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50代から考えるフレイル予防 親子で同時にチェックすることが私のセカンドライフを豊かにする

古屋聡医師

フレイルは高齢者が気をつけることと思っていませんか? フレイルは「加齢により心身が老い衰えた状態」のことで、これを防ぐためには、フレイルに陥らないようにすることと、フレイルが進行するのを防ぐことの2つが重要です。早く介入していけば健常な状態を維持したり、改善したりする可能性があります。2020年から75歳以上の高齢者で始まった「フレイル健診」ですが、フレイル予防へのスタートラインは50代の生活習慣病予防などから始まります。50sのみなさんも自分のチェックと同時に、敬老の日に親のチェックもしてみませんか。山梨市立牧丘病院の古屋聡医師にアドバイスをもらいました。

健康寿命に影響を及ぼす「フレイルサイクル」の7つのポイント

フレイルは「虚弱」な状態です。その予防のためには、どのようなサイクルで虚弱な状態に陥っていくのか、まずは「フレイルサイクル」を理解することが大切です。

  1. 慢性的低栄養
  2. サルコペニア(加齢による筋肉量の減少および筋力の低下)*疾患や加齢によることもあります
  3. 筋力低下
  4. 身体機能低下
  5. 活動量低下
  6. エネルギー消費量低下
  7. 食事量低下 *加齢に伴う食欲不振もあります
  8. 慢性的低栄養

こうしたことを予防するためには、50代からの健康管理が重要だといわれています。腹囲(お腹周り)、血圧、空腹時の高血糖、脂質の異常値のうち2つ以上当てはまる状態を「メタボリックシンドローム」といいますが、このメタボリックシンドロームや高血圧、糖尿病などの生活習慣病の予防と管理を継続的に行うことで、将来の脳卒中、心臓病、腎臓病のリスクを減らしたり、重症化を防いだりすることができるとされています。

60代や70代は、基礎疾患を治療や生活改善などでコントロールをしながら、フレイル予防を意識した取り組みをしていく時期です。柱は栄養をしっかりとる、体力づくり、人とのつながりづくり、そしてお口の健康があります。太りすぎを気にしすぎて、タンパク質の不足に陥っている人もいます。しっかり食べる高齢期の食生活へと変えていくことが大切です。

スタートラインは50代にあり、その取り組みが60代や70代のフレイル予防につながります。フレイル予防は心身の衰えに備えることがポイントです。

歩き続けることも、食べ続けることも、栄養保持と筋力維持から始まる

上のチェックリストは、フレイルを理解し、自分の「健康リスク」をセルフチェックするためにも有効とされています。これをもとに古屋医師にポイントを解説してもらいました。

――「歩く」ことが続けられることの大切さについて教えてください。

古屋聡医師(以下、古屋医師):私は元々、整形外科の医師でしたが、今は在宅医療のほか、「食べる」支援もしています。人間は、歩き続けたり、食べ続けたりしないとないと、歩く力、食べる力が落ちてしまいます。

――それはなぜですか。

古屋医師:筋力がすぐ落ちてしまうからです。例えば、病院に入院してベッド上で過ごしていたら筋肉量が落ちていくことが研究で分かっています。そのことは、口も同じで、例えば肺炎で入院して1週間絶食すると、食べる力が衰えてしまいます。

――食べる力とは何ですか。

古屋医師:舌もそうですし、口の周りの筋肉もそうです。人は呼吸をし姿勢を保持しながら、噛(か)んでまとめて飲み込んでいますから、これらの筋肉全てが「食べる力」といえます。

――歩くことも、食べることも、そのために必要な筋力を維持するためには「続ける」ということが大切なのですね。

古屋医師:高齢者ではなく、まだ健康という人たちも、外出を控えたり、友人知人と会わなくなったりして自然と歩かなくなると、足の筋力が弱ります。そうすると転倒しやすくもなります。マスクの下でしゃべらなくなって、ほうれい線が目立つようになったりもしましたよね。

――足の筋肉が落ちるということは、他の部分の筋肉も同時に落ちていっていることですね。

古屋医師:例えば、たまったおしっこを膀胱(ぼうこう)から出ないように保持しておく力は、実は筋肉の力なのです。うんちをがまんしたりするとき、おしりの筋肉を締めていますよね。おしっこもうんちもがまんする筋肉は共通していて、その力が弱くなると、ちょっとしたことでおしっこも漏れてしまいます。そういういわゆる失禁が自らの心も傷つけ、「外に出たくなくなる」ということが起きてしまうわけです。

