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初オンライン面会 昭和一桁生まれのアドリブ力がすごい もめない介護61

新緑の公園のイメージ
コスガ聡一 撮影

京都、大阪、兵庫の関西3府県で緊急事態宣言が解除され、残すところは首都圏4県と北海道のみとなったタイミングの5月下旬。義母が暮らす有料老人ホームで、待ちに待ったオンライン面会がスタートしました。

オンライン面会に使用されるツールは「LINEのビデオ通話」です。施設のIDをあらかじめ登録したうえで、電話で面会日時を予約。約束の時間になると、施設のタブレットから家族の端末にビデオ電話をかけてくれるという仕組みです。

面会の前日は、ちょうど月1回のもの忘れ外来往診日でした。いつもなら家族が付き添うのですが、ここのところは新型コロナウィルスの感染予防対策の一環で、家族の付き添いはNG。施設の方が立ち会ってくれて、受診が終わったあと、義母の様子や医師からのコメントを電話で報告してもらうというスタイルに変わっています。

この日、立ち会ってくれたという施設長さんによると、薬の処方内容はこれまでと変わらず、食欲も旺盛。体操やレクリエーションにも参加していると言います。しかし、「先生は、意欲の低下を心配されていまして……」とも。

なんとなく言いづらそうにしている施設長さんに、「どういうやりとりから、意欲の低下を指摘されたのか、もう少し詳しく教えていただけますか?」と質問すると、次のようなことがわかりました。

もの忘れ外来のドクターが「意欲低下」を懸念しているのは、義母との会話の中で、前向きな発言が見られなくなっているため。たとえば、「食欲はどうですか?」と質問を投げかけると、「生きるために食べております……」と、どうも覇気がない。「睡眠はどうですか?」と尋ねると、「よく寝ているような気もしますし、そうでもないような気もします。きっと寝ているんでしょうね」と終始、他人ごとのような態度をとり続けていたようなのです。

早朝や夕方など、時間帯によって体の動きが鈍かったり、不安感が強くなったりすることもあるという説明もありました。たまたま往診のタイミングで調子が悪かっただけなのか、それとも……。

「おとといね、2回も転んじゃったのよ。オホホホホ」

そんなうっすらとした不安を抱えながら迎えた、オンライン面会当日。夫とふたり、ノートパソコンの前でスタンバイし、今か今かと連絡を待ちます。

「あらー、元気だった?」
画面に現れた義母は、ごく自然な調子で画面に向かってニコニコと話し始めました。隣で職員さんが操作してくれているおかげもあるのか、戸惑う気配は1ミリもありません。

「おとといね、2回も転んじゃったのよ。オホホホホ」

不穏な報告にギョッとする我々を尻目に、義母は上機嫌でしゃべるしゃべる。転んでしまったけど、今は気をつけているから大丈夫と、義母は胸を張ります。さらに「次に会う時は、転んだ人だなんて思えないぐらいの動きをお見せしますよ」と謎の選手宣誓をされ、思わず夫と苦笑い。

「おふくろ、転ばないでいてくれるのがいちばんだよ」
そう語りかける息子(わたしの夫)の言葉は軽やかにスルーし、「それはそうと、もうすぐ帰りますから」と宣言したかと思えば、亡くなった祖父母(義母の両親)の近況を尋ねるといった具合で、会話はあらぬ方向にピョンピョンと飛びまくります。

記憶のカケラをつないで会話を成立させてしまう、義母の見事なアドリブ力

しかし、面会スタートから5分ぐらい経ったころ、義父の話になると、会話のチューニングが合い始めました。

 「それはそうと、●●さん(義父の名前)の様子だけどね……」
義母 「……そうそう、あの方、どうしていらっしゃる?」

夫は、義父の存在を少しでも印象づけようと、あえて名前を出しながら、話を進めます。しかし、肝心の義母はキョトンとしていて、反応もボンヤリ。もしかして忘れちゃっている……? ハラハラしながら見守っていると、ふいに「こんなときに入院だなんて……ねえ?」と、ちぐはぐだった会話がスムーズにつながり始めました。

そして、なぜか新型コロナウィルスの話になると俄然、チューニングが合ってきました。

義母「なんだか、みんな大変なことになっているみたいね。お互い避けているんでしょう?」
わたし 「そうなんです! 感染しないよう、わたしたちもなるべく家にいて……」
義母 「大変よねえ。自宅と職場が一緒だと疲れるでしょう」
わたし 「お義父さんの病院も面会が禁止になっていまして……」
義母 「慎重に判断していらっしゃるのね。お医者さまの腕はたしか?」

改めてやりとりを振り返って見ると、“思い出したフリ”のあてずっぽうだったのかもしれません。そうだったとしても、記憶のカケラをうまくつないで、なんとなく会話を成立させてしまう、義母のアドリブ力はお見事!

昭和一ケタ生まれの適応力に圧倒され

オンライン面会の時間は1回あたり10分間。楽しそうにおしゃべりする義母をまだまだ眺めていたかったけれど、時間が経つのはあっという間。

 「おふくろ、記念撮影をして親父に送ろうと思うよ。そのまま、画面を見ていて」
義母 「あら、そんなことができるの」

夫が声をかけると、義母は画面の向こうで声をたてて笑っています。夫とわたしは大急ぎで、座る位置を変え、ノートパソコンを自分たちの真ん中に据えて、自撮り。スリーショットの撮影に成功しました。

わたし 「とにかく、ウイルスに気をつけながら、お互い元気に過ごしましょうね」
義母 「あなたたちも転ばないように気をつけて」
 「こっちのセリフだよ!」

義母はビデオ通話に戸惑うどころか、終了直前には「これを押すとパッと消えるんでしょ。パッと!」なんて言いながら、画面に向かって手の平を広げ、おどけてみせていたほど。また、「こういうときは、焦ってもしかたがないから。ドーンと構えていくのがいいわね」とも繰り返し言っていました。昭和一ケタ生まれの適応力たるや!

その生命力の強さに驚かされ、励まされるばかり。なんとか義父母が一緒に過ごせる環境を取り戻したい。そのためにも、こちらが先にダウンしないよう、気合いを入れ直さなくちゃと、背筋が伸びる思いで、オンライン面会を終えたのでした。

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