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どうする?認知症の親の携帯電話やスマホ 便利だけれどトラブルも 

離れて暮らす親の声。携帯電話やスマートフォン(スマホ)があれば、聞きたい時にすぐ聞けて、伝えたいメッセージもすぐに届けられ、つながりたい時につながることができます。その反面、スマホ利用の高齢者を狙った詐欺や、使い方がわからなくなるという心配もあります。けれど、もう親にスマホは無理なのか――と解約の検討をするのは早すぎます。本来は思いを伝える大事なコミュニケーションツール。認知症になった場合の「使い方」というものがきっとあるはずです。「元気がでる介護研究所」の高口光子さんと、(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント相談員協会の伊勢宏子さんとともに考えます。

認知症と携帯電話 よくあるトラブル

まずは、認知症の両親の介護経験がある筆者の経験から紹介します。頻繁に電話がかかってきて対応が大変だったということもあれば、これまで普通に使えていた携帯電話が使えなくなり困ったこともありました。

毎日電話がかかってくる

母(83歳/施設暮らし)の場合は大変でした。数年前に施設入所した際、おしゃべりが好きな母のために、初めて携帯電話を持たせました。すると連日私に電話をかけてくるようになりました。最初のうちは、「帰りたい、帰りたい」という訴えでしたが、だんだん認知症が進行したのか。あるいは本当のことだったのか、知る由もありませんが、「ここでいじめられている。入居者の人から『ここに来るな』と言われた」「みんなが意地悪」と電話口で延々と嘆くようになりました。電話でいつもつながれることはうれしかったのですが、それが頻回になると、受ける家族は疲弊もします。

対処法:ときには発信制限機能の活用も

同様の悩みを抱える家族は多くいます。どのように対応するのが良いのでしょうか。
老人保健施設の立ち上げから人材教育など、長く介護現場を見てきた介護アドバイザーの高口光子さんに話を聞きました。
高口さんは、前提として、「子どもや孫、親しい友人の声が聞けたら、高齢者は安心します」と強調します。しかし、家族以外の人に頻繁に電話をかけるなど、何らかの社会的な問題になりそうな場合には、つながる電話番号を限定する『発信制限機能』などを活用するのも一案だといいます。テレビショッピングや訪問販売対策にもなります。「ただし、ご本人が使用しているのに、家族が取り上げることは決してしないことです。取り上げたらもっと大変になります。認知症だから、という理由でより簡単な機種へと変えるのも良くないです。使い慣れたものを持っている方がご本人にとって良いからです。紛失対策には、首から下げるようにするとか、そういう工夫一つでいいです」とアドバイスします。

携帯電話がかけられなくなる

モバイル端末の保有状況 
2021年通信利用動向調査(総務省)

総務省統計(2021年通信利用動向調査)によると、個人が保有するモバイル機器の中ではスマホの保有割合が74.3%と携帯電話(20.0%)よりも高く、年齢階層別に見ても80歳以上をのぞいた層で、スマホを持っている人の割合が携帯電話を上回っています。ただ、スマホを活用する高齢者がいる一方で、「ガラケー」と呼ばれる携帯電話ですら使いこなせなくなってしまう人もいます。認知機能の低下で、どうやってかけたらいいのか、受けたらいいのかが分からなくなるのです。

筆者の父(89/施設暮らし)がそうでした。これまでは頻繁に携帯電話で話をしていましたが、ここ半年ぐらい父から電話をかけてくることがほとんどなくなりました。こちらからかけると「あぁ良かった。どうやってかけたらいいかわからなかったんだ、番号がわからなくてね」と返してきます。
短縮ダイヤルには、私の番号は登録済み。しかし認知症の父には、その短縮ダイヤルとその後に発信ボタンを押すという作業が覚えられません。筆者が電話で伝えると、その直後はできます。しかしすぐに忘れます。かけられないし、出られない。これではせっかくの携帯電話がもったいない。

