父亡き後、母がデイにも行かず引きこもっています【お悩み相談室】
構成/中寺暁子

認知症介護指導者の久保圭司さんが、高齢者や介護の様々な悩みに答えます。
Q.昨年父が亡くなり、母(70代)が一人暮らしになったので、デイサービスに通うようになりました。最初は楽しく通っていましたが「行っても意味がない」と言うようになり、とうとう行かなくなりました。近所付き合いもあまりなく、引きこもっているようで心配です(40代・男性)
A.一番近くにいた人を失った気持ちというのは、当の本人にしかわかりません。もしかしたらお母さんはまだ、お父さんを亡くした悲しみのなかにいて、前向きな気持ちになれていないのかもしれません。あのとき別の方法をとっていたらもっと長く生きられたのかもしれない、元気なうちに行きたいと言っていた場所に連れて行ってあげたらよかった、食べたいと言っていたものを食べさせてあげればよかった、会いたいと言っていた人に会わせてあげればよかった……。そんな後悔から、自分を責めてしまうこともあります。
息子である相談者が今のお母さんに対してできることは、お母さんが今抱えている喪失感、お父さんに対する思いや後悔などをしっかり聞いてあげることだと思います。前向きになるような言葉をかける必要はなく、ただ寄り添い、話を聞くだけで十分です。それはご家族にしかできないことです。お父さんのお墓参りに一緒に行って、どこかで食事をして過ごすような1日をつくれれば、お父さんの話も自然な流れでできるのではないでしょうか。
そうしたなかでお母さんの気持ちが整理できてくると、お母さん自身で自分の物語を上書きできるようになっていくと思います。例えばペットを飼うとか、新しい人間関係をつくっていくといったことで、お父さんのいない人生を歩き出していくはずです。気持ちが整理できたタイミングであれば、デイサービスに行こうという気持ちにもなるかもしれません。
お母さんの一人暮らしを心配して、「デイサービスに通ってもらえると安心」と考えるお気持ちはよくわかります。しかしそれは、相談者やほかのご家族にとってはいいことかもしれませんが、お母さんにとっては気持ちがついていかず、時期尚早だったと考えることもできます。本人のためだと思ってやったことが、実は自分自身のためでしかなかったということは、よくあることです。もちろんデイサービスで同じような体験をした人と共感しあえれば、いい方向にいく可能性もありますが、お母さんはそうではなかったのかもしれません。
私たちもケアする側として、自分たちが安心だから、ラクだからという理由でケアしていないか、本当に利用者のためになっているのかということは、いつも考えるようにしています。
近所づきあいがあまりないということですが、それも無理する必要はないと思います。お母さんのペースに寄り添って、お母さんがそのときどきで本当に必要としていることをくみ取れるといいですね。
【まとめ】父が亡くなり一人暮らしになった母。デイサービスに行かなくなり、引きこもっていて心配
- お母さんが今抱えている喪失感、お父さんに対する思いや後悔などをしっかり聞いてあげる
- 連絡はこまめにとり、お母さんの気持ちが整理できてから、デイサービスなどの介護サービスの利用を考える
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫
