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一人っ子で遠距離だけど親の介護の準備はこれから 「週7日動く」ライフスタイル インクルーシブ社会を実現したい 高橋真さんの「私のproject50s」

40代で通った大学院での研究から生まれたカードゲーム「ワンダーワールドツアー」と製作委員会代表の高橋真さん

高橋真さん(50)は、45歳のとき、仕事を変えた夫に「あなたは10年ぐらい仕事中心で好きにしていたのだから、私も2年ぐらいは好きなことをしていいよね?」と相談したそうです。夫の了解を得た後、考えた末に選んだのが大学院で学ぶことでした。「週7日間動く」ライフスタイルやインクルーシブ社会、これからの生き方、親の介護などについて聞いてみました。

高橋 真(たかはし・ちか)
1973年、大阪府生まれ。大学で社会学を学び、卒業後は「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」に入社。9年勤務した後、「20世紀フォックス ホームエンターテイメント」に転職。営業やマーケティング部門で11年間勤務した後、40代半ばで慶應義塾大学大大学院システムデザイン・マネジメント研究科に入学し修了。現在は「株式会社CHINTAI」広報室長及びメディアディビジョン部長、「NPO法人アクセプションズ」理事、大学の非常勤講師や研究員などを務める。夫、長男(中学生)、長女(小学生)。東京都在住。

裁量労働制で柔軟に対応

「週7日動く」ライフスタイル

高橋さんに、仕事以外で現在関わる社会活動を尋ねてみると、ずらっとでてきました。

1週間の生活は、月曜日から金曜日は会社員。裁量労働制で雇われているので、社会活動の時間をもうけるため、平日の日中や夕方に外れるといったことも柔軟に対応できています。

「結果出せばOK。時間で仕事をするよりは、『今週やらないといけないことはこれ』『中長期で手をつけるのはこれ』と考えて仕事をするようにしています」

――高橋さんと一緒にNPO活動をされている方と話したとき、正社員として働く選択肢もあったけど「非常勤職員として週4日働いて、週3日は社会活動したい。結果、週7日動いてます」と話していました。高橋さんも活動の幅が広いですね。

高橋さん:私もそんな感じです。週7日動いています。

講演をする高橋真さん(提供写真)

好意の循環によって人の気持ちが動くことを実感した

仕事と違う文脈

――高橋さんは、マルチタスクを自分に課している印象があります。

高橋さん:やりたいことに手を出しているという感じです。先週、小学校の朝の時間に本の読み聞かせのボランティアに行きました。手話の絵本の読み聞かせをしたのですが、思いのほか楽しかったんです。たった15分ですが娘と同じ学校で手話の分かる子たちが増えるだろうし、ボランティアを通じて地域の人とも仲良くなれるきっかけとなるよい時間でした。通学路に立つボランティアの方にはいつも感謝しています。また障害のある子の移動支援などは人手が全然足りていません、世の中にはちょっとしたみんなでできる助け合いはいっぱいあると思います。娘のおかげで、私は仕事とは違う文脈に気づくことができとてもよかったと思っています。子どもが生まれて、初めて違う時間の過ごし方が分かりました。支援が必要な子どもが生まれたから、世の中の大多数向けのビジネスだけではない、異なる目線を持つことができるようになりました。

――「仕事と違う文脈」「世の中の大多数の人向けのビジネスだけではない目線」を養えたことが今につながっているのですね。

高橋さん:(ダウン症の)娘のおかげでサラリーマンじゃない文脈がすごく分かりました。例えば、ダウン症の啓蒙活動や、インクルーシブな社会の実現を目指して活動している「アクセプションズ」で、「メガネの田中」という広島を中心に展開している会社と一緒に活動をしたことがあります。CSRの一環で、ダウン症の人たちはメガネをかけている人が多いので「メガネを寄付します」いう話をいただきました。でも、メガネはプレゼントしてもらっても調律をしないといけないため頂いてもそこから配ることが難しい状況でした。そこで、当時、「メガネの田中」が行っていたメガネをかけて笑顔の写真をInstagramに投稿する「スマイル・アクト」キャンペーンをしていることに気づきました。私たちからすると、ダウン症の人が世の中にいて、みんな楽しく暮らしていることを伝えてほしいわけです。そこで「アクセプションズ」がキャンペーンに協力して、「いいね」1つに対して何円といった形で寄付をしてもらう方法にして活動を始めたら、サラリーマンの私だったら達成できないような速さで目標を達成しました。好意の循環によって人の気持ちが動く感じを実感しました。

カードゲーム「ワンダーワールドツアー」(提供写真)

経済合理主義の評価軸しかなかったらソーシャルビジネスが成り立つのは難しい

ソーシャル・インクルージョン

カードゲーム「ワンダーワールドツアー」は、参加者が「さまざまな特徴をもった旅行者」になりきり、多様な旅行者と一緒に旅行をしながらミッションをクリアするゲームです。ゲームを行うことで知らない他者の疑似体験ができたり、助け合いともに過ごすよさを感じたりすることができます。

ゲームを企画する直接のきっかけは、40代で学んだ大学院での「学び直し」でした。そして高橋さんの長女が、ダウン症、知的障害、ADHD、難聴を抱え、子育ての中でさまざまな経験を積んできたことも影響しています。

――高橋さんの中でソーシャル・インクルージョンは関心があるテーマですよね。

高橋さん:インクルーシブな社会になった方が私も娘も暮らしやすいです。それは結局、いろいろな人にとってもいい状態です。ならばそういう社会を目指すのがいいのかなと思っています。

