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山田悟医師がアドバイス(2) 食事の知識に誤解あり 「上手な不摂生」のすすめ

ダイエットの定番であるカロリー制限に対して、ゆるやかな糖質制限である「ロカボ」を推奨する医師の山田悟さん(北里研究所病院副院長・糖尿病センター長、一般社団法人食・楽・健康協会理事長)に、アラフィフや50代の人たちにとってWell-Beingな食生活についてインタビューしました。2月12日には、山田さんを迎えてセミナーも開催します。そのセミナーのプロローグについて、4回に分けてインタビューを掲載します。2回目は「食事の知識に誤解あり 『上手な不摂生』のすすめ」です。

科学的な裏付けのある不摂生こそ人生の醍醐味

――アラフィフの人たちが考える健康的な食生活は何かと考えたとき、今までのイメージを変える必要がある人たちが多いかもしれません。

山田悟さん(以下、山田さん):アラフィフの人たちは、これまで食生活をギアチェンジするときだといわれていたかもしれません。これまで節制を意識していた人たちは、「上手な不摂生をする」ということに意識を変えていただきたいのです。節制した人生なんてつまらないはずです。不摂生こそ人生の醍醐味です。もちろん科学的な裏付けのない不摂生は健康を害する可能性があります。上手に、もしくは賢く不摂生をする必要があるということです。

――「上手な不摂生をする」ということは、具体的にどのようなことなのでしょうか。

山田さん:それがロカボです。糖質制限という言葉を使うと、何かしらの制限感がある、何かをやめなければいけないのではないかと受け止められてしまうことがあります。「やめさえすればいいんだろう」と思う人がいますが、これが大間違いなのです。

頭を使わない「やめる」ことは楽だがつらくて続かない

――何が「大間違い」なのでしょうか

山田さん:どう少ない糖質の中で主食を楽しむか。どう少ない糖質の中でデザートを楽しむか。こういうことを考えながら食べるようにするということです。盲目的にやめることには頭を使いません。最初は楽ですが、つらくなっていき、続けられなくなります。いかに食べるか、頭を使わなくてはいけません。そのためには商品知識が必要ですが、それは1度身につけてしまえばいいわけです。レストランでも、コンビニエンスストアでも、スーパーマーケットでもそうです。何を買えばいいか、どこに売っているかということを知れば、後は選ぶだけになります。ちょっと勉強して、ちょっと工夫しなくてはいけませんが、始めてしまえば楽になります。どう食べるかを考えるということ。これがこれからのアラフィフに求められることです。

まず揚げ物やマヨネーズをやめることが正しいのか

――ゆるやかな糖質制限やロカボという言葉を聞いたことがあっても、日々の楽しみが取り上げられると誤解してしまい、先送りする人たちもいると思います。

山田さん:みなさんが食生活を改善しようとするとき、最初にやめがちなのが揚げ物やマヨネーズです。これには誤解があります。食べる脂質が多い方が血液中の中性脂肪が下がります。アメリカ心臓病学会では、2011年に食べる脂質が多いと血液中の中性脂肪が下がるといっていますし、それを支えるデータがあるわけです。

――例えば、誤解されている食べ物を挙げるとどのようなものがありますか。

山田さん:唐揚げとマヨネーズ、ピスタチオなどのナッツ、チーズ、アボカド、バターとかですね。女性が好きなものも多いです。パンを食べるときは、パンは小さいけどバターはたっぷりつけて大丈夫です。私もパンが小さくてもバターを同じぐらいの量をつけて「超おいしい」と楽しんでいます。デザートは、確かに普通に食べれば果糖も含めた糖質が多いので太りやすいですし、中性脂肪を上げます。しかし、人工甘味料は全然怖くありません。コーヒーや紅茶に人工甘味料で甘みをつけることは当然ですけれど、お菓子でも人工甘味料を使った製品がふんだんに出てきているので、そういうものをうまく利用して食べることが大事です。

フルーツを食べ過ぎると脂肪肝が起こりやすい

――フルーツも注意しなくてはいけないということですか。

山田さん:健康志向が高まっている中で、朝食はスムージーやフルーツでという人がいます。おいしく健康そうな感じがしますが、注意が必要です。果糖が中性脂肪になることを知らない人も多いですから。

