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50代の3人に1人が「1日8時間以上」を仕事に費やすライフスタイル 理想の比率は「仕事3:自由な時間2」 「定年レス時代」でもキャリアが生かせない社会にもがく【インサイト調査・仕事編】

2023年6~7月実施のインタビューから抜粋、無断転載厳禁

50代~60代前半の人たちへのインタビューとアンケートを組み合わせたインサイト調査をしたところ、50代の人たちの仕事を巡る光と影が浮かび上がってきました。連載2回目は、「仕事編」です。50代はまだ子育て世代ですが、一方で中高年賃金カット、役職定年、早期退職優遇、退職勧奨、再雇用といった負のワードが思い浮かぶ人も多いでしょう。「仕事と自由な時間の比率」や「1日に仕事・ビジネスに費やす時間」といった視点からアプローチすると、理想と現実のギャップにもがく50代の姿が見えてみました。その先の60代はキャリアを生かせない社会があり、人手不足もあり「定年レス時代」と喧伝されても「働くのは60代まで」というインサイトが浮かび上がりました。

60代でも44%の人たちが恒常的に残業や時間外労働

インサイト調査のアンケートでは、「可処分時間」を聞いています。通常、「可処分時間」は、生活時間から1次活動である睡眠や食事、2次活動である仕事や家事、育児を除いた時間を指します。今回のアンケートで、ここで示したグラフは1日(24時間)のうち、各ジャンルに対して、どれぐらいの時間を費やしているのか、聞いてみたものです。

アンケートの回答者の中には、フルタイムで働く人、パートタイムで働く人、定年前の人、再雇用や再就職で働く人など、多様な人たちがいます。これは回答者の中での特徴という前提ですが、50代は正社員として働く人が圧倒的に多ためか、仕事に費やす1日の時間は、3人に1人が「8時間以上」でした。1日7時間を定時とすると、53%の人たちが恒常的に残業や時間外労働をしている姿が浮かび上がりました。再雇用や再就職の人も多く含まれる60代でも、1日7時間を定時とすると、50代よりは低いものの44%の人たちが恒常的に残業や時間外労働をしているようです。

2023年5月実施のインサイト調査(アンケート)から抜粋、無断転載厳禁
2023年5月実施のインサイト調査(アンケート)から抜粋、無断転載厳禁

働くイメージは60代まで

一方、アンケートでは、40代、50代、60代、70代での「仕事と自由な時間の比率」についても質問しています。このグラフでは、現在の比率や過去の比率ではなく、年齢層ごとに理想のワークライフバランスを尋ねています。実労働時間換算でイメージした人もいると思いますが、情熱の方向け方を換算してイメージした人もいると思います。

40代は、50%の人が「仕事4:自由な時間1」を理想としました。5%の人が「仕事5:自由な時間0」を選んでいます。一方、「仕事3:自由な時間2」という人は27%にとどまりました。

50代になると、変化が見られます。最も多かったのが、「仕事3:自由な時間2」という人たちで39%でした。「仕事4:自由な時間1」という人も40代よりは少ないですが、31%を占めています。

60代になると、定年退職や再雇用、パートやアルバイト勤務という働き方を想像してか、またはライフシフトを想定してか、「仕事と自由な時間の比率」もかなりシフトチェンジしてきます。「仕事2:自由な時間3」が31%、「仕事1:自由な時間4」が28%とほぼ横並びとなります。ただ、「仕事3:自由な時間2」という人たちも22%いることを忘れてはいけません。自由な時間より仕事の比率が高い人は合わせると、30%になります。

70代は、自由な時間より仕事の比率が高い人は、1%に急減します。「人生100年時代」「生涯現役」など、働き続けることが推奨される時代になりましたが、ライフスタイルのイメージとしては、働くのは70歳までをイメージしている人が多いようです。

2023年5月実施のインサイト調査(アンケート)から抜粋、無断転載厳禁

年齢が上がるほど継続雇用のためには個人の事情に最大限配慮

コロナ禍が明けて、さまざまな仕事・職種で労働力不足が叫ばれています。高齢者の就労による、介護予防やフレイル予防に関する研究も少しずつ明らかになってきていますが、一方で雇用継続にためには、この世代ならではの留意点もあります。

東京都健康長寿医療センター研究所の論文「介護老人保健施設の規模による高年齢介護助手の導入実態と課題」によると、雇用維持のための課題や工夫として、実際に60歳以上の人を雇用している介護老人保健施設側にアンケートしたところ、「希望に合わせたシフト調整を行っている」「体調面での配慮」「定期的な面談等での心理的サポート」のような点が重要なことが分かりました。

*東京都健康長寿医療センター研究所の論文「介護老人保健施設の規模による高年齢介護助手の導入実態と課題」に関する記事はここから(https://nakamaaru.asahi.com/article/15088120

まだダブルワークだけど人生が好転

「ダブルワークが辞められない」という神奈川県の50代の女性は、決して悲観的ではありません。

民間の資格を取得し、自宅を使って個人事業主をしています。40代に興味や関心を持ったことを50代で学び、一歩を踏み出しましたが、本業の会社員(正社員)を辞めて専念するまでには至っていません。ただ、このチャレンジについて後悔はしていません。

