だと思います。

堀口さんの話を聞いていて一致したのは、エネルギーの出納のみで考えるということは無理ということです。というのも、摂取カロリーは同じ料理を食べても、同じ写真の料理を見ても、例えば「サラダはヘルシーだから食べましょう」と思ってサラダを食べるにしても、卵やチキンやツナが入っているサラダもあれば、ナッツや海藻のサラダもあって、サラダひとつを例にとってもエネルギーはだいぶ違います。それにドレッシングをどれぐらいかけたかによって変わります。ヘルシーなサラダと言って思い浮かべるサラダも人それぞれで同じエネルギーではないということ。そういうことを考えるときりがなくなります。堀口さんと話していて、「栄養士さんがいう話はやる方には伝わらない」というのはこういうことなのだと気づきました。

堀口さん:やれないんです。栄養士さんの説明は、理解はできるけど自分の食生活に反映できないんです。

平川さん:「一汁三菜を食べましょう」っていわれても、人によって盛り付けている分量が違うし、さらに油がかかっているか、かかっていないかとか、揚げ物か揚げ物でないかとか、いろいろ違いますよね。また、堀口さんから「腹八分にしてください」ってよくいわれると聞きましたが、「腹八分」って自分の感覚、主観的なものなので、人によって腹八分が全然違ってきます。食欲が旺盛な人と、そうでない人では「腹八分」と思える量が違ってきます。肥満になっている時点で感覚はズレている可能性もあるのに、こういう曖昧な感覚で食事をコントロールするのはとても難しいことだということを、堀口さんとやり取りする中で初めて気づきました。

◆近日公開、「運動ゼロでカロリーを考えずにやせられるのか? 大学教授と管理栄養士が出した結論~その2~」にづづく。

【ちょっとちら見せ!】

堀口逸子さん(ほりぐち・いつこ)

東京理科大学薬学部教授。前内閣府食品安全委員会委員。長崎大学歯学部卒業。歯科医師。長崎大学大学院医学系研究科博士課程公衆衛生学専攻修了。博士(医学)。専門は公衆衛生学、リスクコミュニケーション。

平川あずささん(ひらかわ・あずさ)

管理栄養士。博士(生活科学)。内閣府食品安全委員会事務局・技術参与。食生活ジャーナリスト。大妻女子大学大学院人間生活科学専攻博士課程修了。専門は食育・栄養教育。

出版社・池田書店
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