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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

認知症の人が利用できる介護保険以外のサービスは? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(5)】

ナオコさん(53)は、ケアマネジャーとLINEのメッセージやメールのやり取りを重ね、軽度の認知症の伯母ヨシエさん(83)の生活を支えるケアプランを作成しました。介護保険によるサービスは始まりましたが、これで十分ではありません。伯母さんだけではなく、離れて暮らすナオコさんも安心して見守れるようにするためには、どのようなサービスを加えていけばいいのでしょうか? 介護保険外サービスを中心にナオコさんと一緒に考えてみましょう。

サービスの導入……生活のリズムを取り戻すことで落ち着くこともあります

伯母さんは最初、ヘルパーが家の中に入ってくることを嫌がっていましたが、家事をすることがおっくうになっていたこともあり、やがてヘルパーを受け入れるようになりました。

心配していたデイサービスは、スムーズに通い始めることができました。英語が得意で習い事が好きだった伯母さんの生活歴を考慮し、体験入所をしたうえで選んだことが良かったようです。生活に規則正しいリズムが戻ってきたことで、伯母さんは落ち着きを取り戻していきました。

「デイサービスでダンスを楽しんだ日はよく眠れるとおっしゃっていますよ」

ケアマネジャーから報告を受けたナオコさんは少し安心しました。

生活上の工夫……経験豊富なケアマネは知恵袋と思ってアイデアを引きだしましょう

ただし、伯母さんの認知症が改善したわけではありません。デイサービスに出かける日は朝のホームヘルプサービスが入りません。ヘルパーが前日の夕食の準備とともに朝食をセットしてくれるのですが、食事したことを忘れてしまう伯母さんは、夕食を食べた後に朝食も食べていたことが発覚しました。

そこでケアマネジャーとヘルパーが相談して、朝食セットの横に朝8時にアラームが鳴るように設定した目覚まし時計を置き、「これは朝食です。アラームが鳴ったら朝食をお召し上がりください」と張り紙をしておくようにしました。几帳面だった伯母さんにはこの方法が案外合ったようで規則的に食事ができるようになりました。

家にいる日は熱中症が心配です。とはいえ、電気代の高騰のため、熱中症予防だからといってエアコンのスイッチを入れたままにすることもできません。そこで考えたのが、ヘルパーがあらかじめ室温を設定し、リモコンの「ON」と「OFF」のボタン以外は紙を貼って隠すことで、伯母さんがリモコンを簡単に操作できるようにしてみました。

ナオコさんは、こうした工夫の数々をケアマネジャーから教わったことで、「いろいろな認知症の人をサポートしているだけあって、実際に役立つ方法をたくさん知っているわね」と納得しました。そして、認知症の人に適切に対応するためには、本人ができること、できないことをきちんと把握することが基本なのだとあらためて思いました。

その一方で、ナオコさんはヘルパーのある言葉が気になりました。

「デイサービスがない日は、一日中テレビの前に座っていらっしゃるようです。そういう日はあまり眠れないようで、夜中に家の中をウロウロされているみたいです」

習い事が大好きだった伯母さんは、デイサービスに喜んで出かけています。ナオコさんはできれば毎日行かせたいと思っていました。しかし、介護保険サービス内ではデイサービスの回数を増やすことができません。ケアマネジャーに相談すると、ある提案をしてくれました。

「自費になりますが、週1回、訪問介護サービスを追加しませんか? 伯母様は買い物がお好きなようです。ヘルパーさんと一緒に外出してみてはどうでしょう。買い物は適度な運動にもなるので、よく眠れるようになると思うのです。昼間に体を動かしておくことは大切ですから」

ケアマネジャーによると、全額自己負担となる介護保険外のサービスは、ヨシエさんが暮らす地域の事業者の場合、1時間数千円かかるそうです。ナオコさんは伯母さんの意向も確認し、2時間のサービスを頼むことにしました。子どもや配偶者がいない年金生活の伯母さんにとって、支出が増えることには慎重にならざるをえません。しかし、伯母さんが少しでも好きな買い物に行けるような環境を整えると、とても嬉しそうでした。ヘルパーが外出支援として同行しているため、以前のように同じものをいくつも買い込んでしまう心配はありません。

判断能力低下のときは……社会福祉協議会に相談してみましょう

年金を受け取るための手続きや医療費、家賃などの支払い、預貯金の払い戻しなど日常の金銭管理が難しくなったときは、社会福祉協議会が行っている「地域福祉権利擁護事業」を利用する方法もあります。判断能力が十分でない人を対象に、利用者との契約に基づき、地域で安心して暮らせるように福祉サービス利用援助を中心として、日常的な金銭管理サービス、重要書類の預かりなどの支援を社会福祉協議会で実施しています。専門員や生活支援員がサポートし、契約の相談や支援計画の作成などは無料ですが、各種の支援サービスには利用料がかかります。

