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診察室からエールを

味と匂いを感じにくい。コロナとよく似た症状もあるアルツハイマー

kirin

倉科 典子さん(73歳): 味やにおいを感じない

大阪の下町で、松本一生先生が営む「ものわすれクリニック」に、味や匂いを感じにくくなった女性が来院しました。新型コロナウイルス感染症の症状にも似ています。さて、先生はどんな診察をして、彼女にエールを送るのでしょう。

倉科さん、初めまして。担当の松本と申します。今日は初診ですから、あなたが相談したいと思っておられる課題を教えてください。
内科の先生からの紹介状には、倉科さんがこれまで何年も糖尿病と向き合ってこられたことが書かれています。これからはこの先生が身体面を内科医として、そしてボクが倉科さんの精神面を担当しますね。

あなたの困りごとは「ものわすれ」ではないんですね。アルツハイマー型認知症の病名も、内科の先生から紹介された病院の神経内科で3年前に診断がついていますね。すでに告知も受けて、倉科さんは病気と付き合っていく覚悟を持っていることがわかりました。経過もよくアルツハイマーは悪化していませんね。

新型コロナウイルスと同じ症状…

紹介状には「味やにおいを感じにくくなっていて、そのことを心配している」と書いてありますね。これはまた、ずいぶんと今日的な話題ですね。昨年の夏ごろでしたか、新型コロナウイルス感染症にかかった人が、味を感じないということが報道されて、ずいぶん世間が騒然となりましたからね。
あのウイルスは口の中にたくさん出て、唾液でのPCR検査ができますからね。味覚や嗅覚は口の中にある細胞やにおいの嗅神経が感じるのですが、ウイルスが神経にある程度の影響をもたらして味覚、嗅覚が低下するようです。

各科の協力が必要

あ、内科の先生はボクが認知症専門医であると同時に、かつて歯科医師をしていたことをご存じなんですね。「認知症専門医で歯科医師でもある両面から、倉科さんの症状を見てあげてほしい」と書いてあります。
耳鼻科は受診されましたか。味覚や嗅覚の専門医で、ボクも歯科医としてずいぶんと助けてもらいました。そうですか。耳鼻科としては異常なしとの返事なんですね。口腔外科はいかがでしたか。歯科の一分野で、歯科医が主ですが、なかには医師として口腔外科を専門としている先生もいて、舌癌などの手術をしてくれます。

亜鉛が欠乏している場合や、舌のざらざらした面、あ、そうそう表面のざらざらです。そこには味蕾(みらい)といって味を感じる小さな突起があって、それが悪くなると味覚低下がありますが、それも診てもらったんですね。

少しずつ味覚・嗅覚に変化が…

3年前に倉科さんを診断した神経内科の先生はよく存じています。とても丁寧に診てくれて診断も確かなので、ボクが患者さんの症状に困ったらその病院にご高診(紹介して診てもらうこと)している、信頼できる病院です。コロナウイルスの場合、ある程度の期間、味覚がなくなってもその後には戻る若い人が多いのですが、なかには味覚が戻りにくい人もいるようです。

歯とソフトクリーム

でも倉科さんの場合、あなた自身が感じているように、突然に味覚や嗅覚が「消えた」訳ではなく、少しずつ自分の味付けが濃くなり、ご家族から「醤油の味付けが濃くなった」と言われているんですよね。これは、認知症では珍しくない症状なんですよ。脳の変化から味覚や嗅覚を感じにくくなるからです。

脳だけでなく、内科面のことも大切ですね。糖尿病で血糖値が高いと神経障害、網膜の血管障害、腎臓障害などが出てきますが、ボクの経験では口腔内の歯肉炎(歯茎がぶよぶよしてくる状態)も悪くなります。ただ倉科さんは今のところ、熱いものを触っても感じないような感覚障害はないと聞いていますから、まずは味覚と嗅覚のことだけですね。

わかりました。それでは今後、倉科さんを内科の先生とともにサポートしていきたいと思います。魔法のように治してあげることはできませんが、あなたが少しでもつらくないように、脳の変化を見極め、できる限りの対応を話し合っていきたいと思います。長い付き合いになると思いますので、よろしくお願いします。

次回は「ときどき人が部屋に入ってくる」ことについて書きます。

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