「昭和の価値観、面倒くさい」 介護・生活サポートに対する親子関係ギャップに悩む50代 親の代理購入をしない人も50代で3割【インサイト調査・介護編①】
企画・分析・文:岩崎賢一、グラフ:唐木雅和・須永哲也、イラスト:ゆぜゆきこ
親の介護や暮らし方、ライフスタイルを巡り、価値観の相違に悩む50代の人たちが多いことが、朝日新聞社の「project50s」が実施した40代、50代、60代の人たちのインサイト調査のインタビューで浮かび上がりました。連載3回目は、「介護編①」です。親子の価値観の違いをキーワードに読み解いていくと、「昭和の価値観、面倒くさい」という声も聞こえてきました。この価値観のギャップは、介護・生活サポートに影を落とし、50代が抱える悩みの源の一つになっているようです。共働きが当たり前で「適度な距離感」を持って暮らしていきたいと考える50代にとって、親のために代理購入を「しない人」も3割いました。親と子のライフマネジメントのネックが浮かび上がりました。
別居で介護する「通い介護」で多数を占めるのが50代と60代
インサイト調査では、アンケートのほか、協力いただけると回答した方の中から26人にインタビューしています。その中で深掘りしたキーワードが、「介護」や「生活サポート」、「親子関係」といった点です。
厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、親と別居する主な介護者を年齢層別に見てみると、50代と60代で男女ともに約80%になります。親と同居する主な介護者のうち50代と60代は、男性で44.5%、女性で47.1%を占めます。また、70代と80代以上の同居家族による介護が、男性で48.1%、女性で46.4%となっています。別居する家族による主な介護者で圧倒的で多いのが、50代と60代です。
近年の高齢者のみ世帯の増加を踏まえると、「高齢夫婦による老老介護が基本」で、50代や60代の子世代は要介護度が比較的軽いときに「通い介護」や生活サポートをするという親子関係やライフスタイルが浮かび上がってきます。
「良妻賢母の刷り込みが強い」親世代 「子どもは親を優先して大事にするのが当たり前」という前提
東京都の会社員の女性(50代後半)は、今、一人暮らしをしています。夫は単身赴任で、子どもたちも独立し、「自由な時間が増えた」と感じています。
「趣味の集まり」「社会貢献活動団体」「職場の同僚の集まり」「勉強会」「学びの場」「SNS」といった多様なコミュニティに参加し、フルタイムで仕事をしているため、自由に使えるお金もあり、充実した生活を送っています。しかし、両親との関係について尋ねると、苦労が見えてきました。
「親とは価値観が違うので、適度な距離を保つように心掛けています。母親は80代前半で良妻賢母の刷り込みが強いからです。私が仕事に行っていることも『そんなに働かなくてもいいのに』と思っています。外出すると『何で出掛けるの』といわれます。一緒に住んだらストレス。掃除に週1回行く程度にとどめています」
千葉県の会社員の女性(50代後半)は、現在勤務する会社は60歳の定年で一区切りとし、その後はパート・アルバイトで別な職種の仕事もしてみたいと考えています。両親との関係について、こう考えています。
「常にわがままで、子どもは親を優先し、大事にするのが当たり前という昭和の感覚が面倒くさいです」
この女性は、夫婦関係には「どちらかというと満足」していますが、仕事と家事の両立もあり、「もっと一人の時間がほしいです」というライフスタイルを求めていました。
訪問介護サービスがあっても介護保険料を払っていても「自宅に他人を入れることを嫌う」親世代
最近、60歳になった兵庫県の女性は、58歳で仕事を辞め、現在は専業主婦をしています。夫婦で健康に気を使いながら、生活を楽しんでいます。両親はすでに他界しており、これから親の介護が始まるわけではありませんが、こう述懐します。
「親は近所に住んでいましたが、最後は介護施設に入所しました。80代の人たちは、自宅に他人を入れることを嫌う人が多くいます。我が家は、介護保険によるデイサービスやヘルパーを利用するための親の説得に半年かかりました」
埼玉県のパート・アルバイトをしている60代半ばの女性は、介護関連の仕事であるケアマネジャーをしています。仕事を通じて、介護へのプロセスにおいて親子関係や価値観が影響する現場を体験してきました。そんな経験から、社会のあり方についてこう考えています。
「現在80代や90代の方たちにとっては、自宅での一人暮らしが理想になっています。子世代との同居ではありません。しかし、介護保険サービスを利用することが必要になる状態になると、他人の介入や施設利用が困難なことが多くあります。『人の世話にならない』という元気な高齢者(アクティブシニア)が話題になりますが、がんばってもどうにもならない現実があります。結論としては、それぞれでいいという社会が楽でいいと思っています」
50代の28.8%、60代の40.0%が「親の代理購入をしない」
インサイト調査のアンケートでは、「両親が日常的に使うものを代理で購入する際、その費用は誰が負担していますか」という質問をしています。回答者は、40代、50代、60代なので、介護保険制度の要介護認定を親が受けているかは別にしても、介護・生活サポートの文脈でも読み取ることができます。
