映画で知る世界の認知症事情 アニメやドキュメンタリーも!厳選映画2
文/古谷ゆう子
家ごもりは映画鑑賞のまたとないチャンス! 今回は「世界の認知症事情がわかる」をテーマに、映画に精通するライターが3作品を紹介します。
泣けますよ……ティッシュのご用意を。
※前回の映画紹介はこちら
Vol.02 認知症をテーマにした映画で世界を巡る
『わすれな草』
日本で暮らしていると、出来事をどうしても「これがスタンダードだ」と思い込んでしまう。だが、外に目を向けると、まったく違う価値観があったり、逆に「世界も日本も変わらない」と気づかされたり。さまざまな国の認知症をテーマにした映画を見ると多くの学びがあり、視野が自然と広がっていく。
映画『わすれな草』は、ドイツ人監督のダーヴィット ・ジーヴェキングが認知症当事者である母と、介護する父の姿を自らカメラを手に映し出したドキュメンタリーだ。少女のようなキラキラとした瞳で「ここに住んでいたの?」と聞く母グレーテル。ダーヴィットは、母のアルバムをめくりながら、彼女の過去を“発見”していく。
テレビ番組の司会者をしていたこともあるグレーテルは、1960年代には学生運動に参加し、女性の参政権を得るために闘い、子連れでデモに参加したこともあった。けれど、ダーヴィットが最も衝撃を受けたのは、自分の理想だと信じて疑わなかった両親は、ともに相手が浮気をすることに同意していたということ。
そうした「自立した関係」を徹底していた二人だが、いまはグレーテルの夫が介護を続ける。それを見守る監督の眼差しが優しい。家族がグレーテルとの向き合い方を模索するなか、彼女は介護士として働く外国人の女性に心を開いていく。自然豊かなドイツやスイスの景色も作品を彩る。グレーテルの人生を通して、私たちは一人一人の生き様が社会を作るのだということを改めて知ることになる。
『しわ』
一方、スペインには“認知症をテーマにしたアニメーション”という稀有な作品がある。映画『しわ』(2013年)は、“スペインのアカデミー賞”と呼ばれるゴヤ賞で「最優秀アニメーション賞」を受賞している。
銀行の地方支店長だったエミリオは、息子夫婦に連れられ介護施設にやってくる。一癖も二癖もある同室の男性、助け合いながら介護施設で生きる夫婦……老いることに悲観的な者もいれば、そうでない者もいる。認知症の症状の進行具合は一人一人違えば、キャラクターも当然違う。ときにユーモアやファンタジーの要素を交えながら、「老い」と正面から向き合った作品だ。
オリジナリティあふれる物語、そして台詞一つ一つに惹きつけられ、目が離せなくなる。エミリオの心の内が事細かに表現されているため、胸が痛むシーンもある。けれど、老いというものが少しずつわかってきた子供たちには、想像力を膨らませ、色々なものを感じとってほしい。アニメーションの力に圧倒される一本だ。
『パーソナル・ソング』
認知症の症状が進み、思い出せないことが増えても、なぜか歌詞は鮮明に覚えていて驚かされる――。そんな経験をしたことはないだろうか。アメリカ発のドキュメンタリー『パーソナル・ソング』(2014年)は、認知症当事者それぞれに思い入れのある曲を聴いてもらい、懐かしい音楽に出合った彼らの表情を丁寧に捉えている。
ゴスペルが好きで曲を聴くなり笑顔で身体を揺らす男性、ビートルズの曲を聴き目を輝かせる女性……。それぞれの表情がとてもいい。なかには音楽を聴いたことで自身の学生時代を語り出す人もいる。なぜ音楽は脳に残るのか。専門家たちのインタビューを通し、その秘密も明かされる。
「音楽は薬以上の効力を持つ」という言葉も飛び出すが、同時に介護施設で日常的に個々に寄り添った音楽を取り入れることの難しさも映し出される。
『パーソナル・ソング』の原題「Alive Inside」(内側で生きる)が、上記3作品をこれ以上になく表現している。みなそれぞれに豊かな人生があったこと、そうした日々があったからこそ今がある、ということを教えてくれる。
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