認知症の父に成年後見 施設に入ったら意味がないですか?【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
居宅介護支援(ケアマネジャー)の市川裕太さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.一人暮らしの父(78歳)が認知症と診断されました。同じものを大量に買ったり、ヘルパーさんに御礼のお金を渡したりしていることがわかり、成年後見制度の利用を考えています。ただ、進行して一人暮らしが難しくなってきたら施設への入所を検討しています。そうなると、成年後見制度はあまり意味がなくなるのでしょうか。(50歳・男性)
A.確かに今お父さんが抱えている問題は、施設に入居すると解決できることです。成年後見制度は、利用を開始すると、後見を受ける本人が亡くなるまでやめることはできません。つまり、必要なくなったからといってやめるわけにはいかないので、慎重に検討することをおすすめします。
成年後見制度は、判断力が不十分になった人に代わって、後見人が預貯金や不動産の管理をしたり、介護保険サービスや施設入居の契約を結んだりする制度です。預貯金の引き出しなど財産管理に関しては、施設に入居後でも制度を活用できると思います。例えば、金融機関での手続きは、基本的には本人にしかできませんが、後見人なら代わりに手続きすることが可能になります。後見人は、本人の立場で生活をサポートしていく役割がありますので、ご家族が遠方にいて、財産管理などができない場合に利用するのも一つの方法だと思います。市区町村の社会福祉協議会や地域包括支援センターに窓口がありますので、一度相談してみるといいでしょう。
もう一つ、そもそもなぜ、お父さんは同じものを大量に買ったり、ヘルパーさんにお金を渡したりしてしまうのでしょうか。これに関しては、成年後見制度で解決できることとは、異なるかもしれません。場合によっては制度を利用することで本人が自由に使える金銭に影響が出て、自分が果たしたい目的が達成できないことから、大きな混乱を招く可能性もあります。そのため、行動の理由を考えることは大切です。同じものを大量に買うということは、自宅にそれがあることを忘れて繰り返し購入してしまう、好きなものだからなくなると困ると思っているなど、それに執着している理由があるはずです。ヘルパーさんにお金を渡すのは、感謝の気持ちを伝えたいのに、認知症であるがためにその手段がお金しか思いつかないということもあるでしょう。お父さんの行動をただ否定的に捉えるのではなく、理由に合わせ、場合によっては気持ちをくんだ言葉をかけられるとお父さんの気持ちも落ち着いて、問題と考えているような行動がなくなることもあるかもしれません。
認知症になると、家族や周囲の人にとって「そうされると困る」といった行動が日常的に現れる場合があります。まさに相談者のお父さまの行動は本人が困っているのではなく、相談者たちが困っている行動だと言えます。と考えると本人の行動を変えようと思いがちですが、私たちが行動を変えることが本人にとっては何も変わらずに生活が続けられることにつながるのかもしれません。
一つヒントとして考えてもらいたいのですが、例えば買ってきたものが、いつも同じ店であるならお店の人も本人のことを知っている場合があります。「ちょっとおかしいな?」と思っているかもしれません。そうであるなら事情を説明し、返品できるものなら返品させてもらう、お金は感謝で渡しているのであれば、一先ず快く受け取ってもらい、後で家族に返金してもらうなど、認知症の状態に合わせて上手に対応できることを考えてみるのもいいのではないでしょうか。
【まとめ】施設に入居すると成年後見制度は必要ない?
- 後見人は預貯金の引き出しなど、本人にしかできない財産管理をすることができる
- お父さんがなぜ問題行動を起こすのか、理由を考える