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名作から50年…同じキャストが描く続編ほか今こそ味わう厳選映画1

STAY HOME! 家ごもりの時間を何に使っていますか? なかまぁるからは、認知症に関する映画鑑賞のご提案。泣いたり笑ったり、ほわわんとしたり。映画に精通するライターが厳選した3本を、3回に渡って紹介します。今回のテーマは「カップルの形について考える」です。
さて、飲み物の準備はOKですか?

ジャン=ルイ・トランティニヤン、アヌーク・エーメという、『男と女』と変わらぬキャストで約50年後が描かれる。『男と女』はデジタル・リマスター版がブルーレイで発売中
『男と女 人生最良の日々』は、ジャン=ルイ・トランティニヤン、アヌーク・エーメという、『男と女』と変わらぬキャストで約50年後が描かれる

vol.01 男女の“記憶”を巡る3つの物語

『男と女 人生最良の日々』

「ダバダバダ……」と囁くような声で始まる、きっと誰もが一度は耳にしたことがあるメロディ。フランスの恋愛映画の金字塔と言われる『男と女』(1966年)の約50年後を描いた『男と女 人生最良の日々』(6月DVD発売予定)を観ると、主人公二人のやり取りに心揺さぶられ、圧倒的な幸福感に包まれる。

『男と女』で描かれていたのは、妻を亡くしたレーシング・ドライバーのジャン=ルイと、スタントマンの夫を事故で失ったアンヌの出会い、そして別れ。その53年後、ジャン=ルイは認知症当事者として介護施設で暮らしていた。ある日、アンヌは「父親に会って欲しい」というジャン=ルイの息子からの依頼を受け、介護施設を訪れる。アンヌは自分の名を名乗ることなく、ジャン=ルイとたわいのない会話をし、穏やかな時間を過ごす。アンヌの髪をかきあげる仕草を見て、「ステキな仕草だ」と言うジャン=ルイ。目の前にいるのがかつて愛した人だとは分からなくても、アンヌの仕草や眼差しに惹きつけられ、目を輝かせる――。

私たちが大切な誰かを思い出すとき、真っ先に浮かぶのは、ふとした表情や声、そして自分に向けられた優しさだ。甘く切ないメロドラマでありながら、地に足の着いた物語として魅了されるのはそうした丁寧な描写が積み重ねられているからだろう。ジャン=ルイのユーモアのセンスも、車への愛情も昔と何ら変わらない。記憶が薄れても、二人で過ごした時間は確かに存在していた。そして“人生最良の日々”はこれから始まるのだというメッセージが清々しく、二人のいまを一緒に生きているような感覚になる。

『男と女 人生最良の日々』 2020年6月3日ブルーレイ&DVDリリース 発売・販売:ツイン
『男と女 人生最良の日々』 2020年6月3日ブルーレイ&DVDリリース 発売・販売:ツイン

『ロング,ロングバケーション』

『男と女 人生最良の日々』が不滅のラブストーリーだとすれば、夫婦という名の“同士”のロードムービーとして描かれているのが『ロング, ロングバケーション』(2017年)だ。

認知症が進むジョン(ドナルド・サザーランド)と、病を患う妻のエラ(ヘレン・ミレン)は、子供たちに告げぬまま、キャンピングカーで二人だけの旅に出る。目指すは、ジョンが敬愛するアーネスト・ヘミングウェイの家。毎晩、キャンピング場で過去の写真をスライドに映し出しては、二人で思い出を語り合う。
認知症の症状が進んでも、ジョンはヘミングウェイの「老人と海」の好きな一節はしっかりと暗記している。長く教師として働いてきたこともあり、旅先で出会う若者の言葉使いや文法の間違いが気になって仕方がない。ときに自分がどこにいるのかがわからなくなっても、好きなもの、懸命に取り組んできた仕事については顔をほころばせながら活きいきと語る。そんなジョンの姿を見ていると、彼がどんな教師であったか、エラとどんな結婚生活を送ってきたのか、想像を巡らせることができる。

認知症当事者であるジョンが自らハンドルを握り、道の途中では強盗に遭って……というなかなかパンチの効いた作品であり、ラストのエラの選択にも賛否あるかもしれない。だが、旅に出なければ絶対に出会えなかった人々との触れ合いを心から楽しむ彼らからは、ポジティブなエネルギーをもらえるはずだ。

『ロング,ロングバケーション』価格:¥1,143(税抜) 発売・販売元:ギャガ © 2017 Indiana Production S.P.A.
『ロング,ロングバケーション』価格:¥1,143(税抜) 発売・販売元:ギャガ © 2017 Indiana Production S.P.A.

『やさしい噓と贈り物』

クロード・ルルーシュ(『男と女』『愛と哀しみのボレロ』)、パオロ・ヴィルズィ(『人間の値打ち』『歓びのトスカーナ』)と、上記二作はどちらもベテラン監督によるものだが、若手監督が認知症をテーマに描いた作品もある。『やさしい嘘と贈り物』(2008年)の監督、ニック・ファクラーは製作当時24歳。これが初監督作品だ。

日中はスーパーで働き、一人で暮らすロバートの家の前に、同年代の女性、メアリーが引っ越してくる。「君は誰だ?」「はじめまして」と言葉を交わす二人。ロバートはメアリーの手を握り、少しだけ表情が和らげる。メアリーとレストランで食事をする約束をしたロバートは、「デートだ!」と少年のようにはしゃぐ。スーパーの生意気な店主にまで相談し、“デートのお作法”を学ぶ。認知症の症状が進むロバートの前に、メアリーが現れたのにはじつは大きな秘密があって……。

デート前には香水を纏い、デンタルフロスも欠かさない。身の回りのことは何でも自分で行い、毎日を丁寧に送るロバートの姿が尊い。メアリーをはじめとする登場人物一人一人に、監督の愛情が注がれている。

忘れてしまったからこそ、そこから始まる人間関係がある。一つ一つの出会いに心が躍り、毎日が楽しみになる。そんな“新しくて懐かしい”出会いを一緒に体験できるような3作だ。

STAY HOME

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