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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

認知症の人が病気やけがで入院したら、どうなる? 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(6)】

ナオコさん(53)の奮闘のおかげで、初期の認知症を発症しながらもさまざまなサービスを利用して自宅で暮らし続けていた伯母ヨシエさん(83)に恐れていたことが起こりました。高齢者に多い転倒による骨折です。伯母さんは救急病院に搬送されて手術を受けることになりました。認知症の人が他の病気やけがをしたとき、どのようなことが待ち受けているのでしょうか?

一人暮らしで倒れたら……離れて暮らす家族と介護事業者の連係は信頼感から始めましょう

「伯母様が自宅で骨折されたようで救急搬送されました。命に別状はありませんが、今から搬送先の病院まで来ていただけませんか?」

ケアマネジャーから突然、LINEでメッセージが届いたと思ったら、スマートフォンにも電話がかかってきました。ナオコさんは大事な会議を抜け出して指定された埼玉県内の救急病院に向かいました。

(また、会社に迷惑をかけちゃったわ……)

伯母さんの病状も気になりますが、頭の中はそのことでいっぱいでした。病院に到着すると、伯母さんは画像検査を終えたところでした。ケアマネジャーは事情を手短に教えてくれました。

「今朝、訪問介護に来たヘルパーさんがトイレの前で倒れていた伯母様を見つけて、かかりつけの先生と私に連絡が入りました。伯母様の意識はあったのですが、太ももの付け根あたりを押さえてかなり痛がっていたので、かかりつけの先生が救急車を要請するようヘルパーさんに指示してくれたのです」

認知症で大腿骨骨折……2つの病気の治療と骨折後のリハビリを考えて早めに動きましょう

伯母さんが搬送された救急病院では、画像検査の結果、大腿骨頸部骨折が判明し、整形外科医によると手術が必要という診断になりました。

「えっ、手術ですか?」

突然のことで戸惑うナオコさん。担当の整形外科医が治療方針を説明してくれました。

「手術しないで骨が自然にくっつくのを待っていると、1カ月以上はベッドから離れられません。安静を保つことによって寝たきり状態になる可能性が高く、認知症も進行してしまう可能性があります。麻酔をかけたり手術をしたりすることに身体的な問題がなければ、なるべく早く手術をして歩けるようにしましょう」

ナオコさんは担当医の言葉にクラクラしました。

(寝たきり、認知症の悪化……。私たちしか身寄りのないことは理解しているけれど、そんなことが起こってしまったらお手上げだわ……)

幸いなことに手術のリスクを調べる検査で身体的な問題は見つからなかったので、ナオコさんは手術に同意することにしました。

手術の説明を受ける際、ナオコさんは1枚の用紙を渡されました。大腿骨頸部骨折の「地域連携診療計画書」(*1)の用紙には、治療のスケジュールが項目別(処置、点滴、内服、検査、食事、安静度、リハビリ、清潔・排泄など)に細かく記載されていました。

*1:地域連携診療計画書…一般的には「地域連携パス」と呼ばれています。地域の医療機関を「治療」「リハビリ」「療養生活のサポート」といった機能別に分け、それぞれが連携して診療することによって、質の高い医療を無駄なく提供するためのものです。状態に応じて各医療機関を移動する患者やその家族に治療の見通しを知らせるとともに、切れ目のない医療を提供するために医療者同士も情報共有することを目的としています。大腿骨頸部骨折のほか脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、がんなどの病気でも地域医療連携パスに基づいた医療連携が全国各地で行われています。なお、院内だけで使用する診療計画書を作成している病院も多いです。

(へえ~、この診療計画書を見れば、伯母さんにいつどんな治療が行われるのか一目でわかるから安心……」

転院できるか……地域連携室のソーシャルワーカーに早めに相談しましょう

ナオコさんはこう感心した後、よく書類を見てみると、診療計画書では2週間後に回復期病院に転院となっていました。

(えっ、2週間しか入院できないの……。認知症を抱えた伯母さんをすんなりと受け入れてくれる病院はあるのかしら……)

ナオコさんは先々のことが急に不安になりました。

「あのう……、骨折が完治するまで入院させていただけないのでしょうか? 転院先の病院は紹介していただけるのでしょうか?」

担当医によると、この地域では大腿骨頸部骨折の治療は「手術を行う急性期病院」と「手術後のリハビリなどを行う回復期病院」といったように機能分担して治療が行われており、患者は手術後の状態が安定すればすぐに次の病院に移動して骨折の治療やリハビリテーションを続けるということでした。

「転院先は当院と診療連携をしている6カ所の回復期病院のうち、患者さんのご自宅に近い病院がいいですか? その相談は病院内にある地域医療連携室のソーシャルワーカーと相談してください」

担当医から地域連携室で相談にのってくれるソーシャルワーカーがいると聞き、ナオコさんは少し安心しました。

認知症の人は受け入れ先が決まるまで時間がかかることが予測されるので、担当医に治療の見通しについても必ず確認しましょう。急性期病院を退院した後に自宅に戻ることが難しい場合は、治療の開始と同時に地域医療連携室のソーシャルワーカーにも相談していきましょう。

