コロナで会えないうちに母に私の存在を忘れられました【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
介護支援専門員(ケアマネジャー)の長澤かほるさんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.認知症の母(80歳)は施設に入居しているのですが、コロナの影響でしばらく面会できませんでした。先日、短時間だけ面会できたのですが、私のことがわからないようでショックでした。頻繁に面会に行けるようになれば、思い出してくれるでしょうか?(56歳・男性)
A.
久しぶりに会えたお母さまに忘れられてしまった切ないお気持ちが、伝わってきました。「思い出してくれるでしょうか?」というご質問ですが、その可能性はあると思います。認知症の人は、思い出すまでに時間がかかることがあります。短時間の面会だったということなので、もし十分な時間をとれていたら、ゆっくりと記憶が戻ってきたかもしれません。
これからもしばらくは、感染を防ぐために面会時間や日数に制限があると思います。そうなると同じようなお母さまの姿に、またがっかりするかもしれません。とはいえ、せっかくの貴重な面会の機会なので、心がけていただきたいことがあります。それは、やさしい気持ちが伝わるように、コミュニケーションの仕方を工夫するということです。特にやさしさが伝わりやすいのが、ボディタッチです。手を握ったり、腕をさすったり、肩をなでたり。触れることで愛情がストレートに相手に伝わり、「誰かな? この人、いい人だな」と安心感を抱いてもらうことができます。そうしたコミュニケーションの中で、自分と特別なつながりがある人だということを思い出すこともあるかもしれません。
自分が子どもだったころの思い出など、昔話をするのもいいと思います。「お母さん、○○の料理得意だったよね。あれ好きだったんだよな」というように、懐かしい話からじわじわとお母さまの記憶がよみがえることもあるでしょう。お母さまの部屋に、相談者の幼少期から現在までの家族写真を何枚か時系列に飾っておくのもいいと思います。
ぜひお願いしたいのが、面会のときに気を付けていただきたいのは「私のこと、誰だかわかる? 覚えている?」という言葉を使わないことです。テストされているような言葉から、馬鹿にされたような印象を受け、ストレスになります。それよりも「A(名前)だよ。元気にしてた?」と先に名乗ってしまうのがいいと思います。
このようにコミュニケーションに工夫しつつ、触れ合えるその時々を大事にしてください。一方で「いずれは愛する家族のこともわからなくなるときがくる」という、現実的な心構えはもっておいたほうがいいでしょう。ある日突然、その日は訪れます。感情の記憶は残ると言われているので、たとえ息子だとわからなくても、愛情がなくなるわけではありません。息子や娘が、自分のことをわからなくなった認知症の母に「お母さん、大好きだよ」と伝えると、「私も大好きよ」とメッセージを返してくれるというのは、よくあるエピソードです。
感情の交流を大事にすることを目標にして、これからも無理のない範囲で、面会に行っていただけたらと思います。
【まとめ】自分のことを忘れてしまった母に思い出してもらうためには?
- やさしさを伝えるようなコミュニケーションを心がける
- 母との懐かしい思い出話をする
- 「私が誰だかわかる?」と聞かない
- 「いつかは忘れてしまう」という覚悟をもつ