「平凡に仕事をこなしてきましたが、子どもの後押しがあって今まで気になっていたけど踏み出せなかった世界に飛び込むことができました。人生が好転しました」

一方、アンケート結果のような理想のかたちで、仕事と自由な時間を組み合わせて働ける人たちだけではありません。群馬県の50代の男性は、40代のころ、親の介護のため「最後の5年間は仕事の時間を削りました」と振り返ります。具体的には1日8時間労働のところを5時間労働にせざるを得なくなり、その分、介護の時間が占めていったそうです。親と同居する単身者です。

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、2021年調査では「親と未婚の子のみの世帯」は528万4000世帯あります。65歳以上の高齢者がいる世帯の5世帯に1世帯の割合です。

朝日新聞社作成

ライフシフトに伴って生活の質を下げざるを得ない人たちも

アラフィフや50代での転職、または60歳での定年・再雇用といった仕事上の転機があります。しかし、勤務する会社の業績や給与システム、職場での立ち位置はさまざまです。転職するにしても、それは50歳なのか、50代なのか、60歳なのか、65歳なのか、タイミングで悩む人が多いと思います。

香川県の60代の男性は、「上司と部下の関係が逆転する職場で働くのは嫌なので出ました」と振り返ります。結局、同じ職場で働き続けることを選択せず、外に出る決断をして定年まで勤務しました。

兵庫県の60代の女性は、「50代のときはいつまで働くのか考えていました」と語ります。不況で職場がギスギスしてきたことが直接の原因でした。希望退職をしようとしても、60歳からの生活の準備が十分でなかったことに気づき、「お金はあるだけ使っていた生活」を見直し、生活の質を下げたうえで退職したそうです。

Getty Images

「まだ働ける」というモチベーションのある人たちが、それを生かせる職場にうまくマッチングできていない

こうしたインサイト調査で注意しなくてはいけないのが、ペルソナは1つではないということです。

今回は「仕事」をキーワードにしてインサイト調査の結果をご紹介しました。ただ、個別にインタビューをしていくと、それぞれにライフイベントが重なっています。離婚、ご自身の病気、親の介護、会社の業績不振等、さまざまです。個人の事情が働き方に影響していることがよく分かります。一方、「定年レス時代」ともいわれていますが、資格によって業務が可能な一部の専門職以外では、それまで人生で積み上げてきた仕事・職種・業務内容を、50代での転職や定年後の再就職で続けられる人は限られています。ごくわずかといった表現の方が実態に合っているのかもしれません。しかし、これは心身ともに「まだ働ける」というモチベーションのある人たちが、それを生かせる職場にうまくマッチングできていないことをうかがわせます。

次回も、インサイト調査の各論として個別の切り口で50代を分析していきます。

Getty Images

project50s インサイト調査とは

このインサイト調査は、朝日新聞社の「project50s」が実施しました。質問のジャンルは、「ウェルビーイング」「ソーシャルグッド」「ライフシフト」「ライフスタイル」「家族関係」「お金」「住まい」といったテーマで、みなさんが何に関心を持ち、何に時間を費やし、何に幸福感を得ているのかといったことなどについて、約60問(選択式、記述式含む)についてお聞きしています。

調査は、2023年5月2日~5月28日で、インターネットを通じて、主に40代、50代、60代の人たちを対象に行い、497人から回答を得ました。そのうち、50代は243人、60代は175人、40代は71人でした。男性は217人、女性が268人で、「その他」「答えたくない」という人は12人でした。回答者の職業をみると、男性も女性も仕事をしていることが分かります。

このシリーズ「project50sインサイト調査」では、「50代の人」の調査結果を隣接する世代と比較または50代の中での比較とともに、追加でご協力いただいた26人の人たちへのインタビューの結果も含め、アラフィフや50代のインサイトを読み解いていきます。

企画・分析・執筆 岩崎 賢一(いわさき・けんいち)
朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで記者、及び弊社の「apital」「withnews」「論座」「telling,」など各種webサイトのエディターを経て、現在は「なかまぁる」をベースにミドル・シニア領域で活動。各種webサイトで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事や暮らしの現場から社会や経済を分析する記事、ストーリー性のある記事を執筆。現在も毎年、数十人のデプスインタビューや関係者のインタビューを繰り返している。これらの知見をベースにwebコンテンツの企画制作や50代を中心としたミドル・シニア世代のインサイト調査をベースにしたコミュニケーションプランの作成や市場分析によるコンサルティングを実施(担当)している。2012年、「プロメテウスの罠」(「病院、奮戦す」担当)で日本新聞協会賞受賞、2015年5月、ドキュメンタリー番組「県境が分けた 置き去りにされた宮城県丸森町筆甫~」でギャラクシー賞奨励賞受賞。

*インサイト調査のサマリーは下記のインフォグラフをクリックしてください

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