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「夫婦同士での介護」か、一人暮らしでの「セルフ介護」の時代 親子の距離感に悩む50代 見逃せない一人暮らし世帯の増加【インサイト調査・介護編②】

朝日新聞社の「project50s」が実施した40代、50代、60代の人たちのインサイト調査のインタビューや厚生労働省のオープンデータを重ね合わせて読み解いていくと、すでに「介護は配偶者同士で行うもの」であり、一人暮らしでの「セルフ介護」の人たちも今後増えていく社会に移行していくことが浮かび上がりました。連載4回目は、「介護編②」です。実際に介護を経験したり、現在介護をされたりしている50代や60代の人たちからは、親の介護を巡る課題とともに自分たちの老後についても「子どもたちとどのように距離をとるのか、不安でいっぱい」という声が聞こえてきました。

もはや「介護は配偶者同士や自分で考えて手配すること」なのかもしれない社会

インサイト調査では、アンケートのほか、協力いただけると回答した方の中から26人にインタビューしています。その中で深掘りしたキーワードが、「介護」や「生活サポート」、「親子関係」、「自分の老後」といった点です。

厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、「要介護者のいる世帯」で一番多いのが、「核家族世帯」の42.1%です。「単独世帯」も30.7%です。2000年4月にスタートした介護保険制度ですが、2001年当時は、「核家族世帯」は29.3%、「単独世帯」は15.7%で、一番多かったのは「三世代世帯」の32.5%でした。

「高齢者世帯」の割合は、2001年当時は、35.3%でしたが、2022年には61.5%になっています。

つまり、高齢者の配偶者同士で介護をしたり、要介護状態になっても独居で暮らす高齢者が増えてきたりする社会になってきています。

もはや、「介護は配偶者同士や自分で考えて手配すること」なのかもしれません。

在宅での介護世帯が圧倒的に多い

また、「要介護度」でみると、「要支援者」がいる世帯は32.8%、「要介護者」がいる世帯は64.9%ですが、「要介護度」が上がるほど世帯割合は少なくなっていきます。これは、この調査では、特別養護老人ホームなどの施設入所者が、世帯に含まれないためと思われます。現行制度では、基本的に要介護度が3以上で特別養護老人ホームに入ることができるため、要介護3以上の人は施設入所へと移った人が多いと思われます。それでもなお、要介護35までの世帯割合を足すと、25.9%です。つまり、要介護度が高くなっても在宅での介護世帯が多くいるということになります。

在宅介護をする「同居の主な介護者の年齢」は、50代は17.2%、60代は29.1%、70代は28.5%、80歳以上は18.4%といったように、高齢者同士による介護が主流になっていることが分かります。

両親は無年金だから早い時期から預貯金の把握と支出のシミュレーションをした

インサイト調査のインタビューでは、50代や60代で親の介護や生活サポートに関わる課題が浮かび上がってきました。

会社員の女性(50代)は、一昨年から福岡県の実家に戻り、要介護認定で要支援2の母親(80代)と弟の3人の生活を始めました。両親は商売をしていましたが、公的年金には頼らず、無年金状態でした。母は会社勤めの経験がありましたが、10年未満。民間の年金保険に入っていました。父が亡くなり、母も歩行に障害が出てきたことから、東京での仕事を辞め、福岡に戻ったそうです。

「我が家は早い時期から、両親はいくら預貯金があるのか、介護にはいくらかかるのか、預貯金の減り方や介護保険サービス利用による支出の増え方もシミュレーションして年表にしていました。そのうえで、『この時点でお金が足りなくなったらお願いね』ということで引き受けることにしていました」

女性は、現在、母の金銭管理をしています。何でも取り上げてしまうのではなく、自分の力でできることはしてもらうようにしています。

東京などで医療関連の仕事をしていた女性が、親の介護で故郷に戻った理由の一つには「誰が関わるかで、得られる医療や介護のサービスが違ってくる」という現実を知っていたからです。

「私のお給料は下がるかも知れないけれど、母の残りの人生を看ていこうと思いました。母はよく『家で死にたい』と話していたので、在宅医を探さなければいけません。正直、葛藤もありました。ただ、私自身も50代になり、更年期障害がつらくなり、キャリアチェンジをしないといけないと考えていた時期でもありました」

介護の勉強をしても「介護される側も、介護する側も、『生身』ゆえ、なかなか難しい」

千葉県に住む元介護職員の女性(50代)は、両親を故郷から呼び寄せ、順番に在宅介護をしていましたが、母は看取りまで寄り添えたものの、父の介護は昨年あきらめ、介護施設を利用する選択をしました。