――果糖ですね。

山田さん:果糖の化学式はC6H12O6 です(数字は前の文字に対応する原子の数で正しい表記は小さい数字)。ブドウ糖と全く同じですが、生体での動きが全く違います。ここからの話はUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のラスティグ先生の説に基づいた話ですが、ブドウ糖は小腸から吸収されると、それを処理するのは肝臓が2割、筋肉が8割とされています。一方、果糖は肝臓が100パーセント処理するとされています。糖質として果糖が過多になってくると、肝臓で処理しきれず、果糖の蓄積型である中性脂肪に変換し、結果として脂肪肝が起こりやすくなるというわけです。

――なるほど。

山田さん:でも食べちゃいけないということではなくて、糖質の量を1食1食20グラム以上40グラム以下に収めること、嗜好品での一日の糖質の量を10グラムの中に収めればいいのです。

将来の健康悪化で薬代にお金を使うか 健康維持のためにロカボにお金を使うか

――ロカボという言葉が世にでてきて10年ほどになりますが、社会もだいぶ変わってきました。コンビニに行っても、いろいろな商品が棚に並ぶようになりました。

山田さん:どんなに知識を伝えようとしても、広めたとしても、市場に商品がなかったら普及しません。私たちが2013年につくった「食・楽・健康協会」は、企業を対象にした勉強会を開いています。ロカボ商品を求めている人たちがいること、マーケットがあることを伝えてきました。実際、商品が作られるようになってきており、ますますマーケットが広がってきています。

――最近は、このような商品でもおいしくなってきて、手に取りやすくなってきたということですね。

山田さん:一部のコンビニやスーパーでは、ロカボ商品が棚やカテゴリーとして形成されるようになりました。「若干高い」と思う商品もあるかもしれませんが、将来の健康悪化で薬代にお金を支払うことを考えてみてください。10円や20円ぐらい高いことは気にならない人が増えてきたと思います。このようなお客さんが増えていくことが普及をするうえで重要です。こういうことに価値を感じる、健康を意識する人たちです。コロナ禍では、ロカボ商品の売り上げが伸びたようです。今まで血糖値は他人事だと思っていた人たちが、健康について考え、血糖値のことを自分事とし始めたのだと思います。

節制することが善であるという幻想からの転換を

――コロナ禍では、みなさん巣ごもりをしていました。

山田さん:リモートでの仕事になり、自宅からずっと出られなくてストレスがたまっていったときに、手元にロカボのお菓子があるとすごくありがたみを感じたようです。低糖質のパンも最高の売り上げだったようです。

――私たちには何が必要なのでしょうか。

山田さん:日本社会の中に、摂生することが善である、修行僧のようにして生きることは健康に利するという幻想がはびこっています。しかし、下手をすると「腹八分目」は、サルコペニアの高齢者が増える原因になります。昔から断食してやせる人がいますが、断食を定期的にやっていったときに筋肉や骨が衰えないという保障はどこにもありません。

◆続きはセミナーで

【終了しました】山田悟さんを講師に迎えたproject50sセミナー

○開催日:2月12日 13時~15時
○場所:朝日新聞社東京本社 本館2階 読者ホール
参加申し込み:下記のバナーをクリックし、peatixの「なかまぁる」イベントページから参加申し込みをしてください
○構成:第1部は講演、第2部は質疑応答

山田悟さん(やまだ・さとる)
北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長
一般社団法人食・楽・健康協会理事長
糖尿病患者に向き合う中、カロリー制限中心の食事療法では食べる喜びが失われている事実に直面する。その後、患者の生活の質を高められる糖質制限食に出会い、糖尿病治療に積極的に採り入れる。
2013年、食前のみならず食後の高血糖に対する社会的注意の喚起、血糖値測定の普及とその意義の啓蒙、科学的根拠に基づく最新の栄養学についての啓蒙、生活を楽しみながら健康になる社会の実現の4つの普及啓発を目的とした「食・楽・健康協会」を設立し、企業など社会実装にも取り組み始める。
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本医師会認定産業医。
主な著書は『世にも美味しいゆるやかな糖質制限ダイエット』(世界文化社)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など多数。

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