見知らぬ人が部屋に!?声は聞こえる?幻視か現実か。5つの見極めポイント
執筆/松本一生、イラスト/稲葉なつき
西川 隆さん(51歳): ときどき人が部屋に入ってくる
大阪の下町で、松本一生先生が営む「ものわすれクリニック」。今回訪ねてきた男性は「見知らぬ人物が部屋にいる」という相談だそうです。さて、松本先生はどんなエールを送るのでしょう。
西川さん、こんにちは。今日で西川さんが診療所に通われて1年が過ぎましたね。会社の産業医の先生とは定期的にお話をしていますか。あなたは「ものわすれ」の程度がとても軽いため、今でも仕事をしながら病気と向きあっていますね。そんな生活にも慣れましたか。
先日、電話で連絡してこられた症状ですが、今でも続いていますか。自宅でくつろいでいるときに「赤の他人が部屋に入ってきた」と言っておられましたね。見える姿は知り合いの人ではなく全く知らない人なのでしょうか。
ボクは精神科医として、西川さんと同じような訴えをしてくる人に対しては、以下のようなポイントに注意しながら診察するようにしています。いっしょに考えてみましょうね。
「予期せぬ人が部屋にいる」という訴えに対するポイント
1:見える人が知り合いの人、たとえば亡くなったはずのおばあちゃんなど、西川さん自身も不思議に思う人が出てくるのでしょうか、それとも全く知らない人が出てくるのでしょうか。
2:その姿は西川さんの注意がそれたら、あっという間に消えますか。それとも見えている時間が長く続きますか。
3:幻聴はいかがでしょうか。その人の声が聞こえてきますか。それとも西川さんが何を話しても、返事が何一つ返ってこないでしょうか。
4:あなたはその姿を見たときに、恐怖を感じますか。それとも「見えているけれど何も怖くはない」姿として見えますか。
5:見えているときには頭の中がぼんやりして、まるで「寝起き」のような感じでしょうか。それとも意識はハッキリしていますか。
このような「見え方の特徴」からある程度、あなたに見えているものが、どういった病気によって出てきているのか、分けていくことができます。たとえば、ぼんやりしたところで見えてくる場合には、軽度に意識が混濁した状態の「せん妄」がある可能性がわかります。また、いつまでもしっかりと見え続ける場合には血管性認知症による幻視と考えられますが、注意がそれたとたんに見えなくなる場合には、レビー小体型認知症など後頭葉の血流が低下する認知症の特徴とも考えられます。
また、見えているものに対する恐怖があるのか、それとも怖くないのかを見極めていくと、この先、西川さんの状態が悪くなっていくものか、それとも「見える」けれど、悪くなっていく可能性が低いかといった面など、この先のあなたの経過を推し量ることができます。
幻視は「治す」べき対象か
誤解を恐れずに言うと、ボクは幻視と言う体験がある人の症状を、すべてなくさなければならないとは考えていません。たとえ見えないはずのものが見えていても、それによって西川さんが恐怖を感じ、混乱しなければ、その体験を必ずしも消し去らないでおくことも大切です。
昔、担当した女性では、「ときどき出てくる子どもたちが出なくなれば、ひとり暮らしの私はこの上なくさびしい。だから先生、これ以上、子どもたちが出てくるのを押さえないでほしい」と言った人さえいますから。
あ、奥さん、ご無沙汰しています。ご主人に先に入室してもらい、彼の幻視について話していました。誰か知らない人が部屋に入ってくるという症状を、われわれ二人で理解したいと思いまして。ええ、誰か知らない人が部屋に入ってくるという幻視体験について、です。
え? 先週、西川さんは自宅で空き巣と鉢合わせしたのですか? てっきり病気にかかわる体験だと早合点してしまいました。
ごめんなさい。ボクの悪い癖です。何でも病気の症状だと思ってしまうところがありまして……。西川さん、奥さん、どうもすみませんでした(今回は大失敗してしまいました)。
次回は「妻や子どもの『この先』が心配」について書きます。