また、かかりつけ医やケアマネジャーにも状況を報告し、今後についてアドバイスを受けることをおすすめします。急性期病院の平均入院期間が短くなってきているので、転院に関しては早めに動くことが肝心です。

個室を求められたら……手術をきっかけに起こる「術後せん妄」かもしれません

手術が無事に終わり、伯母さんは4人部屋に入院することになりました。ところが入院して数日後のことです。ナオコさんは出張先の関西での商談を終え、スマートフォンの機内モードを解除した途端、電話の着信履歴が数件あることに気づきました。

(見かけない番号だけど、どこからの電話かしら……)

留守番電話も確認すると、伯母さんが入院している総合病院の整形外科病棟の看護師長とケアマネジャーからそれぞれメッセージが残されていました。

「伯母さんのことで至急連絡を取りたいです」

ナオコさんがあわてて病院に電話をすると、看護師長の用件はこのような内容でした。

「夜中に大声を出して困っています。とりあえず空いている個室に移っていただきたいのですが、ご了承いただけますか?」

認知症の症状に、手術をきっかけにして起こる「術後せん妄」(*1)が加わり、伯母さんは少し混乱を起こしたようです。ナオコさんは平謝りして病院の対応を受け入れました。

*1:「術後せん妄」…手術をきっかけにして起こる精神障害のことです。手術を受けて1~3日経ってから錯乱や幻覚、妄想といった症状が出現し、1週間ほど続いた後、次第に落ち着いていくとされています。高齢者に起こりやすいことが知られています。

ナオコさんはケアマネジャーにも電話をして、伯母さんの病室で落ち合うことにしました。ナオコさんが病院に到着したのは夜です。出張先から飛んで帰ってきたのでへとへとです。看護師長も帰宅せずに待っていて、ナオコさんとケアマネジャーに状況を説明してくれました。そこで言われたのが、家族による夜間の付き添いです。

家族の付き添い……自費でヘルパーにお願いせざるを得ないケースも

(えっ、この病院は完全看護じゃなかったの?)

ナオコさんは、そう言いたくなりましたが、言葉をぐっと飲み込みました。数人の看護師で何十人もの手術後の患者を看護する中、夜中に声を出されたりするのはどれほど迷惑なことなのか理解することはできたからです。とはいえ、ナオコさんにも仕事があります。夜間に伯母さんに付き添っていたら身が持ちません。

ナオコさんは泣きたい気持ちでケアマネジャーに助けを求めました。

「いったいどうすればいいでしょうか?」

ケアマネジャーからの提案はこうでした。

「費用はかかりますが、自費で訪問介護サービスを利用する方法があります」

ナオコさんは素朴な質問をしてみました。

「入院してからは介護保険サービスを使っていないのですから、その分を振り替えることはできないのですか?」

ケアマネジャーは申し訳なさそうに言いました。

「残念ながら、そういう仕組みではないのです」

背に腹は代えられません。ナオコさんはヘルパーに12時間付き添ってもらうことにしました。伯母さんの状態が落ち着くまで個室を利用することになり、その費用も必要になりました。これら想定外の出費は、伯母さんが加入している民間保険の給付金だけで賄うことはできませんでした。

本来、入院患者の看護は「入院基本料」に含まれているので家族が付き添う必要はありません。ただし、現実には認知症で治療に支障があるようなケースでは、付き添い申請を求められることがあります。

(うーん、伯母さんには十分な蓄えがあるから何(・)とかした(・・・・)けど、貯蓄がない人や年金暮らしの人はどうするのかしら? 困っている人はずいぶんいると思うわ……)

経済的な事情でナオコさんの伯母さんのように自費でヘルパーに付き添いを依頼できない場合、多くの人たちが家族による付き添いをしているのが現実です。しかし、家族と共倒れになる恐れがあるので、そうなる前に病院のソーシャルワーカーや病棟師長、ケアマネジャーに相談し、医療者の知恵も借りて解決策を見出していきましょう。

さて、伯母さんの入院生活はまだまだ続きます。次回は回復期病院での出来事を中心に家族がとりたい行動や対応について考えてみたいと思います。

*このお話は次回に続きます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
離れて暮らしている家族が倒れた場合、意識がなければすぐに救急車を要請し、同時にかかりつけ医とケアマネジャーにも連絡しましょう。意識があるときはかかりつけ医に連絡して、その後の対応について指示を受けましょう。また、ケアマネジャーにも連絡しましょう。この連絡手順は、同居している場合も同じです。

解決策②
入院する際、患者向けの診療計画書を渡されたら、家族も必ず目を通し、これから行われる治療内容だけでなく治療の見通しについても十分に理解しておきましょう。急性期病院の平均入院期間が短くなってきているので、リハビリテーションなどで転院が必要なときは地域医療連携室のソーシャルワーカー、かかりつけ医、ケアマネジャーに相談して早めに動くことが肝心です。

解決策③
入院中の付き添いなど家族に負担がかかりすぎると共倒れになる恐れがあるので、そうなる前に病院のソーシャルワーカー、病棟師長、ケアマネジャーに相談し、解決策について一緒に考えてもらいましょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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