認知症とともにあるウェブメディア

もめない介護

最後かも やっと会える!コロナ自粛からの面会解除 もめない介護63

クローゼットのイメージ
コスガ聡一 撮影

「親父、思ったより元気そうだったよ。大相撲の話をしたら機嫌も良かった。こまめに会いにいけたら、少し良くなるかもしれない」 

義父の入院先から電話をかけてきた夫の声は弾んでいました。6月アタマのことです。 

新型コロナウイルスをめぐる緊急事態宣言が首都圏で解除されたのを受けて、義父が入院している病院と、義母が暮らす有料老人ホームではそれぞれ、面会制限の条件が一部緩和。6/1以降、次のようなルールで運用するという通達が来ていました。

●病院

  • 面会回数……週に2回
  • 面会時間……1回20分以内
  • 面会人数……1回につき1名

●施設

  • 面会回数……週に1回
  • 面会時間……1回30分以内
  • 面会人数……1回につき2名
  • 面会場所……屋外の散歩など(感染リスクが高いとされる場所への外出は不可)

手指消毒、マスクの着用、検温の実施はいずれも必須です。病院と施設、それぞれ微妙にルールは異なりますが、要は少人数で短時間であれば、リアル面会ができそう。問題は、義父と義母が直接会うことがかなうのかどうか……。

義父母が一緒に過ごすチャンスは、今を逃せばもう無いかもしれない

 面会制限が緩和される少し前、「病状説明をしますので、来てください」と呼び出しがあり、夫とふたり、義父の入院先に行きました。今いる病院に転院したのは今年の3月上旬。転院時に医師と話して以来、初めての医師との面談でした。医師からは「義父の容体は安定しているけれど、良くなっているとも言い難い」と説明がありました。一進一退を繰り返しており、今後、急変もありうるし、そうでなくとも大きな肺炎などであっけなく……ということもあるだろう、と。

 今いるリハビリテーション病院で療養しながら、医療的なケアが充実している有料老人ホーム(ただし、満床)の空きが出るまで待機する。義母も同じホームの順番待ちリストに加えてもらっており、義父が移動し次第、義母も同じホームに移る算段をする。同じ施設にいれば、新型コロナウイルスの影響で面会制限が発生しても、少なくとも義父母が顔をあわせることができる環境を確保できるという目論見でした。

 しかし、その計画は義父の病状からいうと、おすすめはできないというのが医師の意見でした。

 「ただ、ご両親に一緒に過ごす時間を持たせてあげたいという、ご家族の気持ちはすごくわかります。正しいとも思います。もし、思い切ってギャンブルをするとすれば、今を逃したらチャンスはなくなるかもしれません」

施設にいる義母が、義父を見舞うことはできるのか

 医師は困ったような、でも笑顔でそうも言ってくれました。同席した看護師さんも「病状が安定してるときは、たんの吸引回数はもう少し減るんです」とも。ただ、医療職の方たちが寄り添ってくれたおかげで、少し冷静にもなれました。残された時間はそう長くはないかもしれない。

 義父は92歳、義母はもうすぐ89歳。ふたりの年齢を考えれば、いつだって「何があってもおかしくない」のだったのだけれど。面会制限解除の一報が入ったのは、そんな矢先のことでした。

 義母の見舞いを実現するには、病院と施設、両方に交渉する必要がありました。まずは施設に電話をかけ、義父の病状を説明し、感染予防を徹底することで、了承を得ました。ただし、「外出そのものはOKだけれど、義母の歩行能力はだいぶ衰えていて、介助または車椅子が必要」とのことでした。

 次に病院に連絡し、事情を説明。予約担当の医療事務の人が病棟と連絡を取り合い、「状況が状況のため、特例として付き添いを認める」という旨、確認をとってくれました。ありがたく思うのと同時にやはり、のっぴきならない状況にあることを実感します。

 さらに、義姉にLINEを送り、義父母の面会の段取りがついたことを知らせ、施設と病院それぞれに予約を入れてもらうよう、お願いしました(面会はいずれも完全予約制なのです)。

疎遠な間柄だった私にも、いつの間にか愛情が芽生えて

 冒頭でご紹介したように、病院は週2回まで面会できます。でも、義母が暮らす施設のほうは週1回です。そこで、まずは義姉に、義母と一緒に義父を見舞ってもらう。その数日後に、今度は夫に見舞いに行ってもらう算段をつけました。そして、その翌週には今度は、わたしが義母を連れ、義父の見舞いに行きます。もはや、パズル問題のようです。ややこしい!

 義父と久しぶりに会った夫によれば、義父はベッドに横たわったままではあったけれど、意識ははっきりしていたそう。「酸素マスクのせいで声は聞こえづらかったけど、こちらの投げかけに対しては、わりとしっかり受け答えしていたように思う」と聞いて、少しホッとしました。

 まずは「妻」である義母、そして「じつの子どもたち」である義姉と夫との再会をセッティングしたい。その順番にこだわったのは、義父の周辺にふわふわと立ちのぼってきた死の気配に恐れをなしたからでもありました。会いたいけど、会いたくない。でも、先送りできる時間はそんなには多く残されているわけではなさそうです。

 義父母がともに認知症だとわかり、介護がはじまった時点では、年に1回会うか会わないかの疎遠な間柄でした。だからこそ、とりたてて大きなショックはありませんでした。あの日から3年の月日が流れた今、「赤の他人なのだから、面会は血縁者優先!」と線を引こうとしています。そうすることで、なんとか正気を保とうと必死になるぐらいには、義父母への思い入れが生じてしまった自分に気づき、愕然としています。大丈夫か、この局面を乗り切れるのか。

 こうして、ついに実現した義父母の“リアル面会”の様子は、また改めてご報告します。

「コロナ禍を生きぬく~認知症とともに」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

この特集について

認知症とともにあるウェブメディア