なかまぁるクリップ

「普通の家族」とは?認知症が浮き彫りにする幸せの形 厳選映画3

映画に精通するライターが選りすぐった映画3本。ラストの今回は「家族と自分について考える」がテーマです。あなたにとって、家族とは――胸を打たれる作品ばかりですよ。
Vol. 1「カップルの形について考える」映画紹介はこちら
Vol. 2「世界の認知症事情がわかる」映画紹介はこちら

『未来よ こんにちは』のワンシーン。©2016 CG Cinéma · Arte France Cinéma · DetailFilm · Rhône-Alpes Cinéma
『未来よ こんにちは』のワンシーン。©2016 CG Cinéma · Arte France Cinéma · DetailFilm · Rhône-Alpes Cinéma

Vol.03 “家族と自分”について考える3本

『未来よ こんにちは』

家族がこれまで通りの生活を送れなくなった時、どう接し、どのように自分の人生を生きていくか。誰よりも近い存在だからこそ、その関係に悩み、進むべきより良い道を模索する。洋画、邦画問わず、多くの作品がそんな“家族の肖像”を映し出してきた。

映画『未来よ こんにちは』は、母の介護と夫との離婚という人生のターニングポイントが一度にやってきた50代後半の哲学教師、ナタリーの“これから”を描いた物語だ。
「夫がいるから一緒に暮らせない」と母には伝えていたものの、夫は浮気をしていた。母から助けを求める電話は夜中でも鳴り響く。授業を途中で終え、母のもとに走ることもしばしばだ。現実と空想の世界を行き来しながらも、高級セレクトショップの服を好んで着るなど気高く生きる母。そんな彼女にナタリーは新聞2紙を定期購読し、時に一緒に政治番組を見る。

ナタリーもまた、慌ただしい時間の合間に本を読み、自分の頭で考え続ける。最終的に一人になった自分を支えてくれたのは仕事であり、自分を慕う生徒たちだ。
「前へ進むだけよ!」と、常に前を見て走り続けていたからこそ、年を重ねても、たくさんの“初めて”を経験する。介護が終わっても、たった一人になっても人生は続く。それをより豊かなものにできるのは、自分だけだ。
ナタリー像には、撮影当時30代半ばだったミア・ハンセン=ラヴ監督の母親が投影されているとも言われ、母への尊敬の念も作品に滲んでいる。

映画『未来よ こんにちは』は、「Help! The 映画配給会社」 クレストインターナショナル見放題配信パックなどで視聴可能 ©2016 CG Cinéma · Arte France Cinéma · DetailFilm · Rhône-Alpes Cinéma
映画『未来よ こんにちは』は、「Help! The 映画配給会社」 クレストインターナショナル見放題配信パックなどで視聴可能 ©2016 CG Cinéma · Arte France Cinéma · DetailFilm · Rhône-Alpes Cinéma

『ぼくたちの家族』

“普通の家族”とはいったいなんだろう? そもそも存在するのか? 一見、平凡な家族に見えてもそれぞれが誰にも言えない秘密を抱え、難儀に直面したことでそれまでなんとか保っていたバランスが一気に崩れる――。石井裕也監督の『ぼくたちの家族』は、家族でいることの脆さと強さを見事に描いた作品だ。

ある日、母・玲子(原田美枝子)に脳腫瘍が見つかる。それまでも時々記憶が混乱し、認知症のような症状が現れていた母。言い渡された余命は、一週間だ。
かつて引きこもりだった几帳面な長男・浩介には、「あなたは誰?」と言う。一方で、度々母にお金をせびっていたお調子者の次男・俊平のことは覚えており、母は絶対的な信頼を寄せる。そんな姿を見て、静かに動揺する浩介は、なんでも本音で語る俊平のことを羨ましく思う。まさかの事態が起こった時、取り乱し方も悲しみの受け止め方も一人ひとり違う。「こういう時は笑おうよ」と母自身が言う。その言葉は、家族みんなの言葉になっていく。

じつは多額のローンがあった父、借金まみれだった母……。3人の男たちは、それぞれの方法で奔走し、その先で想像すらしなかった人々の善意に触れていく。こんな時だからこそ何か良いことをしなければと、なぜかランニングを始める父とそれに続く息子たち。そうしたシーンの積み重ねが作品に豊かさをもたらし、『ぼくたちの家族』というタイトルは、そのまま「自分たちの家族」の話なのではないか、と思わずにはいられない。

『ぼくたちの家族』通常版 4,104円(税込) 発売元・販売元:TCエンタテインメント©2013「ぼくたちの家族」製作委員会.
『ぼくたちの家族』通常版 4,104円(税込) 発売元・販売元:TCエンタテインメント©2013「ぼくたちの家族」製作委員会

『長いお別れ』

一方、映画『長いお別れ』は、少しずつ記憶を失っていく父とそれを支える娘たちの7年間を描いた作品だ。直木賞作家の中島京子さんの同名小説を中野量太監督が映画化。どんな状況にあっても、ユーモアを忘れずに生きる人々の姿が丁寧に描かれている。
慣れないアメリカの地で家族と暮らす長女と、カフェ経営を夢見ながらも、現実にはなかなかうまく行かない次女。人生にもがいているはずの二人だが、気づけば認知症当事者となった父に何でも相談している。父の一つ一つの言葉や行動に救われ、彼女たち自身が背中を押されていく。
長女の息子は「おじいちゃんはたくさんのことを忘れてしまったけれど、そんなに悲しんでいないのかもしれません」と口にする。そんな大らかさが作品全体を貫く。

『長いお別れ』DVD 4,180円(税込)発売元・販売元:TCエンタテインメント©2019「長いお別れ」製作委員会
『長いお別れ』DVD 4,180円(税込)発売元・販売元:TCエンタテインメント©2019「長いお別れ」製作委員会

相手への思いやりをどう表現するか、それは一人ひとり違う。家族と自分の関係について改めて考えたくなる3本だ。

「コロナ禍を生きぬく~認知症とともに」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について