認知症高齢者の日常生活自立度とは?判定基準や調査の流れをわかりやすく紹介
取材/中寺暁子
認知症高齢者の日常生活自立度は、認知症の高齢者が、どの程度自立して生活できるのかを9つのレベルで評価する指標です。要介護認定の際に参考値として活用されるため、適正な判定を受けることが大切です。本記事では、判定の基準やどのように判定していくのかを示すフローチャートなどを紹介します。
認知症高齢者の日常生活自立度とは
高齢者の認知症の程度をふまえて、どの程度自立して生活できるのかを評価する指標のことで、厚生労働省が定めています。地域や施設などにおいて、認知症高齢者に適切な対応がとれるように、保健師、看護師、社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員などが客観的、かつ短時間に判定することを目的に作成されました。近年は認知症に対する理解が進んでいますが、厚生労働省から「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」が通知された当時(1993年に作成、2006年に改正)は、認知症に対して特有のケアが必要だということが広く認知されていませんでした。このため、介護の現場などで在宅を続けられるかどうかなどを判断するために、こうした判定基準が必要だったと考えられます。
認知症高齢者の日常生活自立度が使われる場面
専門職が利用者の日常生活自立度を短時間で把握できる指標として、医療、介護現場、行政などさまざまな場面で活用されます。介護保険制度においては、要介護認定の際に判断材料の1つになっています。そのほか、主治医意見書、ケアプラン、リハビリテーション計画を作成する際に参考にされることもあります。
要介護度の判定は、「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」も重要な指標となります。1人で外出できるかどうかなど、身体的な自立度の指標となり、認知症高齢者の日常生活自立度とは異なる評価基準となるため、要介護認定の際には併せてみることが重視されています。
認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準
日常生活自立度は9つのランクに分類されます。それぞれ判定基準、見られる症状・行動の例、受けられるサービスの例について紹介します。
ランクⅠ
何らかの認知症の症状があるが、日常生活は家庭内および社会的にほぼ自立している状態です。在宅生活が基本であり、一人暮らしも可能です。相談、指導などを実施することによって症状の改善や進行の阻止を図ることになります。
ランクⅡ
日常生活に支障をきたすような症状、行動、意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる状態です。在宅生活が基本となりますが、一人暮らしは困難な場合もあるので、日中の居宅サービスを利用することにより、在宅生活の支援と症状の改善、および進行の阻止を図ることになります。
ランクⅡa
家庭外で上記Ⅱの状態が見られる状態です。例えば、たびたび道に迷う、買い物や事務、金銭管理など、これまでできたことにミスが目立つといった症状・行動が見られます。
ランクⅡb
家庭内でも上記Ⅱの状態が見られる状態です。例えば服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との対応などに困るため、1人で留守番ができないといった症状・行動が見られます。
ランクⅢ
日常生活に支障をきたすような症状、行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする状態です。ランクⅡより重度ではありますが、一時も目が離せないほどの状態ではありません。在宅生活が基本ですが、一人暮らしは困難で、夜間の利用も含めた居宅サービスを利用し、これらのサービスを組み合わせることで在宅での対応を図ることになります。
ランクⅢa
日中を中心として、上記Ⅲの状態が見られる状態です。例えば、着替え、食事、排便、排尿が上手にできない、時間がかかる、やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声や奇声をあげる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為といった症状・行動が見られます。
ランクⅢb
夜間を中心として上記Ⅲ、Ⅲaの状態が見られる状態です。
ランクⅣ
日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思相通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする状態です。症状・行動はランクⅢと同じではありますが、頻度が異なり、一時も目を離すことができない状態です。家族の介護力など、在宅基盤の強弱によって、居宅サービスを利用しながら在宅生活を続けるか、または特別養護老人ホーム、老人保健施設などの施設サービスを利用するかを選択します。施設サービスを選択する場合には、施設の特徴を踏まえた選択を行うことが求められます。