対処法は:介護職員に支援を求めてみる

施設のケアマネジャーさんにその話をすると「携帯電話が使えなくなるのは、お父さまだけではないですよ。難しくなるようですね。受けられても電話をかけられないというのが意外に多く職員が発信のお手伝いをすることもあります」と教えてくださいました。
介護サービスを利用している場合は、介護職員に一声かけて、携帯電話やスマホの使用のサポートをお願いしたり、携帯電話の利用に不審な点がないか、見守りを依頼したりするのも手です。親の携帯電話にいつかけても留守電になっているので心配になり介護事業所の職員に携帯電話を見てもらったところ、充電がされていなかった(充電するということを忘れていた)というようなこともあるようです。

契約をめぐるトラブル

フィッシング詐欺

契約に関するトラブルについてもよく聞かれます。特にどのようなものに注意すればよいのか、主なものを取りあげます。

「格安スマホ」の契約には要注意

特に、比較的安価な料金体系でサービスを提供する「格安スマホ」については、全国の消費生活センターなどに寄せられた相談件数が2,000件を超えており、契約当事者が60歳以上のトラブルの割合は、2015年度の21.9%から2019年度は35.7%と増加傾向にあります。通話料が(想定したより)高額になった、使い方が分からない、理解しないまま契約をしてしまった……というトラブルが目立ちます。

国民生活センター2020年1月16日報道発表資料

(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント相談員協会の会員で、相談業務に関わりながらICTリーダーとしてシニアへのICT啓発講座講師を務める伊勢宏子さんは「スマホの機種変更をする際には注意が必要」と話します。言います。
「ショップで、新たにスマホを契約したり、機種変更をしたりする時は、家族などが同席して、一緒に契約内容の説明を聞くことでトラブルを回避できます。月々のスマホ料金を抑えたいと『格安スマホ』に切り替えたが、これまでのようなサポートサービスが受けられなくなり、うまくスマホが使えなくなったとのトラブルもあります。携帯電話会社を変更する際は慎重に行いましょう」

フィッシング詐欺

さらに、スマホのショートメッセージやメールを使った詐欺(フィッシング詐欺)が非常に多くなっています。宅配便の不在通知を装ったもの、国税庁をかたるもの、大手銀行や大手通販サイトをかたるものなど様々です。これらは高齢者を狙ったものではありませんが、政府機関やよく聞く企業名をうたっています。伊勢さんは「『メールを開かない、URLをタップしない、個人情報やカード番号などを入力しない』という対処法を知らないと、高齢者が被害にあう可能性があります」と注意を促します。

必要のない商品を契約してしまった

インターネット通販での定期購入トラブルも増えていると言います。
「スマホで、初回500円などの広告を見て1回だけのつもりで注文したら、1カ月後にまた商品が届き、2回目は高額だった、というものです。『解約を求めたが回数縛りがあると拒否された』『何度電話してもつながらず解約できなかった』などです」と伊勢さん。

通話を切り忘れて高額な料金が請求された

通話が終わったのに、「切」のボタンを押し忘れて電話がつながったままで、その結果高額な請求が来たといった例もあります。相手が切ってくれればよいのですが、互いに切り忘れていたり、自動応答の番号にかけ続けていたりすれば、料金は加算されていきますので注意が必要です。

様々な契約をめぐるトラブルに対処するには

こうした様々な契約に関するトラブルを回避するためには、どうしたらいいでしょうか。
まずは、高齢者が不審なショートメッセージやメールの被害にあわないよう、家族やまわりの方々が見守ることが重要です。そして、「なにより、高齢者が、相談しやすい環境をつくることが大切です」と、伊勢さんはアドバイスします。

トラブルが生じた場合には、最寄りの消費生活センターに相談しましょう。消費者ホットライン「188(いやや!)」番に電話すると、最寄りの市町村や都道府県の消費者センターなどを案内してもらえます。

