もめない介護

新年会もオンライン10分 ゆっくりハッキリ話すと◎ もめない介護94

コスガ聡一 撮影

夫の両親とはもともと疎遠で、認知症介護がスタートするまでは年に1回会う程度の関係でした。そのほとんど唯一の接点が毎年、新年2日ないし、3日に開催される「家族新年会」。義姉夫婦や孫たち、わたしたち夫婦と一家が勢ぞろいし、食事をして、抱負を発表する。その日を義父母はとっても楽しみにしていました。

昨年のお正月は、咀嚼力が弱まってきた父のために急きょ、「やわらか食」(やわらかく食べやすくした介護食)対応のおせちを取り寄せるなどしましたが、直前に義父が誤嚥性肺炎で入院。施設の応接スペースで、義母を囲んで、通常食とやわらか食のおせちをそれぞれ食べ比べ、その後、義父のお見舞いに行きました。そう、昨年のお正月はまだ、“ビフォアコロナ”の時期で、家族みんなでのお見舞いが可能だったのです。

こちらも読まれています : 50万円の物干し竿で“カモリスト”に 親子げんかの教訓

あれから1年。義父は新型コロナ第2波、第3波の騒ぎを見越したかのように、昨年6月に彼岸に旅立ってしまいました。今年は義父のいない、初めてのお正月です。しかも、新型コロナの影響で、家族が大勢集まるのもはばかられる……。

離れていても、家族がつながるオンライン

というわけで、今年は初めての試み。LINEのビデオ機能を使った「オンライン新年会」にチャレンジすることに!

昨年12月に施設に相談すると、まだ元旦のLINE面会の枠は空きがあるとわかり、さっそく予約。面会時間は10分間と短いですが、義母はこれまで何度もオンライン面会を経験しているので、きっとスムーズにいくはず。今年のお正月は何はともあれ、家族みんなで顔を合わせて「あけましておめでとうございます」が言えればオッケー! あ、喪中だから、「おめでとうございます」はマズいのか。まあ、おおらかな義父なら笑って許してくれるでしょう。そんなことを言い合いながら、当日を迎えました。

約束は元旦、14時40分。時間が前後する可能性もあるので、10分前ぐらいにはLINEの着信をいつでもとれるようにしておいてほしいと、義姉夫婦や姪っ子ちゃんたちにもお伝えして、準備万端……のはずが、14時20分に施設から着信があり、てんやわんわ。スタート時間の認識に食い違いがあったようで、元旦早々慌てふためくことに。

さらに、LINEのビデオ機能を複数で利用するには、最初に「LINEグループ」を作っておく必要があると今さら気づいて、さらにあたふた(1対1の通話に第三者を追加招待できると思い込んでいました)。“慣れているから大丈夫”という慢心注意!以外の何ものでもありません。

ヤバい! 時間がない!! もうすぐ面会時間が始まっちゃう!!!

おおらかな夫を腹立たしく感じたあの頃

右往左往しながらもハタと気づいたのは、「義母の世界では、義父はまだ生きている可能性がある」ということです。

LINE面会がスタートするなり「ところで、あの方(義父)は……?」と聞かれたらどうする? どうしよう……そうか、「ちょっと電波の状態が悪いみたいで」って答えればウソじゃないか。そうしよう! 

自問自答し、ひとりで納得してると「まあ、考えすぎなくていいんじゃない。なるようになるよ」と、夫がのんびり言います。そう! 介護が始まったころは、この人のこういうところが心底腹立たしかったのだと懐かしい気持ち。いまは当時より気持ちに余裕があるので、わりと素直に「それもそうだな」と思えます。おおらかレベルが高まっている。成長!

なんとか時間ギリギリに段取りを終え、無事にログイン! 画面の向こうでは義母がニコニコと笑っています。ちょうど部屋に午後の日差しが差し込んでいるのか、LINE上の誰よりも画面は明るく、元気そう。むしろ、蛍光灯に照らされた我々の顔色の悪さに気づかれたくない……!