「50代になったとき、介護職員のための『初任者研修』という講座を受講し、その後、障害者のグループホームで働き出し、『実務者研修』も受けました。理由は2つあります。50歳を超えて、親の介護をしていると、親の介護にどのように関わるかという道筋や自分の老い先のことをどうしたいかという道筋を立てておかないと迷惑がかかると思いました。母は、故郷でボランティア団体を主宰していました。母は『なして、なして』と、自分が支えられる側になっていることを受け入れられない状態でした。子である私が先を考えて動かないとだめだと考えました」

女性は、母の看取りはしましたが、ほぼ連続してケアをしてきた父の介護は、自身の体調にも影響が出てきたため、介護保険サービスを利用しての在宅介護を断念せざるを得ませんでした。

「介護される側も、介護する側も、『生身』ゆえ、なかなか難しいことが多いです」

現在、これまでに培った経験が、何かにいかせないか検討しているそうです。

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親に代わっての断捨離が心の負担

自由業の女性(50代)は、東京都内の自宅で夫や子どもと暮らしていましたが、母の老いに伴い、同居を始めました。母は2年ほど前に認知症を発症しました。

「私は一人っ子で誰にも身内に相談できず、知識もなかったので大変でした。今日も、母を病院に連れて行きましたが、進行が早いようで私のことも分からなくなってきています」

元気なときに「誰にも迷惑は掛けたくない」と思っていたとしても、難しいと感じています。

「例えば、『認知症になったら、介護施設に入れてね』といっていたとしても、費用や手配といった負担が子世代にかかっていきます。50代や60代の友だちが集まると、自分の健康、親の介護、お墓、実家じまいでみなさん苦労していることが分かります」

女性はすでに断捨離を始めています。

「子どものころのひな人形や七五三や成人式の着物。1回しか着ていないものもあります。処分するにしても、心の負担になっています」

自分たちの老後は「子どもたちとどのように距離をとるのか、不安でいっぱい」

千葉県の女性(60代)は、定年退職し、現在は年金生活をしています。現役時代は忙しくて十分できなかったことを楽しめるようになりました。パーソナルジムに通ったり、英会話を習ったり、合唱サークルに参加したりして、充実した毎日を送っています。

「家に閉じこもっていると認知機能が落ちたり、うつになったりしてしまいそうなので注意しています。仕事に生きがいを求めてきたので、充実感は若干違いますが……」

子どもは2人いますが、「老後、子どもたちとどのように距離をとるのか、不安でいっぱいです」といいます。

「パートナーとも、家事が面倒になってきたら食事付きの老人ホームに入りましょうと話しています。子どもに面倒を見てもらうのはやめようと考えています。看取りまでやってくれるケア付きの老人ホームがいいですね」

すでに終活の一つとして、物を買うことを控え、大きな家具や思い出の品々を捨てたりしており、今後も、働いていた当時のスーツを捨るといった断捨離をする予定だそうです。

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一番大切なものは「家族」だからこそ悩み・苦しむ

50代や60代の人たちにとって、親の介護にどこまで関わるのかについては、【インサイト調査・介護編①】(https://nakamaaru.asahi.com/article/15107145)で紹介したように、「距離感を持っていたい」「なるべく関わる時期を先送りしたい」などといった感覚を共有していました。もちろん、個人差や家族差がありますので、一様ではありません。

【インサイト調査・介護編②】では、親の介護に関わる人たちの課題を中心に取り上げてきました。介護のために帰郷してのキャリアチェンジ、無年金、断捨離への心の負担、自分の老後での子どもとの距離感などの課題です。

インサイト調査のアンケートでは、直接、介護に関わる質問ではありませんが、「人生の中心に置いているもの」として、「家族」を選んだ人が40代で66.2%、50代は割合が落ちて38.7%、60代は37.7%でした。これは50代になると、「健康」や「趣味」を挙げる人が急増したためです。いずれにしても、一番大切なものは「家族」と考えています。だからこそ、介護編①や②のインタビューでありましたように、みなさん、悩み、苦しんでいる部分を介護には抱えています。

アンケートの「夫婦関係またはパートナーとの関係に満足していますか」という質問には、「大変満足」「どちらかというと満足」の両方を合わせた人が、40代は62.0%、50代は56.8%、60代は62.3%でした。インサイト調査で浮かび上がってきた「配偶者同士での介護」を前提とすると、この関係性は重要になってきます。

これは厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、「同居の主な介護者」の性・続柄でも、配偶者が圧倒的に多く、2023年は2019年よりその割合が増えている点です。「子」だけでなく、「子の配偶者」の割合も10%未満であることから、子世代による介護はもはや「夢の国の世界」になりつつあるとみられます。

