もめない介護

50万円の物干し竿で“カモリスト”に 親子げんかの教訓 もめない介護93

コスガ聡一 撮影

親が自分の身に起きた困りごとを、ためらいなく口に出せる環境を作っておきたい。義父母が認知症だとわかり、家族のなかで介護のキーパーソンを引き受けた時からそう思っていました。それは私がやさしいからでも、親孝行だからでもありません。

かつて認知症の祖母と、祖母を遠距離介護していた母親とのやりとりを通じて、「ガミガミ言われると隠したくなる心理」と、その先にあるトラブルを知っていたからです。

祖母は、祖父が亡くなった後、80代前半までひとり暮らしをしていました。ある時、訪問販売で50万円もする物干し竿を購入したことが判明し、祖母と母親が大ゲンカになりました。祖母は母に対して、「悪い人ではなかった」と繰り返し、「お金のことで迷惑はかけないから」とも言っていたそうです。事実、祖母は70歳を過ぎるまで看護師として働いており、支払いは自分の預貯金からしており、子ども(私の母)に金銭面での迷惑をかけたわけではありませんでした。

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祖母は母とケンカした後、こうした悪徳商法や詐欺まがいの話を一切、母にはしなくなりました。そのことがわかったのは祖母が亡くなった時です。実は、祖母はその後もシロアリ駆除や屋根修理など、必要のない工事を持ちかけられ、その都度、まとまった費用を請求されていました。いま思えば、最初にだまされた時点で“カモリスト”に載せられ、格好のターゲットになっていたのではないかと思います。

義父母が「この子になら話しても大丈夫」と思える関係を目指して

加齢もしくは認知症による認知機能の低下によって、怪しい話を持ちかけられてもわからなかったのか、薄々気づいていたけれど断れなかったのか、いまとなってはわかりません。ただ、家族に相談しなかった、あるいは相談できなかったきっかけのひとつは、親子ゲンカにあったのではないかと推測できます。

祖母は長年にわたって看護師として働き、そのことに対して自信もあり、プライドもある。気の強い女性でした。娘(私の母)に頭ごなしに説教され、相当カチンと来たことは想像に難くありません。

この時のいきさつが印象に残っていたため、義父母に対しても、とにかく「ガミガミ言わない」「責められたような気持ちにさせない」ことを心がけました。義父母にとって、「この子になら話しても大丈夫」と思われるような関係を作っておけば、何かマズいことが起きた時も、早めにその事実を知ることができ、対処しやすくなるだろうと考えたのです。

認知症のある暮らしには、さまざまな困りごとがつきものです。

たとえば、テーブルに置いたはずの財布が見当たらなくなる。
小銭がぎっしりつまった財布を見て、「さっきまでお札が入っていたはずなのに!」と義母がうろたえる。
合鍵を作っても、作ってもなくす。
「ドロボウに盗まれると困るから」と必死に隠した貴重品のありかがわからなくなる。
薬は飲みたい時には見つからず、古い薬が部屋のあちこちから現れる。
などなど。

平静をよそおい、ノンキな口調で聞き役に

「えー! なんでそんなことになっちゃうの!?」と言いたくなるようなことが次々に起きますが、ぜんぶ笑いとばすことにしました。

「あらー、なくなっちゃいましたか。どこに行っちゃったんでしょうねえ」
「わあ、小銭がたくさんありますね。重たそう!」

ニコニコしながら、ちょっととぼけた返事をすると、義父母の緊張もほどけます。時には、「あなた、笑いごとじゃないわよ」と叱られたり、「ノンキな人ねえ」と、あきれられたりして、内心(気遣いだよ!!!)と思ったりもしますが、もちろん顔には出しません。そんなやりとりを繰り返すうちに、義父も義母もトラブルをトラブルと思わず、教えてくれるようになりました。いいぞ、その調子! 時にはギョッとするようなことを打ち明けられ、胆力を試されることもあります。

「この間ね、お風呂から出られなくなっちゃったのよ~!」

ウフフと楽しそうに笑いながら義母が教えてくれたのは、2019年の新年会の席でした。家族みんなで出かけたしゃぶしゃぶ屋で、ふいに義母が話し始めたのです。なんだなんだ、何が起きている!? ドキドキしつつも平静をよそおい、できるだけノンキな口調で聞いてみました。

「あららー、大変でしたね、びっくりしたでしょう」
「そうなの! もうびっくりしたわよ。お風呂から出ようと思ったらね、力が入らなくなって座り込んじゃって」
「あらま! すっぽんぽんで?」
「そうなの。いやよねえ。お父さまが助けに来てくれて、ふたりでがんばったんだけど立ち上がれなくて」
「風邪ひかなくてよかったですねえ」
「ホントにねえ、びっくりしちゃうでしょ。あなたも気をつけてね」

「ユニークなことを言うのねえ」と一蹴

わたしの心配してる場合じゃないから!!! その場は笑ってやり過ごし、「ちょっとお手洗いに行ってきます」と席を外し、速攻でケアマネジャーさんに連絡をいれました。

風呂場で、素っ裸の状態で座り込んで動けなくなるって、結構ヤバいのでは……。
ぶっちゃけ、「もう自宅の風呂に入るのはやめてください」って言いたい!
でも、そんなこと伝えて聞いてくれる義母じゃない。
ああ! もう!! どうすれば……!!!

ケアマネさんの意見も、「行動を制限しようとするのはあまり良くないし、おそらく聞いてくれない」というものでした。「新年早々、すみません」と携帯電話にむかって頭をさげながら、そのまま、しばし相談。そして、こう決めました。

1)「自宅のお風呂をやめてください」は言わない
2)夜ではなく、夕方などまだ明るい時間帯に入浴することを提案してみる
3)デイ通いの日はお風呂に入らなくてOK(通所リハビリ施設で入浴するので)を強調する

さっそく席に戻り、義母に「大変でしたねえ。今度から明るいうちにお風呂に入ってみるのもいいかもしれないですね」と伝えると、「あなたってユニークなことを言うのねえ」と一蹴。“変わった子”扱いされて話が終わってしまいました。

築いてきた関係があるからこそ行える、適宜な介護

気を取り直して、少し時間を置いてから、「でも、おかあさん、あれですね。デイでお風呂に入った日は、夜のお風呂はパスしてもいいかもしれないですね」と伝えると、「そうねえ。ちょっと面倒くさいのよね」と好感触。「面倒な時はどんどんサボっちゃいましょう! 冬で汗もかかないし!!」とそそのかすと、義母はニヤッと笑い、「それもそうね」と、なぜかうれしそうにしていました。

この後、義母がお風呂をサボったのか、やっぱり夜に入り続けたのかはわかりません。それからほどなくして、義父がベッドとトイレの行き来が難しくなったり、低栄養がひどくなったりして、義父母は“一時療養”の名目で介護付き有料老人ホームに移ることに。

ご本人たちの頑張りたい気持ちを大事にして、行けるところまでは在宅で頑張る。でも、無理をしすぎて命に危険が及ぶ手前で施設に入所する。それがなんとか実現するための要因のひとつに、困りごとをバラしてOKな関係性が役にたったと感じています。

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