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義父退院の足もと問題。歩くには杖?歩行器?介護リノベ? もめない介護57

手すりの付いた屋外の階段のイメージ
コスガ聡一 撮影

「おとうさんが退院したら、介護老人保健施設(老健)でリハビリをして、しっかり体調を整えてから自宅に戻りましょう」

義父の緊急入院とともにスタートした2018年の上半期。義父母に会うたび、リハビリの必要性を繰り返し伝えていました。幸い、入所先の老健は、夫婦そろってデイ通いをしていた場所で、顔なじみの職員さんが大勢いたこともあって、義父母から目立った拒否もなく、すんなりと老健暮らしをスタートすることができました。

認知症の進行度合いが義父と義母では違っていたため、同じ施設ではあるけれど、お互いの部屋は別のフロア。「会えるのは家族の面会時のみ」という制約に対するストレスや、「洋服を盗まれた」などの義母のものとられ妄想など、こまごまとした事件は起きつつも、全体としては穏やかな日々が続いていました。

義父母がその気になってくれるなら、このまま、施設で暮らすのも悪くないのではないか……。そんな思いが頭をよぎったことも、一度や二度ではありません。しかし、そんなわたしの思いとは関係なく、退所予定日は近づいてきます。義父母も、自宅に帰れる日を指折り数えて楽しみに待っています。そりゃそうか!

足元がおぼつかない義父の、退所後の不安

介護がはじまってから、さんざん“明るくて朗らかだけれど、鈍いヨメ”のキャラクターで、言いづらいことを伝えてきましたわたしですが、さすがに「思い切って、施設入所を検討してみませんか!?」とは切り出せませんでした。

ただ、自宅に戻るにあたって、ひとつ大きな不安がありました。それは、義父の歩行能力です。

もともと義父は、年齢の割に足腰はしっかりしていて、歩くスピードも速すぎるぐらい。後ろも振り向かず、スタスタと歩いていってしまうので、しょっちゅう義母が置いてけぼりになっていたほど。ところが入院生活のなかで足が弱ってしまい、退院後も歩行器が手放せませんでした。

老健で使っていた歩行器は4脚にキャスターがついているタイプ。義父はすぐに使い方に慣れ、足をひっかけることもなく、スイスイと使いこなしていました。でも、かなりサイズも大きく、自宅で同じものを使うのは難しそうです。何もない状態で歩こうとすると途端に足元がおぼつかなくなり、見るからに不安。これはいったい、どうすれば……。

歩行器か杖かは、歩行状態や自宅環境に合わせて

老健に相談すると、自宅に戻る前にケアマネジャーや理学療法士の立ち会いのもと、自宅の環境チェックや歩行状態の確認があるとのことでした。室内で使える比較的コンパクトな歩行器を導入する手もあるそう。ただ、歩行器がいいのか、杖がいいのかは、歩行状態や部屋の状態によっても一概に言えないとか。

実は、この歩行確認が行われた日、わたしは仕事が重なってしまい、現地に行くことができませんでした。立ち会ってくれた夫の話によると、玄関から廊下の移動、階段まで義父の動作ひとつひとつを入念にチェック。結論としては「歩行器は使わない」となりました。使うと、かえって物につまづき、転倒するリスクがあるという判断だと聞きました。

こちらを立てれば、あちらが立たず……となるのは“介護あるある”のひとつでもあります。

施設内では、大きな歩行器を使えるので安心して体を預けられます。でも、自宅で使うとなると、これまで使っていた歩行器はサイズが大きすぎて、持ち込めません。サイズダウンすると、使いづらくなり、不安定にもなってしまう。だったら、かつて在宅で暮らしていたときのように、ソファやタンス、介護ベッドの手すりなど“あるもの”を手すり代わりにうまく活用して歩くやり方のほうがいいだろうという話でした。

家で暮らしたいと願う義父母の希望を叶えるために

では、杖を使うのはどうか?

家のなかはともかく、外出するときだけでも杖があったほうが安心なのではないか。そう思って、介護ショップのウェブサイトなどをのぞいてみたりもしていたのですが、理学療法士さんの答えは「ノー」。というのも、杖を使うことで歩きやすくなる可能性と、杖に足をひっかけて転倒するリスクを天秤にかけると、転倒リスクのほうが上回りそうだというのです。

老健にいる間に「杖のある生活」に慣れるよう、頑張って練習するという選択肢もある。ただ、義父の認知症の状態を考えると、「杖の使い方を忘れる」以外に、「杖を持っていくこと(持って帰ること)を忘れる」のも加わる可能性が高い」とも言われました。杖、ややこしい!!!

その代わりに、と言ってはなんですが、玄関のあがりかまちに、置き型の手すりを追加。さらに、トイレから出てすぐの場所に、突っ張り型の手すりポールを設置しました。これらがあることで、玄関の昇り降りは格段に安定します。さらにトイレの行き帰りによろけて、壁とは反対側に倒れそうになったとしても、パッと手すりポールをつかむことができます。ちょうど頭がぶつかりそうな位置にはクッション材がセットされていて、その工夫に舌を巻くばかり。

リスクを100%排除することはできないけれど、かといってすべてをあきらめる必要もない。ご本人に残された力や生活のありようを見ながら、優先順位を探っていくと、できる工夫はまだまだある。複数の人がかかわるからこそ、浮かび上がってくる課題と、プロならではの解決の知恵の数々が心強く、「家で暮らしたいと願う、義父母の希望をかなえられるかも」と勇気がわいてきたのでありました。

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