ここで注目されるポイントは、50代、60代で「両親の代理購入はしない」と回答している人が多いことです。50代の28.8%、60代の40.0%を占めています。ここまで高い数値を示すことは、アンケートを作成する際に想定していませんでした。
免許返納で移動手段が狭まったり、買い物に不便さを感じたりしている人が大都市近郊のベッドタウンでも増えている中で、子世代である50代や60代の感覚は、費用負担の問題以前に、親が利用する日常品の代理購入は「していない」、または「しない」と考えている人たちが相当数いるということです。
ECサイトを利用する人に限れば50代は38.9%の人、60代は39.4%の人が親の買い物で活用
ECサイトで物品を購入するライフスタイルも定着してきています。インサイト調査のアンケートでは、「ECサイトで購入する際、どの範囲の人が利用するものですか」という質問をしています。ECサイトの普及で、遠方に暮らす人にも物品を購入して届けることが簡単になったからです。ECサイトの普及といった社会サービスの進化が、そのまま別居する親の生活サポートに寄与しているかということを直接的に質問したものではありませんが、ECサイトを利用する人に限れば、50代は38.9%の人、60代は39.4%の人が活用していることが分かります。
親のためにどのような物品を購入しているかまでは質問していませんが、別居する親のライフスタイル、介護や生活サポートに必要なものがクリアになっていくことで、この割合は高くなっていくと思われます。
ライフマネジメントを難しくしている親子の3類型
「project50s」の関連記事でも指摘したり、インタビューで語ってもらったりしてきましたが、50代はまだ「子育て世代」であり、「もう一度チャレンジしたい世代」であり、「親の介護への取り組みはできるだけ先送りしたい世代」または「配偶者同士による介護や生活サポートに任せたい世代」というインサイトと重なり、50代の特徴がより色濃くなって浮かび上がります。
50代の子世代と80代の親世代を想定して、「親子で語ろう」というコピーがあちこちで聞かれます。しかし、ライフマネジメントは簡単ではありません。親子を取り巻く関係性や環境を考えると、経済的に余裕がある(=お金で有料サービスを豊富に利用することができる)か、時間的に余裕がある(=家族介護や同居などを通じて家族が直接サポートできる)か、または「自立」という願望をもとにお互いの生活に深入りしない(=老老介護や高齢者の一人暮らしに限りなく任せる)か、といった3類型に分類することができると思います。みなさんも、どれかに当てはまっていると思います。
ライフマネジメントを上手に行えている親子はどれぐらいあるでしょうか。
次回も、インサイト調査の各論「介護編」②として50代を分析していきます。
project50s インサイト調査とは
このインサイト調査は、朝日新聞社の「project50s」が実施しました。質問のジャンルは、「ウェルビーイング」「ソーシャルグッド」「ライフシフト」「ライフスタイル」「家族関係」「お金」「住まい」といったテーマで、みなさんが何に関心を持ち、何に時間を費やし、何に幸福感を得ているのかといったことなどについて、約60問(選択式、記述式含む)についてお聞きしています。
調査は、2023年5月2日~5月28日で、インターネットを通じて、主に40代、50代、60代の人たちを対象に行い、497人から回答を得ました。そのうち、50代は243人、60代は175人、40代は71人でした。男性は217人、女性が268人で、「その他」「答えたくない」という人は12人でした。回答者の職業をみると、男性も女性も仕事をしていることが分かります。
このシリーズ「project50sインサイト調査」では、「50代の人」の調査結果を隣接する世代と比較または50代の中での比較とともに、追加でご協力いただいた26人の人たちへのインタビューの結果も含め、アラフィフや50代のインサイトを読み解いていきます。
- 企画・分析・執筆 岩崎 賢一(いわさき・けんいち)
- 朝日新聞社 シニア事業部 メディアプランナー
朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで記者、及び弊社の「apital」「withnews」「論座」「telling,」など各種webサイトのエディターを経て、現在は「なかまぁる」をベースにミドル・シニア領域で活動。各種webサイトで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事や暮らしの現場から社会や経済を分析する記事、ストーリー性のある記事を執筆。現在も毎年、数十人のデプスインタビューや関係者のインタビューを繰り返している。これらの知見をベースにwebコンテンツの企画制作や50代を中心としたミドル・シニア世代のインサイト調査をベースにしたコミュニケーションプランの作成や市場分析によるコンサルティングを実施(担当)している。2012年、「プロメテウスの罠」(「病院、奮戦す」担当)で日本新聞協会賞受賞、2015年5月、ドキュメンタリー番組「県境が分けた 置き去りにされた宮城県丸森町筆甫~」でギャラクシー賞奨励賞受賞。
*インサイト調査のサマリーは下記のインフォグラフをクリックしてください