携帯電話やスマホには色々なメリットも

携帯電話やスマートフォンには人とつながることができるメリットもある

トラブルへの心配はあるものの、前出の高口さんは「高齢者にスマホは必需品。なくてはならないもの。一番いいのは友人や家族とつながれるということです」と話します。「体が不自由だったり、移動範囲が制限されたりしている人にとって電話でつながり話せるというのはとても大きなメリット。家族はもちろん、お年寄り同士のつながりを制限しない方がいい」と言います。

LINE通話で顔を見ながら通話

高齢者施設で暮らす親とつながる手段としてもスマホは最強です。
入居者がスマホを持ち込めてLINE通話ができれば、面会許可がおりない期間であっても、直接親と顔を見ながら会話をすることができます。
在宅高齢者も同様です。コロナ禍の孤独な高齢者を救ったコミュニケーションツールの一つがスマホでした。

居場所などの確認ができる

GPS機能がついている携帯電話を親が持っていると、万が一の際には、子どもは安心です。認知機能が低下してきて、迷うことが多くなってきても、散歩が好きな高齢者に「戻ってこられないかもしれないから」と外出を止めるのは望ましいことではありません。
「母に自由に散歩をさせてほしい。GPSで居場所が確認できるので、好きなようにさせてほしい」と有料老人ホームに暮らす親に携帯電話を持たせている子どももいるそうです。

携帯電話を解約するかどうかは症状次第

とはいえ、本当に携帯電話を使わない時が来たら‥‥…。
その時こそ、解約するタイミングだと、高口さんは言います。
「関心がなくなればただの物。本人の意識レベルがストーンと落ちて、誰が見ても認知症だとわかり、社会的な活動ができなくなったと判断した時は解約をしても良いと思います。いつか、携帯電話が手元にあってもなくても気にしない時が来ます。興味がなくなるのです。それまではご本人の意思にあわせていてください。使えないじゃなくて使わない時がきっときます」

家を離れ、施設に入居するタイミングで解約するという人もいるかもしれません。今多くの施設では携帯電話の持ち込みが可能ですが、中には禁止しているところもあるので、そのタイミングで解約するというのも自然かもしれません。使わない携帯電話を契約しているのも無駄というもの。
他には、故障のタイミング。「『壊れちゃったね、新しいの買う?』と聞いてみて『別に…』とあまり執着がなければ解約してもいいと思います」

携帯電話を解約する方法

いざ解約するとなったら、提出書類や流れなどが複雑なため、できれば事前に必要書類を確認してから店舗に行くのが安心です。ご本人だけでなく、誰かが付き添って行った方が安心です。

スマホで自分の意思を未来につなぐ

高口さんはこう締めくくります。
「平成から令和になって、スマホを持つのはもう当たり前。機能もどんどん上がってきていろんなことがアプリに集中し、マイナンバーカード機能もスマホへ内蔵されるようになります。個人情報も何もかもスマホ1つに凝縮されていく時代。これまでは親が子に、たとえば『台所の3番目の引き出しに(大事なものは)全部入れているから』と伝えていたことが『スマホの中にあるから』になるわけです。引き出しの中身だったらたとえ親が子に伝え忘れていても、後片付けの最中などに見つかるということもありますが、スマホの場合はそうもいきません。だから日ごろから親子で(パスワードなどの)情報の共有を心がけておくことが大切です。認知症になってからでは遅いからです」

高口光子さん
高口光子(たかぐち・みつこ)
介護アドバイザー・理学療法士・介護支援専門員・介護福祉士。多数の介護施設で介護部長、デイサービスセンター長等を歴任。新設の老健の開設・運営にも携わり、看介護部長を務める。より自由な立場で「介護現場をよくしたい」の一念にて、2022年に「元気がでる介護研究所」を設立し、代表を務める。
伊勢宏子さん
伊勢宏子(いせ・ひろこ)
1999年に消費生活専門相談員の資格取得。消費生活センターに勤務しながら消費生活アドバイザー資格も取得。(公社)消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)会員。協会では、主にシニアのICTリテラシー向上啓発事業に携わっている。

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