認知症とともにあるウェブメディア

なかまぁるクリップ

案ずるよりZoomが易し!先輩に聞くオンライン認知症カフェの始め方

全国的な新型コロナウイルス感染拡大を受けて、多くの認知症カフェが開催を取りやめています。高齢であることがハイリスクとされる以上やむを得ない措置ですが、一方でこの状況が長引くことは、特に孤立しがちな方たちにとって体調や心理面への影響が心配されます。
そんないま注目されているのがオンライン認知症カフェ。実際に集まることができなくても顔を見ながらコミュニケーションが図れることから、徐々に各地に広まりはじめています。
ウェブメディア『なかまぁる』では、いち早く愛知県東郷町のオンライン認知症カフェ『昼の町内会』の様子を取り上げました(4月11日公開『コッシーのカフェ散歩』)。
今回はその動画にも登場していただいた認知症カフェモデレーター・田中恵一さんと、2年以上前から定期的なオンラインカフェを開催してきた岡田誠さんの経験者2人に、オンラインカフェをめぐる最新事情について聞きました。

オンライン認知症カフェを主催する田中さんの様子(『コッシーのカフェ散歩』より)
オンライン認知症カフェを主催する田中さんの様子(『コッシーのカフェ散歩』より)

愛知県東郷町の田中恵一さんが認知症カフェを立ち上げたのは2019年4月のこと。自宅近くのカフェバー・ギャラリー「3piece」の店長・冨田真沙子さんと意気投合し、お店を借りて毎月2回、「昼の町内会」と「夜の町内会」を開くようになりました。
その頃から田中さんは一般社団法人認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(以下「DFJI」)が開催するオンラインミーティング「Zoom練習会」に参加して、Zoomというオンライン会議システムを使った「集まり」に親しみはじめます。

「はじめは全国の当事者や様々な人と会うように話ができることに惹かれました。必要な道具はスマホひとつ。操作もとても簡単でした」

DFJIの「練習会」を何度か体験して慣れてきた頃、田中さんは『夜の町内会』の常連メンバーの前で『Zoom』をやってみせ、自分たちのオンラインカフェ立ち上げにつなげていきました。
当初は実際に集まる人がいるなかでオンラインにもつないでいましたが、新型コロナウイルスによる外出自粛が呼びかけられるようになって以降は基本的にオンライン開催のみになっています。田中さんはオンラインカフェになってからの変化について次のようにいいます。

「それまでの開催時間は2時間でしたが、オンラインでは1時間半を目安にしています。オンラインは独特の集中を必要とするので疲れないようにしているのと、通信料が高額にならないように配慮をしています。特にWi-Fiが利用できない参加者には注意喚起が必要だと思います」

田中さんのオンライン認知症カフェでは、20分から30分ごとに区切りを設けています。開始時刻から20分ほどは全員であいさつと雑談の時間。そこで初参加者のフォローアップや、遅れてくる人の対応をします。続いてグループ分けの時間。たとえば介護について相談したい人と専門職を組み合わせたり、似た境遇の家族同士を組み合わたりするなど、オンラインカフェ特有の「別室」を作る機能で振り分けます。そしてあらかじめ決めておいた時間が過ぎたら、再び全員が一堂に会する場でその日の感想を語り合い、次回の予定を確認して解散するという流れになっています。

「初めて自分でオンライン認知症カフェを主催する場合は、40分程度の短いカフェから始めるといいでしょう。というのも『Zoom』では無料アカウントで立ち上げられるミーティングが連続40分までという制限(参加者3人以上の場合)があるからです。もっと話したい、長くやりたいと思うようになってから、延長について考えたらいいと思います」と田中さん。

スマホとタブレットを同時に使いこなす田中さん(『コッシーのカフェ散歩』より)
スマホとタブレットを同時に使いこなす田中さん(『コッシーのカフェ散歩』より)

『コッシーのカフェ散歩』を見るとわかりますが、現在の田中さんはスマホとタブレットを同時に使っています。これは参加者が増えるにつれ、一度により多くの人数を表示できるタブレット(スマホだと4人まで)が便利になったのと、資料を示しながら会話する際もどのように見えているのか客観的にわかるようにしているためとのこと。上級者のテクニックといえるでしょう。
最後に田中さんはこれからオンラインカフェを初めて体験する人に向けて次のようにアドバイスをしてくれました。