キリギリスを謳歌しているときに、そうならないような発想をすることも大事

――フレイルのリスクが高い人にはどのようなアドバイスをしていますか。

古屋医師:筋力の少なそうな人は筋力をたくさん使うように「散歩をしてください」みたいなことをお話ししたり、「世間に出た方がいいですよ」「人に会うようにしてください」ということをアドバイスしたりすることがあります。フレイル予防には、社会参加が大事なため、「社会参加を継続してください」「新しいコミュニティに出かけるようにしてください」ということもいいます。もちろん筋力を使うためには「きちんと食事を摂る」ことが必須です。口腔ケアも大切ですので、「歯は一番大事な部分なので、常に食後の歯磨きだけでは心がけましょう」とも話しています。また喫煙者には「できたらタバコは止めましょう」と言い続けるかもしれません。

――歯磨きはなぜ重要なのですか。

古屋医師:口の中に栄養になるものが残ってしまうと菌が繁殖しやすくなります。食後の歯みがきで菌の栄養になるものを除去しておくためです。また、歯ブラシを口の中に入れることで、粘膜への刺激になり、舌や口の周りの筋肉を動かすことになります。これはのみ込む力全体の機能訓練的な意味もあります。

――フレイル予防をすることで、将来どんなメリットがあるのでしょうか。

古屋医師:転ばない、肺炎にならない、入院しない、早く死なない、ということにつながります。

――自立した状態が長く続くことにもつながりますね。

古屋医師:自立した、自分らしい生活を維持しやすいということになります。健康寿命を延ばす、という言い方でもできます。

――それは衰えてからではなくて、もっと前の段階から予防に取り組むことが必要だということですか。

古屋医師:それをしておくことが大切です。筋力も口の中も栄養も、機能が徐々に落ちてきているところに、何かアクシデントが起こるわけです。そうすると、骨折や肺炎などでバランスが崩れ、一気に悪くなります。入院など医療的・リハビリテーション的介入で復活していくことは可能ですが、以前の状態までは戻りきれないことが多いです。そうして加齢と共に、階段状に落ちていきます。その階段のきっかけを作らないという感じでフレイル予防を捉えてもらえるといいです。

――フレイル予防は何歳からすればいいのですか。

古屋医師:20歳を過ぎたら、育ちきったら、それからは老化ですよね。成長しきってからずっと頭の中に老化していくことを思い浮かべつつトレーニングしてほしいです。ただ20代30代は、仕事も遊びも忙しいし、友人との交流で飲食する機会も多いと思います。アリとキリギリスのキリギリスを謳歌しているときに、そうならないような発想をすることも大事です。

離れているからこそ親も子もフレイルチェックでリスクを知ろう

――フレイル健診の対象者は、75歳以上の高齢者です。最近は、高齢者の一人暮らしや高齢者のみの世帯が増えています。その子世代は、50代や60代でも働いており、共働きも多いです。また、「50代はまだ子育て中」という人も多くいます。そのため、親のフレイルに気づきにくいという傾向もあるのではないでしょうか。

古屋医師:「(高齢者のフレイル健診の結果を)お子様に送っていいですか」と聞くのもありだと思います。心配している子どももいますが、無関心な子どももいます。「親は元気に決まってる」と思う人もいれば、田舎にくるとうちのおじいちゃん、おばあちゃんは必ず畑のものをたくさん持たせてくれるので元気でよかったと思っていると、実は認知症だったというケースもあります。病院に入院してから「何でこんなに悪いんですか」と家族に聞かれることも多いです。だからこそ、そうなる前に、一定のことについて親子で情報を共有しておくことが重要になります。一定の客観的なことが分かります。

――客観的なデータを見る意味は。

古屋医師:「あと10年でうちにも介護の順番が来るんだ」というようなことがイメージできるようになると思います。

古屋聡(ふるや・さとし)
医師
東日本大震災から台風災害まで被災地の医療をサポートする。災害医療にも仲間の医療関係者とともに力を注ぎ、通称「ふるふる隊」のリーダーとして知られる。フレイル予防や口腔ケアの大切さを多職種連携の中で実践している。

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