――そのためには社会的企業を増やしたり、社会実装みたいなことが必要になったりしてきます。ソーシャルビジネスがなかなか育たないのはなぜだと思いますか。

高橋さん:今の社会は経済合理主義が主になっています。その評価軸しかなかったら、ソーシャルビジネスが成り立つのは難しいですよね。福祉業界で働く人たちは、本当にやさしいし、支援が必要な人と真剣に向き合ってくださっています。しかし、彼らがソーシャルビジネスの組み立てをすることや、効率を上げ利益が上がる仕組みを考えることは難しいことも多いです。例えば、ゆっくり作業をしたら自分で出来て、そのことよって自己肯定感が高まるような仕事をしている障害のある人のことを、ビジネスでバリバリ仕事をしている人が優しくゆっくり待てるでしょうか。多分待てないでしょう。このように福祉的な分野で活躍できる人と、ビジネスで活躍できる人は得意なことが異なることが多く、両方を兼ね備えた人は本当に稀有だと思います。私の場合、社会的な活動に経済的な合理主義や利益を求めていません。このゲームは気軽に買っていただけるよう価格を3000円以下に抑えたかったため、定価を2500円(税抜)にしました。そのためカードを売ってもそれほど儲かりません。通常ビジネスでは利益率は何%と定めて定価を決め、コストを下げるために海外で制作をすることも多いです。しかし、このカードゲームは国内で障害のある方に作ってもらっています。お願いしている社会福祉法人には、今まで事務所に来てもすぐ帰ってしまったり、1時間ぐらいしか続かなかったりした方がいらしたそうです。しかし、その方は遊戯王のカードゲームが大好きで、このカードゲームの製作なら業務時間の最後まで作業を続けることができ、「次回、僕が来るときには、このカードゲームを作るお仕事はありますか」と聞いてきたそうです。それを聞くと、私としては「仕事(の発注)を切らしちゃだめじゃん」と思いますよね。

――制作費が捻出できて、製作をお願いしている人に適切な対価が支払われ、持続することが重要であって、自分の利益は二の次ということですね。

高橋さん:例えば、チラシを作ってゲームマーケットに出店したら数カ月分の利益が飛んでしまいます。そのためこの試みに賛同してくれる企業から得られる研修費などが、持続可能性を維持するための費用に回っています。ソーシャルビジネスというより、みんなの助け合いや、心意気に賛同していただける方の協力があって、うまく回していくようなモデルになっています。例えば、メディア系の大学で授業をしたときにすごくデザインにこだわったホームページやチラシを作るアイデアを出す方がいました。授業でこのゲームをやってみて、色覚が多様に見える人の見え方の話をした後に話を聞くと、「自分はすごくかっこいいものを作っているつもりだったけど、そういう人たちのことを1ミリも考えて作っていませんでした。次からそういうことを考えながら作ろうと思いました」というコメントが返ってくることがあります。これから社会に育っていく学生たちが、当たり前にそういう視点を持ってものづくりやサービスづくりに関わってくれることは、とってもうれしいです。そのため持続可能になるよう取り組んでいます。

カードゲーム「ワンダーワールドツアー」をする親子(提供写真)

少し自分に掛ける時間を増やし、自分を大事にしたい

50代のイメージ

――アクティブに40代を過ごしてきて、50代はどういうイメージを持たれていますか。

高橋さん:私は先のこと考える好きですが、50歳以上は結構ぼやっとしています。今やっている活動をやっていく感じですね。50歳を区切りとして捉えると、自分のことにかけている時間が少ないので、少し自分を大事にしようと思っています。

――自分を大事にするとは。

高橋さん:健康や趣味など自分のための時間をつくることです。今までそれに時間を掛けてこなかったわけではありません。しかし、さまざまな活動をしているので自分のための時間をとることがあまりできていませんでした。もう少し自分のためにヨガやピラティスをしたり、着物を着たりすることに時間を使おうと思っています。

――人間はみな等しく1日は24時間しかありません。高橋さんの活動は、これからはスクラップ・アンド・ビルドをしていくのですか。それともそれぞれを倍速で進めていくイメージですか。

高橋さん:50代になる前は早さと量ともに取り組んでいたのですが、これからはご縁を大切にして、バランスをとりながらより丁寧に取り組んでいきたいと思います。

一人っ子で遠距離なのでドキドキ

親の介護

――高橋さんはご両親の介護についてどう考えていますか。

高橋さん:私の両親は祖母の介護をきっかけに長崎に引越し、そのまま長崎にいます。夫は東京の人で義父はすでに亡くなっています。私は一人っ子なので、長崎だと遠距離介護になるのでドキドキしています。京都や大阪の親を遠距離介護した「一人っ子軍団」で飲みながら話を聞いているので、ぼんやりと知識が入っています。

――親子で話すことはありますか。

高橋さん:親子で話はそれほどしていません。そもそも両親の性格や、父は心臓のペースメーカーが入っていて、都心の電磁波に恐怖を持っているので、東京に出てくる気は1ミリもないと思います。「長崎と東京都でどんな風に介護をするのだろう?」って感じで、現在は放置ですよね。

――介護は自分が置かれた環境によってだいぶ違いますね。

高橋さん:両親の介護への備えは全然できていません。「私も悩んでいます」という感じです。

高橋真さん著書『障がいのある子と親のための小学校就学サポートBOOK』
社会課題を市民の創造力で解決することに取り組む「issue+design(特定非営利活動法人イシュープラスデザイン)」と「アクセプションズ」の高橋真さんによる著書『障がいのある子と親のための小学校就学サポートBOOK』(英治出版)が12月10日に発売されました。書名や書影の外部リンクをクリックして新しい画面をスクロールしていくと、本の内容をご覧になれます。

project50s 50代のインサイト調査の結果はこちら(画像をクリックすると記事が読めます)

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