ランクM
著しい精神症状や周辺症状、あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする状態です。例えばせん妄、妄想、興奮、自傷、他害などの精神症状が見られ、精神症状に起因する問題行動が継続します。ランクⅠ~Ⅳと判定されていた高齢者が、認知症を専門とする医療機関での治療が必要になる状態です。
認知症高齢者の日常生活自立度の判定の流れ
認知症高齢者の日常生活自立度の判定は、認定調査員が自宅(施設に入居中の人や病院に入院中の人は、その施設や病院)を訪問、調査対象者への聞き取り調査によって行われます。
認定調査員による訪問調査
新規の認定に関しては、市町村の職員や委託された法人が認定調査員として自宅など本人が生活している場を訪問します。更新や区分変更申請の際の認定調査は、自治体から委託された居宅介護支援事業所のケアマネジャーなどが、調査を行うこともあります。調査対象者本人への観察や聞き取りのほか、家族など介護を担っている人からの情報も参考に判定します。
認知症高齢者の日常生活自立度の判定フローチャート
認定調査員がどのように判定していくのか、流れをフローチャートで紹介します。
判定のポイント
ランクⅡ~Ⅳは、日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思相通の困難さの頻度がどの程度かによって、判定します。Ⅱは「多少見られる」、Ⅲは「Ⅱよりは見られるが一時も目が離せないほどではない」、Ⅳは「頻繁に見られる」というのが、見極めのポイントとなります。
特に判定が難しいのが、意思疎通の困難さです。意思疎通というのは、調査員の言葉を本人が理解できているかといったことが主になりますが、認知症の人は相手の言葉を理解できていないように見えて、実は理解できているということが少なくありません。例えば、難聴があって聞こえていないだけということも考えられますし、体調が悪くて答えたくない、相手に不信感などがあって答えたくない、といったこともあるでしょう。
意思疎通ができるかどうかを正確に判定するためには、調査員は質問の仕方を工夫する必要があります。例えば専門用語や略語、カタカナ語を利用しない、できるだけ短い言葉で具体的に質問するといった工夫によって、対象者の言葉に対する理解度は変わってきます。
面談を受けるにあたって
認定調査員の訪問に際して、事前に知っておきたいポイントを紹介します。
面談には家族も同席する
認定調査は調査対象となる本人だけではなく、家族などの介護者からも聞き取りを行います。このため、家族などの介護者の同席が基本です。ただし家族は、調査員からの本人への質問に対して、介入しすぎず、見守ることも大事です。介入しすぎると、本人が家族に頼ってしまうことがあるからです。家族がそばにいないときのほうが、自分で発信しようとする傾向があるので、必要に応じて、個別に聞き取りを行うこともあります。一方本人を前に家族が言いづらいこともあるので、家族から個別に聞き取りをすることもあります。
客観的な立場の人から事前に話を聞いておく
デイサービスやホームヘルパーなどを利用している場合は、その担当者にも事前に話を聞いておくと客観的な視点での本人の状態を伝えることができます。例えば自宅では自分で歯みがきをしないけれど、デイサービスでは自分でできるなど、自宅で家族が一緒にいるときと、デイサービスなどで家族がそばにいないときとでは、自立度に差があることがあるからです。
1カ月くらいの症状の変化を記録しておく
認定調査では、直近1カ月程度の様子を伝えます。認知症の症状には波があり、現在は落ち着いているけれど、先月は落ち着きがなく大変だったということがあるので、そうした変化も含めて伝えることが大事です。日付や行動などを記録しておくと、調査の際に正確に、もれなく伝えることができます。
まとめ
医療、介護現場、行政などで、広く共有できる指標として作成された、認知症高齢者の日常生活自立度。現在は要介護認定の際に判断材料の1つとして活用されているため、なるべく実態に沿った判定を受けることが大切です。
認知症高齢者の日常生活自立度について解説してくれたのは……
- 遠藤祐子(えんどう・ゆうこ)
- 一般財団法人竹田健康財団認知症専門デイサービスOASIS室長。介護福祉士、社会福祉士、認知症介護指導者研修修了、認知症ケア上級専門士。認知心理学を学び、長年認知症対応型施設に勤務。認知症の人が美しい食動作で食事ができるように食環境の調整方法について研究するほか、オンラインカフェ「月とほしカフェ」を仲間と共に主宰している。