認知症とともにあるウェブメディア

参加する

山田悟医師がアドバイス(1) アラフィフだから気をつけたい 誤った糖質制限

運動をしなくても血糖値が下がる食べ方の普及啓発をしている医師の山田悟さん(北里研究所病院副院長・糖尿病センター長、一般社団法人食・楽・健康協会理事長)に、アラフィフや50代の人たちにとってWell-Beingな食生活についてインタビューしました。2月12日には、山田さんを迎えてセミナーも開催します。そのセミナーのプロローグについて、インタビューを4回に分けて掲載します。1回目は「アラフィフだから気をつけたい 誤った糖質制限」です。

アラフィフで食生活をギアチェンジする考え方に間違い

――40代後半からのアラフィフ、それに続く50代の人たちに、Well-Beingなライフスタイルを追求する人たちが増えています。がん、心臓病、脳卒中、高血圧、認知症などの発症リスクを食生活などライフスタイルの改善に努力することで下げるということが推奨されています。50代、60代は、自由度が増す年代でもあり、生き生きと過ごすためには健康が重要だと思います。アラフィフや50代が注意すべきポイントを教えてください。

山田悟さん(以下、山田さん):まず、30代や40代の人たちの間では、メタボ(メタボリックシンドローム)が問題になっています。それに対して「腹八分目」とか、「カロリー制限」とかが勧められています。一方、60代になると、今度は骨粗鬆症や筋肉の衰え(サルコペニア)の予防が勧められています。今、社会的には、アラフィフのところでギアチェンジをする必要があるとされています。アラフィフの前までは食べることを控え、50代から先は一生懸命食べましょうということです。

――アラフィフや50代で食生活のギアチェンジはどうすればいいのですか。

山田さん:自分はいつからスイッチを切り替えなくてはいけないのか、ギアチェンジをするのかということに注目している人がいるかもしれません。しかし、これが完全に間違いなのです。

カロリー制限で体重を落としてもリバウンドしてしまえば実質的に無効

――どこが間違いなのでしょうか。

山田さん:カロリー制限については、日本人を被験者としてカロリー制限の指導をしっかりやれば体重を減量し続けられているという論文がありません。逆に体重がリバウンドしてしまったというデータは報告されています。実体的にはカロリー制限は継続できないので、実質的にはカロリー制限は無効なのです。

――どうすればいいのでしょうか。

山田さん:まず、この(内臓脂肪型肥満をきっかけに脂質異常、高血糖、高血圧となる状態である)メタボに対しても、カロリー制限や極端な糖質抜きの食生活ではなく、おいしく楽しく緩やかに糖質を制限すべきです。私たちはこれを「ロカボ」と呼び、推奨しています。「ロカボ」では、肥満者だけ減量させ、やせている人の体重は落とさないということを確認しています。これは査読付きの科学雑誌「Nutrients」に2018年に発表したデータです。だから、実は若いときからお年を召すまでロカボでいけるのです。

――ロカボはどういうやり方をするのでしょうか。

山田さん:ロカボは、ゆるやかに糖質制限をするということです。具体的には、1食20グラム以上40グラム以下に糖質を制限し、かつ嗜好品(しこうひん)で1日10グラムの糖質を楽しむようにするという食べ方です。この食べ方をする際に、カロリーは一切制限しません。満腹感に委ねます。たんぱく質と脂質に関しては、毎食、食べるようにします。たんぱく質と脂質を食べると、それぞれで食後高血糖を是正することができます。食後高血糖こそが、実はさまざまな病気の根っこにあるのです。

肥満を改善したとしても高血糖が改善できない

――食べ過ぎが肥満の原因と考える人も多いと思います。食後高血糖の説明を少しお願いします。

山田さん:昔は、食べすぎ、つまりカロリーの過剰摂取とそれによる肥満がいろいろな病気の根っこにあると考えられていました。しかし、肥満を改善しても、一般的には高血糖は改善できないということが分かっています。糖尿病になりたての人だけは解決しますが、糖尿病になって数年以上経った人たちは、体重が減量できたとしても血糖値を改善できません。それでは、何が根っこにあるのかというと、食後高血糖です。食後高血糖こそが、あるいは、その後の遅延過剰型のインスリンの分泌による、急数な血糖の下降が(これをグルコーススパイク、血糖値スパイクと呼びます)、あらがいようのない飢餓感を起こし、食べ過ぎになり、その結果、肥満になっていきます。肥満は高血圧症、高脂血症に関わり、また、食後高血糖になって10年ぐらい先で空腹時血糖値の異常を、その1~2年後には糖尿病にもなります。

食後高血糖を是正できれば生活習慣病にブレーキかけられる

――ゆるやかな糖質制限をするとどのようなメリットがあるのでしょうか

山田さん:糖質を制限することによって食後高血糖を是正できれば、メタボを構成する内臓脂肪の蓄積、高血糖、高脂血症、高血圧といった生活習慣病のいずれにもブレーキをかけることができます。さらにその先の動脈硬化症でも、血糖値が高いということで糖化反応が起きたり、血糖の変動で酸化ストレスが起きたりすることが分かってきています。それによって、動脈硬化症以外にも発がんへのブレーキになるだろうということで、メタボのときからロカボがすごくいいというわけです。

――何を制限して、何を制限しなくていいのか、そこへの理解が大切ですね。

山田さん:おっしゃる通りです。制限すべきは糖質だけ、強いて加えるならあとは塩分だけです。先ほど述べたように、たんぱく質と脂質をしっかりとり、満腹感によってその人にとっての適正なエネルギー量を教えてもらうということです。自分の生存本能によって適切なエネルギー摂取量を教えてもらうことは、肥満をきたさずに筋肉や骨を強くすることができるということでもあります。

◆続きはセミナーで

【終了しました】山田悟さんを講師に迎えたproject50sセミナー

○開催日:2月12日 13時~15時
○場所:朝日新聞社東京本社 本館2階 読者ホール
参加申し込み:下記のバナーをクリックし、peatixの「なかまぁる」イベントページから参加申し込みをしてください
○構成:第1部は講演、第2部は質疑応答

山田悟さん(やまだ・さとる)
北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長
一般社団法人食・楽・健康協会理事長
糖尿病患者に向き合う中、カロリー制限中心の食事療法では食べる喜びが失われている事実に直面する。その後、患者の生活の質を高められる糖質制限食に出会い、糖尿病治療に積極的に採り入れる。
2013年、食前のみならず食後の高血糖に対する社会的注意の喚起、血糖値測定の普及とその意義の啓蒙、科学的根拠に基づく最新の栄養学についての啓蒙、生活を楽しみながら健康になる社会の実現の4つの普及啓発を目的とした「食・楽・健康協会」を設立し、企業など社会実装にも取り組み始める。
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本医師会認定産業医。
主な著書は『世にも美味しいゆるやかな糖質制限ダイエット』(世界文化社)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など多数。

「project50s」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

この特集について

認知症とともにあるウェブメディア