「普段より表情豊かに、身振り手振りをつけてしゃべってもらうといいですね。相槌も大きめに。お互いにリアクションが小さいと聞こえていないかなと思ってしまいます。それからオンラインでもカフェですから、ぜひ、それぞれ飲み物を用意して参加するといいでしょう。夜なら『Zoom飲み会』にすることもできます。とにかく楽しく使い慣れてもらうことが大事です」

「Zoom」で行ったインタビューの様子(左から田中さん、筆者のコスガ総一さん)
「Zoom」で行ったインタビューの様子(左から田中さん、筆者のコスガ総一さん)

DFJI(一般社団法人認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ)共同代表理事の岡田誠さんは、2017年の夏から、認知症に関連する分野でオンラインコミュニケーションの活用を後押しするために、週1回の定期練習会を含め、これまでに400回以上の「Zoom」上での打ち合わせに関わっています。コンピューター会社の研究員でもあった岡田さんは、「Zoom」について次のようにおっしゃっています。

「イギリスでは認知症の当事者グループが早い段階から『Zoom』を日常的に使用していました。離れた地域の当事者グループ同士で意見交換をするのです。日本の丹野智文さんもオーストラリア、米国、英国の人たちと『Zoom』を使った打ち合わせに参加されています」

岡田さんは「Zoom」の特徴についてこう話しています。

「これまでのオンライン会議システムの多くは、電話の延長線上で考えられたものでした。電話番号として個人のIDが必要という考え方です。それに対して、『Zoom』は、あたかも『公民館の会議室に集まる』ような使い方ができます。『場所に集う』イメージですね。『Zoom』は、利用する端末の機種依存も低く、スマホでもパソコンでも使えます。余計な機能をそぎ落したシンプルさがあります。何より音質が良く、映像もスムーズでした。画像や音声が途切れにくいとか、時間遅れによって話し手の声が被らないとかは、福祉の分野で利用する上でとても大きなメリットになります」

「Zoom」のセキュリティ上の懸念も報道されました。この点について岡田さんは、

「すべてのアプリケーションにおいて、セキュリティ・リスクを考えなければいけないのは当然のことです。サービスを提供する企業も日々対応しています。感染症と同様に、ユーザーも安全のために当たり前のことをすべきです。常に最新版のアプリを使用することもその一つです。 
そのうえで、オンラインミーティングのホストになる人には、別の配慮も必要です。インターネットはクローズドの世界ではありません。不必要に怖がる必要はありませんが、セクハラ・パワハラをする人も世の中には存在します。個人のプライバシーが不用意に語られてしまうことにも注意すべきです。ホストになる人は、使う道具としての『Zoom』に慣れておくといいですね。DFJIが火曜日の夜8時からほぼ毎週、定期練習会を開いているのもそのためです」といいます。

そして最後に岡田さんはオンラインミーティングのこれからについて次のように展望しました。

「スマートフォンの普及や通信速度の向上により、距離や時間の制約なくコミュニケーションできる環境が整ってきたのがまさに今です。福祉・介護現場のみなさんが、オンラインミーティングを『普段使い』できるようになってきたと思います。これができれば、たとえ感染症の影響で面会が叶わなくなっても、家族がお互いに顔を見ながら話しができるようになります。多くの人がツールに慣れていくなかで、遠隔地の家族会同士が情報交換したり、当事者の方にも入ってもらったりというシーンが広がっていくでしょう。まずは家族会や専門士会などの事務局メンバーが使い始めるところから進めるのが良いかと思います」

「Zoom」で行ったインタビューの様子(左・岡田さん)
「Zoom」で行ったインタビューの様子(左・岡田さん)

下記に、岡田さんが開催し、田中さんも参加してきたDFJIの「Zoom練習会」を紹介します。原則毎週火曜の午後8時から開催されているので、オンラインカフェを試してみたいという人の「はじめの一歩」としてお勧めです。

■「DFJI」ホームページ
http://www.dementia-friendly-japan.jp/2018/12/13/start-dfji-zoom/

■「DFJI-Zoomカフェ」facebookグループ
https://www.facebook.com/groups/dfji.zoom/

「コロナ禍を生きぬく~認知症とともに」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

この特集について

認知症とともにあるウェブメディア