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診察室からエールを

夫は他界 息子は海外 独居で認知症のわたしの「これから」の暮らし方

カンガルー

大阪の下町で、松本一生先生が営む「ものわすれクリニック」。今回は、血管性認知症の女性のお話です。息子さんは米国で暮らしていて、ひとり暮らしの女性は、今後について、施設や高齢者住宅への入所を考え始めています。松本先生はどんなアドバイスとエールを送るのでしょう。

松本 章子さん(83): 私が旅立つとき

夫を見送り、ひとりで生きて20年

松本さん、今日はご主人の命日だとうかがいました。夫の博さんを見送って20年、ひとりで生きてこられましたね。今はコロナ禍の影響でアメリカの息子さんとは会えませんね。息子さんには何度かお会いしましたが、確か東部の大学で教えておられましたね。松本さんの独居生活を海を隔て、遠く離れていても見守るのだと言われて、パソコンをつなぎ、あなたがリビングで生活している姿をいつも見ながらお話ししていると聞きました。

私が医者になったころには夢物語だったハイテク生活ができて、遠距離介護の大きな後押しになりました。あなたと息子さんのリモート関係を見て、私も国内で遠距離介護を続ける多くの人を勇気づけるメッセージを届けることができました。とはいっても寂しければ遠慮なく伝えてくださいね。

施設などへの入所を迷う日々

やはりそうですか。どなたも同じですが、昼間にたくさんの人と交流していても、夜になると一人の寂しさが出てきますよね。松本さんの生活リズムは午後4時、7時そして夜の10時ごろに乱れやすくなります。意識が少し混濁する「せん妄」という状態にもなりやすい時間ですが、あなたの不安感や孤独感がその時間帯に高じてもおかしくはありません。どのように対処していますか。

なるほど、こちらの夜10時過ぎは東部夏時間では朝の9時ですから、そこで毎日、電話連絡をしているのですね。ちょうど息子さんが大学で講義する直前ですね。

今回の相談は、松本さんがこうして元気な間は良くても、息子さんと午前9時にお話ししようとした時に具合が悪ければどうすれば良いかという悩みですか。たしかに講義を始めようとする時間にパソコンの前で倒れているあなたを見たら息子さんはパニックになりますね。24時間対応の看護小規模多機能型の在宅支援介護とも契約していると聞いていますが、やはり心配でしょうね。

ご自身では施設や高齢者住宅への入所を考えましたか。松本さんは今年で10年、うちの診療所に来てくれていますね。あなたの診断名はかつてご自身の希望で告知したとおり、血管性認知症です。でも、血圧のコントロールや脂質異常症との付き合いがうまくいって以来、あなたの認知症は大きく変化せず今でも長谷川式検査は30点満点のうち17点です。10年前にかかりつけ医になってくれた在宅療養支援診療所の内科医の先生に感謝、ですね。在宅が不安になればある程度、松本さんと同じレベルの人が入所しているサービス付き高齢者住宅に入居して、通院されるか、その先生が訪問診療してくれる形式をとっても良いかもしれませんね。

柿             

やはり松本さんもそう考えられますか。

皆さん、異口同音に「子どもには迷惑をかけたくない」と言われます。その気持ちはよくわかります。松本さんの場合には地域包括ケアの視点から見ても、高齢、独居で認知症あり、介護者の息子さんは遠距離介護、介護の手数を考えても「ひとり介護」です。しかも松本さんにもきょうだいがなく、手を貸してくれる親戚がおられません。それこそ地域が協力して包括的な支援をしてきたつもりですが、ある程度限界がきましたね。

旅立つ日まで、日々を生きる

息子さんとも相談して、あなたの不安がなくなるように入所の方向でお話ししてみることにします。松本さんの認知機能の高さや要介護1という介護度を考えると要介護3以上の人が利用している老人保健施設、特別養護老人ホームは対象にならないかもしれませんね。認知症グループホームも軽度の人が多いところが良いでしょう。今回はオーナーが自分の将来のことも考えて作ったサービス付き高齢者住宅を考えてみましょう。

誰もがそうですが、自分が社会生活を送り、現役生活をしていた時の人生設計はしやすいものです。病気になり夫を見送り、人生の終わりを意識するようになっても、松本さんの人生は決して「死ぬまでの残りの人生」ではありません。人生を終えて旅立つ日が来るまで、あなたが「日々を生きている」実感を持ちながら安心できるものにするために、こうしてボクはあなたとお会いしています。入所されても通院してもらえる所を一緒にさがしてみましょう。

次回は、仲間がいてくれたからこそ、です。

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