●社会福祉法人 東京都社会福祉協議会「地域福祉権利擁護事業」

https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/kenriyougo.html
リーフレット
https://www.tcsw.tvac.or.jp/activity/documents/1803panphlet.pdf

居場所……「地域サロン」「認知症カフェ」の利用も考えましょう

さらにケアマネジャーは、デイサービスがない日の午後に出かけられる場所として地域の住民ボランティアが運営している「地域サロン」(通いの場)を探してきてくれました。これは市区町村の地域支援事業の一つとして行われているもので、介護を必要とする高齢者だけでなく、学童保育を利用できない子どもたちも受け入れるにぎやかな場所でした。伯母さんの家から少し遠いのですが、近所に住んでいるボランティアの人が車で送り迎えしてくれることになり、伯母さんも参加できることになりました。

「英語教師として働いていたと話したら、サロンのボランティアの人から子どもたちに英会話をぜひ教えてほしいと頼まれてね。来月から始めることになったの」

伯母さんはナオコさんに思いも寄らないことを報告してくれました。英会話を仕事として行うわけではありませんが、伯母さんの生活歴も理解してくれたうえで地域の人たちが温かく受け入れてくれているようです。

ナオコさんの伯母さんが利用する「地域サロン」(通いの場)のような場所は年々増えてきています。こうした居場所は、名称もさまざまです。

ただ、ケアマネジャーからはこうも言われました。

「症状によっては『認知症カフェ』の方がいいかもしれないので、様子をみながら無理のない選択をしていきましょう」

「認知症カフェ」は、認知症の人やその家族、知人、医療やケアの専門職、認知症について気になる人などが気軽に集まり、交流を楽しむ場所です。家族会や社会福祉法人、自治体、NPO法人などによって全国の自治体で開設されています。認知症の人は家に閉じこもりがちになってしまう傾向があり、認知症の人が認知症カフェに通うことで孤立してしまうリスクを減らすことができます。これは家族にとっても言えることです。

徘徊への備え……感知器や位地情報サービスの利用も考えましょう

一方、ナオコさんは今後、伯母さんの認知症が進んで一人歩きの症状が出たときの対応にも不安を抱えています。

(認知症のお年寄りが行方不明になったニュースを聞くと他人事とは思えないもの……)

介護保険サービスの中には福祉用具を借りられるサービスがあります。要介護2以上なら「認知症高齢者徘徊感知機器」をレンタルすることができます。いろいろな機器が開発されており、ベッドから離れたときに知らせてくれるもの、ドアや玄関を通過したときに知らせてくれるもの、本人が携帯して知らせてくれるものなどがあります。

また、介護保険外では「認知症高齢者位置情報提供サービス」というものもあります。GPS機能が付いた機器を貸与し、認知症の人の行方がわからなくなってしまったときに位置情報を提供するサービスです。助成をしている自治体も多いようです。

「伯母様に徘徊の恐れが出てきたら、このような機器も上手に使って不慮の事故から守るようにしましょう。また、この地域では認知症の人が行方不明になったとき、警察やタクシー会社、コミュニティラジオ局が協力して探すネットワークが構築されています。伯母様もその必要性が出てきたら、もしものときに備えて捜索依頼登録をするといいですよ」

ケアマネジャーが的確なアドバイスしてくれました。このようなネットワークは「徘徊・見守りSOSネットワーク」と呼ばれ、各地で自治体や社会福祉協議会が中心となり、地域のさまざまな機関と協力しながら徘徊対策を展開しています。

「探してみると、介護保険以外にもいろいろ利用できるサービスがあるのね」

ナオコさんは少し不安が和らぎました。ポイントはこれから地域の住民ボランティアのサービスを上手に組み合わせて利用することだと思いました。

こうして伯母さんは、軽度の認知症を抱えていても地域の中で何とか暮らしていけるようになりました。しかし、高齢者の一人暮らしにはいろいろな危険が潜んでいます。伯母さんの身の上にも、とうとう恐れていたことが起こってしまいました。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
認知機能の低下が原因で起こる日常生活の問題は、ケアマネジャーやヘルパーなどの知恵を借りながら上手に乗り切るといいでしょう。

解決策②
デイサービスがない日も活動的に過ごせるように、必要に応じて介護保険外サービスを利用しましょう。生活にメリハリをつけることは夜中の一人歩きを防止するうえでも大切です。

解決策③
「地域サロン」(通いの場)や「認知症カフェ」にも注目し、毎日何らかの支援を受けられるようケアマネジャーと相談しながらケアプランを充実させていきましょう。

解決策④
「徘徊感知機器」「認知症高齢者位置情報提供サービス」「徘徊・見守りSOSネットワーク」などを積極的に利用し、認知症の人を不慮の事故から守れるように備えましょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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