「あらあら、みなさん、おそろいで。今日はどうなさったの?」
「みなさん、どれぐらい接続の準備に時間がかかったのかしら?」

のっけから義母のマイペーストークが炸裂。話がどこに転がるのか、皆目見当がつきません。当初のもくろみとしては、会うのは義父の葬儀以来になる孫たちとの会話を楽しんでもらおうと思っていました。ただ、回線状況もあるのか、うまく声が聞きとれないようで、なかなか会話がつながりません。

おばあさんとはこういうものか

うまく答えられないと義母は「はぁ?」と大きくジェスチャーをし、「なに? 聞こえないわよ!」と不満を表明。これはマズい……仕切り役を買って出るべきか、でも……とちゅうちょしていたら、隣にいた夫が突然しゃべりはじめました。

「お正月の食事はどうでしたか?」

もの忘れ外来の往診で、先生が質問するときのように、大きく、はっきり、ゆっくり発音。すると、義母の表情がパッと明るくなり、楽しそうに話し始めます。

「食事はねえ、むかしっぽいけど、まあ、ふつうの食事ですよ。お正月っぽかったわね」

若干失礼な言い回しですが、不満があるわけではなさそうで、声も次第に弾んできます。

夫の「体調はどうですか?」という質問に対する答えは、「良くも悪くもありません」。義母いわく、「パッパッパッとは動けなくなって、モソモソと動き回っています!」。その言いぶりに家族は思わず噴き出しますが、ご本人はいたって真面目です。「おばあさんとはこういうものかと思いますね……」と、しみじみ。今年89歳になる義母は押しも押されもせぬ、“おばあさん”ではありますが、ご本人からすると、マジか!と思っている様子が伺えます。

役割意識を持ちながら過ごす日々

先ほどまではうまく会話が続かず、じわじわと機嫌が悪くなっていた義母でしたが、「体調はどうですか?」「よく眠れてますか?」などのシンプルな質問にはパッと答えてくれます。

はっきりと聞き取れるかどうか。
投げかけられた言葉の意味に悩まなくていいかどうか。
このあたりが、重要なようです。

義母「あら、あなた髪を切ったのね」
義姉「“チコちゃん”みたいだねって言われるの」
義母「チャコちゃん……?」
義姉「チコちゃんっていうテレビ番組のキャラクターがいて……」
義母「………」

もともと、義姉の髪形を話題にしたのは義母でしたが、義姉の返答の内容がつかみとれないとなると途端に興味がそれてしまいます。義姉が一生懸命に説明しようとすればするほど、義母はイライラ。 “どう返せばいいのかわからない”ということ自体に、いら立つのかもしれません。

ちょこちょことコミュニケーションエラーが起きつつも、義母からさまざまな話を聞くことができました。義母はいま、「学校」に毎日通い、「けっこう忙しい生活を送っている」のだそう。

「あんまり予定を詰めすぎると疲れちゃうから、時々サボるのよ」
「毎日いろいろ予定があるので、家に帰ってくるとバタンキューで寝ちゃうの」

体操やレクリエーションに欠かさず参加しているという話は、施設からの定期報告でも聞いています。でも、義母自身も何らかの役割意識を持って、日々を過ごしている様子が伝わってきて、少しホッとします。

新しい習慣もすっかり自分のものに

「あら、もう時間が来たみたい。じゃあね、みなさん、お元気で!」
手慣れた様子でLINE面会のおひらきを宣言したのも、まさかの義母でした。職員さんの様子を見て、時間を区切る必要があるとパッと気づいたようです。

なお、義父の話は一切出ませんでした。入念に準備をした時ほど肩すかしをくらうというのも定番になりつつありますが、それにしても義母のたくましいこと! これまで通りに会話をしようとすると、受け答えが少々難しい。そこだけ見ると、認知症あるいは加齢がグッと進んだようにも見える。でも、こちらがほんの少しやりとりを工夫するだけで、まだまだできることがたくさんある。そして、何より「オンライン面会」という新しい習慣にすっかりなじみ、自分のものにしている。その好奇心と柔軟性こそ、長生きのこつかもしれません。

「コロナ禍を生きぬく~認知症とともに」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について