怒りをメモしよう 自分の怒りの癖を知っていますか?【アンガーマネジメントから始まるケア(4)】
文:田辺有理子 イラスト:ゆぜゆきこ 構成・インフォ:岩崎賢一
自分の怒りの癖を知っていますか?
まずは自分が怒ったときにメモを取っていくことがスタートです。自分の怒りを可視化することで客観的に見ることができるようになります。その手法について、横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんと一緒に考えてみましょう。(なかまぁる編集部)
怒ったときに書き留める項目
怒りの感情と上手に付き合っていくためには、まず自分の怒りの癖を知ることが必要です。どんなとき、どんなことに怒っているのか、自分の怒りを分析してみましょう。感情は目に見えず捉えどころがないので、分析するために可視化する「アンガーログ」を紹介します。これは怒りのメモで、自分の怒りを客観的にみるための方法です。
このメモに書く内容は、日時、場所、出来事、そのときに思ったこと、感じたこと、そして怒りの強さ(点数)です。
いつ、どこで、何があったのか、具体的に出来事を書きます。出来事は、感情を含めずに事実のみを書きます。そのときに思ったこと感じたことの項目は、率直に思った通りに文字にしてみましょう。怒りの強さは、10段階で点数をつける「スケールテクニック」という方法です。これについては、「あなたの怒りの測り方」(https://nakamaaru.asahi.com/article/14716120)を参考にして下さい。
怒りのメモの項目
- 日時
- 場所
- できごと
- 思ったこと感じたこと
- 怒りの強さ(点数)
例えば
日時: 10月△日 9時30分
場所: ナースステーション
出来事:使おうと思ったら必要な器材が補充されていない
思ったこと:またAさんか。夜間に必要になったら大変
怒りの強さ:3
「事実」と「思ったこと」の混在に注意
すぐにメモすることがポイントです。介護や医療の現場で働く人、家族を介護や看護する人は、小さなノートをポケットに入れておきましょう。「忙しいときに、いちいち書いていられない」「書く暇があったら、業務を一つでも片付けたい」と思うかもしれません。でも、そんなときこそ、余裕がなく怒りっぽくなっているのかもしれません。
とはいえ、すぐに書けない状況もありますから、無理する必要はありません。自分の書きやすい形式で、簡単に書き留めるだけでも良いので、書くことを意識してみましょう。普段使っているスケジュール帳や日記を活用しても良いでしょうし、スマートフォンやタブレットでも良いでしょう。
メモすることで、怒りを客観的に見ることができます。
「あんなことがあった」「こんなことがあった」と周囲の人に怒りを話すのに、書くのは躊躇(ちゅうちょ)してしまう人がいます。書こうとしても、「事実」と「思ったこと」が混在してしまったり、自分の感情を表現できなかったりすることがあります。文字にして可視化すると、見ないようにしていた現実を突きつけられることでもあるものです。
自分の感情を認めることから始まる
医療や介護の現場では、患者や利用者の話や状態の観察データなどに基づいて治療やケア、支援を導きます。連携のため、記録することは重要な仕事です。しかし、日常業務のなかでは、自分の感情に焦点を当てて記録する機会はほとんどありません。相手の感情には敏感なのに、自分の感情には気づくのは苦手という人もいるようです。これは、在宅で介護や看護をする人が、訪問する介護や医療のスタッフとの連携用に日々の観察記録をする際にも共通している部分が多いでしょう。
怒りにうまく対処するためには、まず自分の感情を認めることが第一歩です。誰かに見せるものでもありませんから、書いてみることです。
怒りやすい時間帯、苛立つ相手、状況が分かってくる
ときどき「毎日怒ってばかりいるのに、いざ振り返ってみると何に怒っていたのか思い出せない」という人もいます。すぐに忘れているなら、たいしたことではないのかもしれません。それでも、忘れないうちに書き溜めていくと、怒りの傾向が分かってきます。
傾向が見えたら、対策も立てやすくなります。怒りやすい時間帯、苛立つ相手、状況などが分かってきたら、それが対処のための手掛かりになります。
例えば
日時: 10月○日 19時00分
場所: 自宅の玄関
出来事:家に着くなり「夕ごはんまだ?」といわれた。
思ったこと:私、仕事で疲れているの。
怒りの強さ:5
「仕事が忙しかった日は家に帰って小さなことにも怒ってしまうかも」「家族に対しては声を荒げてしまうことが多いかな」という具合です。
「仕事で疲れた日はスーパーの惣菜に頼ろう」というような小さな対策で気持ちが軽くなることがあります。
紙に書いて一読したら丸めてゴミ箱に捨ててしまってもいい
ちなみに私は予定外の割り込み業務にイラっとします。
書くことでその場の怒りが落ち着き、冷静さを取り戻す効果もあります。紙に書いて文字にすることで思考が整理されます。すごく怒っていたのに、書いてみたら小さなことに見えたりします。示した項目を全て書かなくても、出来事を紙に書いて一読したら、紙をクシャクシャに丸めてゴミ箱に捨ててしまうという方法もあります。そのときの怒りの感情も一緒に捨てるイメージです。不要な怒りを捨てて、気持ちを軽くできます。
次回は、「怒りの裏側の感情」をテーマに考えていきます。
【終了しました】田辺有理子さんを講師に招き、セミナーを開催します
なかまぁる編集部では、アラフィフや50代のLIFE SHIFT世代を対象にした「project50s」を始めました。コンテンツ&セミナーを基本とし、みなさんに満足度の高い情報をお届けします。
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- 田辺有理子(たなべ ゆりこ)
- 横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。