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認知症と生きるには

原因・種類を理解し、でも「ひと」を見失わない 認知症と生きるには11

松本一生さんのコラム「認知症と生きるには」。今回は、認知症の種類や原因、特徴的な症状に注目して、アルツハイマー型認知症、血管性認知症について解説します。

大阪で「ものわすれクリニック」を営む松本一生さんのコラム「認知症と生きるには」。朝日新聞の医療サイト「アピタル」の人気連載を、なかまぁるでもご紹介します。前回は認知症の初期にみられる症状について考えました。ここで一気に中等度、重度の症状や対応について書き進むのではなく、今回は、認知症の中にもいくつかの種類があり、それぞれどのような点に注意することが必要なのかを考えてみましょう。「症状」や「病変」をしっかりと理解できれば、認知症の人の「つらさ」に寄り添うことができ、よりよいケアにつながるからです。(前回はこちら

認知症の原因や手類を見極める

医学では病気の原因をしっかりと見極めて、それに対して早期から対応し治療することが大切です。「何だかわからない」状態のまま、はっきりしない方針で治療を続けることはいけません。しかし、骨折をどのように治すのかという治療とは異なります。認知症のような慢性の病気の場合には、ただ「認知症」とだけ病名がついて、アルツハイマー型なのか血管性なのかはっきりしないまま治療が続き、介護を受けていることも少なくありません。

私は日ごろから注意しなければならないことが2つあると考えています。医療者でも、介護職や家族の立場でも同じです。1つは家族や介護職の人によくあることですが、目の前にいる「ひと」を見ようとしすぎるあまり、医学的な面を全く考慮できなくなってしまうことです。認知症のタイプや特徴を知らないままでは、結果的にはその人を客観的に把握できず、あふれる思いだけに終始してしまい、ケアが破たんしてしまうことがあります。

もう1つは、病気としての小さな症状にとらわれ過ぎて、目の前の「ひと」を見ることを忘れてしまうことです。これは私も含めて医療者にありがちです。

思いにとらわれ過ぎることなく、かつ、科学面を重視しすぎてその「ひと」を見失わない。その2つのバランスに注意しながら、認知症と向き合う人を理解することが、その人を大切に思い、支えることにつながります。
ではここで、認知症の原因についてみていきましょう。

(1)アルツハイマー型認知症

厚生労働省研究斑の調査結果では、全体の約70%を占めます。脳細胞に「アミロイド」というたんぱくのカスがたまることで、脳が縮みます(萎縮)。脳が全体的に萎縮していくのが特徴ですが、萎縮する前に、何年もかかってアミロイドが蓄積していきます。私たちは誰でも年齢とともに、脳にアミロイドがたまりますが、そのスピードが速くて脳萎縮が進むのがこの認知症の特徴です。これまでに比べて何となく前向きな様子がなくなることや、「面倒くさい」というような発言が増えることからはじまります。

(2)血管性認知症

全体の約20%を占めます。ただし、若年性認知症の人の場合には40%程度の人が血管性認知症です。これは脳内の大きな血管が詰まることで起きるだけでなく、細かな血管(毛細血管)がいくつも詰まること(「ラクナ梗塞」と呼びます)でも生じます。脳血管が詰まると、その人の性格に影響が出るため、少し「怒りっぽくなった」という印象が多くなります。一方で、脳血管に問題がない所の働きはしっかりしているため「まだらな症状」が出るのが特徴です。

イライラしやすいけれど、そのあとに…

20数年前に出会った山本雅彦さん(仮名)は、自分の中に湧き上がってくる「怒り」と戦っていました。脳血管に問題が起きると感情面のコントロールがしにくくなる人もいます。山本さんはそういう自分に困っていました。

「先生、最近のおれは妻が何かを言うたびにイライラして怒鳴ってしまうんや。それでも、あとで気が付いて悪いことしたなって思うけど、そのすぐ後に妻がお茶を入れようとすると、またそのことで腹が立つ。おれは最低の人間や」

私にそう告白しました。

あの時、もし私が「山本さんは血管性認知症の側面が大きく出ているから、イライラ感が出やすいのです」とだけ伝え、それ以降のフォローをしなければ、彼は自分に自信を無くしてしまったでしょう。そこで、彼とともに考えるために私はこう言いました。

「山本さんにはイライラが出やすい脳の変化があります。でも、どなった後に奥さんに悪かったと思う力は決して失っていません。それが山本さんの力なんです」

その時、彼の顔は輝き、「そうか、おれ、まだいけるんやな」と言いました。その思いが、その後の12年に及ぶ彼の認知症とのつきあいの原動力になったと思います。

今回は代表的な2つを見ました。次回は残りの別の型について考えましょう。

※このコラムは2017年9月7日にアピタルに初出掲載されました。

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