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もめない介護

コロナで面会も、往診付き添いも禁止 また会える日まで絵ハガキで もめない介護55

クレーンのアームのイメージ
コスガ聡一 撮影

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府による「緊急事態宣言」が発令された直後、義母が暮らす有料老人ホームからこんなお知らせが届きました。

《当社では改めて面会制限の強化を図ることといたしました。つきましては、ご面会の制限を期間を定めずに延長すること、ならびにご家族様との敷地内でのお散歩や外気浴を中止とさせていただきます》

面会制限は3月からスタートしていたものの、「もの忘れ外来」の主治医が施設外から来る往診には、家族が付き添うことはできました。当日、検温をしたうえで1Fの共用部分にある応接室で診察と、いつもとは勝手が違いましたが、それでも義母に会うことができたのです。

もの忘れ外来の往診は月1回で、ちょうど翌週に往診日が控えています。ただ、「敷地内での散歩NG」となるともしかしたら……。ひとまず、施設に電話をかけてみることにしました。

 「新型コロナウイルスへの対応に関するお手紙、ありがとうございました。ところで、来週のもの忘れ外来の往診なんですけれど」
施設 「往診はこれまで通り、変わりなく行っていただけますよ」
 「これまで毎回、家族が付き添っていたんですけれど、それはどうなんでしょうか」
施設 「ご家族が付き添っていらした……」 電話の向こうから戸惑った空気が伝わってきます。言いづらそうに、こう質問されました。

「付き添いは避けていただけるとありがたいんです……」

「これまで付き添っていらしたということはやはり、往診にはご家族がいらっしゃる必要があるということですよね?」

答えるの難しい質問キタ! 「往診に家族の付き添い必須」と答えれば、特別に許可がでそうな気配もあります。ただ、それは事実と異なります。もの忘れ外来の先生は、もともと義母に認知症の予兆が見られたときからの付き合いで、義母との間に信頼関係もできています。

家族がいなくても、コミュニケーションは成立します。実際のところ、これまでの往診でも診察中は黙って見守っていました。診察に付き添う目的は定点観測です。また診察の前後に、短い時間でも医師と話し合う時間が持てるため、今後の見通しが立てやすくなるとも感じていました。

これまでの経緯を率直に伝えた上で、「できれば、家族の付き添いは避けたほうがいいですか?」と尋ねました。

「大変申し訳ないのですが、施設を出入りするのは医療者の方のみに限定したい状況でして。ご家族さまの付き添いは避けていただけるとありがたいんです……」

「了解です!」と即、お伝えすると、電話の向こうから安堵したような空気が伝わってきました。

いろいろな意見があるからこそ、施設と相談のうえ、施設の判断に従う

感染拡大を予防するという観点からすれば、施設に問い合わせるまでもなく、一切会わないと選択すべきと考える方もいらっしゃるかもしれません。逆に、「会わせてもらえる可能性があるなら、なぜ会わないのか」と思われる方がいらっしゃっても不思議はありません。

義母は88歳で、先月会ったときは元気ハツラツでしたが、いつ何が起きても不思議はない年齢です。ここ数ヶ月の間に、会話が「女学生時代」にタイムスリップしてしまうことも増えていて、次に会うときには、家族を認識できない可能性もあります。実際のところ、昨年の秋には義姉に「あら、どなた?」と声をかけ、青ざめさせているのです。

しかし、ここでなんとか会おうと画策することは、かえって義母の寿命を縮めるかもしれません。もちろん、そうならないよう、私自身、2月末から外出をできる限り控え、セルフロックダウン生活をスタートさせていますが、それでも可能性はゼロにはなりません。

施設と相談のうえ、施設の判断に従う。私にとってはそれが、最良の選択であると考えました。夫にもやりとりの経緯を伝えると、「付き添いをいったんストップしよう」と同意見。実はこの時点ですでに、施設に付き添わない旨を伝えてあったので、「なぜ、おふくろに会えないんだ!」と怒り出すタイプでなくて良かった……と、内心ホッと胸をなで下ろしたのでした。

先が見えない日々。義父母のために今できること

さて、これで義母に対しては当面の間、面会は完全にシャットアウトという状態に突入しました。義父はもともと、義母と同じ有料老人ホームで暮らしていましたが、入退院を繰り返す中で「24時間看護」の必要性が高まり、別の有料老人ホームに住み替える予定です。

ただ、住み替え先として希望している施設が満室のため、現在、リハビリ病院に入院しながら、順番を待っているというような状態なのです。つい先日、住み替え先候補の施設から「4月中には部屋が空きそう」と連絡がありました。ただ、緊急事態宣言の発令でどうなることやら……。

先が見えない日々は続きます。

認知症の進行をできるだけゆるやかにしたい。そんな思いで、これまで介護にかかわってきました。どうすれば、義父母が楽しく、ストレスなく暮らせるのか。でも、安全・安心を意識するあまり、刺激が乏しい生活になると、それはそれで良くないのでメリハリもつけるように……と医師からの助言もありました。

そのため、施設に入ってからも、なるべく定期的に会いに行き、おしゃべりをする時間を作る……などを意識してきましたが、ここにきてそれらの手段が一切合切、封じ込められる事態に。

苦肉の策で、義姉や姪たちにも協力をお願いし、義父母にハガキを送っています。

義父母と顔を合わせられる日を祈りつつ、手洗いと外出自粛に励んで

義父に送るハガキには「写真付き年賀状」の要領で、義母の写真を印刷しています。介護のためのかかわりの中で、「妻を残して先に逝くわけにはいかん!」というのが、義父の原動力であることがわかってきたためです。

一方、義母に送るのは、猫や花の写真やイラストが載っている絵ハガキです。義父の写真を送りたいのはやまやまですが、顔を見ると「いますぐ病院に行かなきゃ!!」と、義母の気持ちが駆り立てられてしまう可能性があります。

義父のいない生活に慣れつつある中、このままいくと、義母は義父の存在自体を忘れてしまうのかもしれないという不安はあります。でも、いまはとにかく、穏やかに過ごせる環境を整えることを最優先にしよう。そんなふうに考えています。

これらのハガキに効果があるのか、ないのか……。施設によっては、ビデオ会議ツール「Zoom」やLINEのグループチャットの動画機能などを使って、オンライン上での面会を試みるところも出てきているようです。何らかの形で義父母と顔を合わせることができる日が来るのを祈りつつ、日々の手洗いと外出自粛に励みたいと思います。

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