「要介護1」でも介護時間が「ほとんど終日」「半日程度」の介護者が20%

また、厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」の「同居の主な介護者」の介護時間の割合によると、「要介護2」では、「必要なときに手を貸す程度」が45.0%ですが、「要介護3」以上になると、この割合が急激に減り、「ほとんど終日」が増えていきます。ただ、ここで見逃してはいけないのが、ある程度の日常生活の動作は自分でできたとしても運動能力や認知機能の低下によって一部で介助が必要な状態を示す「要介護1」の同居の介護者のうちでも、「ほとんど終日」や「半日程度」を介護時間に費やしているという人の割合が、20.7%いることです。「要介護2」では、29.3%になります。

要介護認定を受けた理由や状態は、人によって違いますが、同居する介護者の生活のかなりの部分を占めていることが分かります。

一方で、「配偶者同士の介護」が当たり前な社会とすると、例えば、立ち上がり、歩行、入浴、排泄などは介助がなければ行うことが難しく、思考力や理解力が低下し意思疎通が困難な状態である「要介護4」や、ほぼ寝たきりで日常生活動作のすべてにおいて介助が必要になる「要介護5」では、同居する介護者が「ほとんど終日」や「半日程度」を介護時間に費やしている人の割合が、「要介護4」で61.2%、「要介護5」で80.3%になります。

もちろん、この数字は高齢者同士による介護だけではないですが、介護者も同じようにフレイルやサルコペニアになっていくこと、さらに健康寿命が伸びていき、実際の介護生活が始まる年齢が高い年齢になっていくことを考えると、世代による分断は避けなければいけない点です。

これから男性も一人暮らしの介護生活を送る人たちが増えてくる

インサイト調査のアンケートで予想外だった点が1つあります。それは50代や60代で「配偶者はいない」という人が、40代は18.3%、50代は18.1%、60代は17.7%いたことです。もちろん、これは有効回答に占める割合なので社会の人口動態を示しているものではありません。しかし、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」では、2040年に向け、65歳以上人口に占める一人暮らしの人の割合が増加していくことを示しています。また、特徴的なのは、男性に比べて女性は平均寿命が長いことから、女性の一人暮らしの高齢者の割合が高いですが、年々、男性の一人暮らしの高齢者の割合も高まり、女性との差が縮まっていくとみられる点です。

つまり、現在、アラフィフや50代の人たちは、女性だけでなく、男性も、一人暮らしの介護生活を送る人たちが増えてくるということです。

次回は、インサイト調査の各論としてメディアの利用を分析していきます。

project50s インサイト調査とは

このインサイト調査は、朝日新聞社の「project50s」が実施しました。質問のジャンルは、「ウェルビーイング」「ソーシャルグッド」「ライフシフト」「ライフスタイル」「家族関係」「お金」「住まい」といったテーマで、みなさんが何に関心を持ち、何に時間を費やし、何に幸福感を得ているのかといったことなどについて、約60問(選択式、記述式含む)についてお聞きしています。

調査は、2023年5月2日~5月28日で、インターネットを通じて、主に40代、50代、60代の人たちを対象に行い、497人から回答を得ました。そのうち、50代は243人、60代は175人、40代は71人でした。男性は217人、女性が268人で、「その他」「答えたくない」という人は12人でした。回答者の職業をみると、男性も女性も仕事をしていることが分かります。

このシリーズ「project50sインサイト調査」では、「50代の人」の調査結果を隣接する世代と比較または50代の中での比較とともに、追加でご協力いただいた26人の人たちへのインタビューの結果も含め、アラフィフや50代のインサイトを読み解いていきます。

企画・分析・執筆 岩崎 賢一(いわさき・けんいち)
朝日新聞社 シニア事業部 メディアプランナー

朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで記者、及び弊社の「apital」「withnews」「論座」「telling,」など各種webサイトのエディターを経て、現在は「なかまぁる」をベースにミドル・シニア領域で活動。各種webサイトで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事や暮らしの現場から社会や経済を分析する記事、ストーリー性のある記事を執筆。現在も毎年、数十人のデプスインタビューや関係者のインタビューを繰り返している。これらの知見をベースにwebコンテンツの企画制作や50代を中心としたミドル・シニア世代のインサイト調査をベースにしたコミュニケーションプランの作成や市場分析によるコンサルティングを実施(担当)している。2012年、「プロメテウスの罠」(「病院、奮戦す」担当)で日本新聞協会賞受賞、2015年5月、ドキュメンタリー番組「県境が分けた 置き去りにされた宮城県丸森町筆甫~」でギャラクシー賞奨励賞受賞。

*インサイト調査のサマリーは下記のインフォグラフをクリックしてください

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