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30分1本勝負!義母のいぬ間に義父の荷物を撤収せよ~ もめない介護53

血圧を測る女性のイメージ
コスガ聡一 撮影

義母が暮らす有料老人ホームでは、新型コロナウイルスの感染防止のため、2月末の時点ですべての関連施設において「3月末まで面会制限」を実施することが発表されていました。

「夫の様子が心配だから病院に様子を見に行きたい」
「今日こそ、ひとりでも病院に行こうと思う」

義母は、いてもたってもいられなくなると、施設の事務室を訪れ見舞いの必要性を訴えます。ただ、職員の方々に話をするうちに、ほどなく気持ちが落ちつくといった状況を施設から聞いていました。義父が誤嚥性肺炎で緊急入院してから約2か月。義母は少しずつ義父の不在に慣れたのか、体操や陶芸、フラワーアレンジメントといったレクリエーションに励んでいる。そんなタイミングでの、今回の新型コロナ騒動でした。

面会制限のいま、義父の転院を義母にどう伝えるか

認知症がわかったころは、電話でのやりとりも支障なくできていた義母ですが、その後ゆるやかに症状が進んでいく中で、電話でのコミュニケーションは難しくなっていきました。いまは、ほとんど電話のやりとりはありません。

往診などの日程については、施設にFAXを送り、壁に貼りだしてもらう。義母に対して何か説明が必要なときは、会ったときに話すというスタイルに落ち着きつつありました。

ところが面会制限となると、「対面での説明」ができません。さらに、義父の転院・施設変更の件を義母にどう伝えるかという問題も浮上します。当初、義父は「退院後は義母のいる施設に戻る」という前提でしたが、夜間のたん吸引の必要性が生じるなどいくつかの理由があって、「リハビリ病院に転院した後、24時間看護体制のある施設に移る」という選択をせざるを得なくなりました。

そして転院にともない、義父の部屋のみ、有料老人ホームとの契約を解約することになります。これまでは「義父は入院中でいないけれど、部屋はある」という状態でしたが、部屋も引き払います。そうなったときに、義母が混乱するのか、しないのか……。そもそも、義母に何を、どこまで説明するのかも悩ましく思っていました。

気まぐれに戻って来ぬことを祈りつつ、義母の昼食中に義父の部屋を引き上げ

義母への説明のチャンスが訪れたのは、3月下旬のことです。月に1回のもの忘れ外来の定期往診は、この騒ぎのなかでも中止にはなっておらず、その際、検温などの体調チェックを行った上で、家族もこれまでどおり、付き添えることになったのです。

往診日に合わせて、義父が使用していた部屋からの荷物の撤収も行うことになりました。義母の目の前で荷物を運び出すと、何らかのパニックを誘発する可能性もあります。そこで、昼食どきを狙って荷物の片づけを済ませ、その後あらためて、往診時間にあわせて施設を訪ねるという段取りですすめることに。

施設によれば、昼食はおおよそ11時半からスタートし、12時過ぎには食べ終えていることが多いそう。その30分間でケリをつけられるかどうかが勝負です。

大きめのトートバッグやエコバッグなどを複数持ち込み、夫と二人で手分けしてワーッと詰め込みます。入院時に身のまわりの小物は持っていっていたため、そこまでたくさん袋はいらないかなと思っていましたが、大間違い。
洋服が意外とかさばり、「念のため」と持ち込んだ紙袋も、部屋にあったバッグもすべて使って、ぎゅうぎゅうに詰め込んでなんとか荷造りを終えることができたというような状況でした。

あとは、気まぐれに義母が部屋に戻ってこないことを祈りつつ、抜き足差し足でエレベーターに飛び込み、レンタカーにダッシュ。荷物をすべてトランクに放り込み、実家に置きにいって、ようやく一息つけました。

義母への説明の仕方を主治医に相談

そして、第2ラウンドは義母のもの忘れ外来往診です。義母にどう説明するのか、どのような反応が返ってくるのか……。不安すぎて、もはや「会わずに帰りたい!!」と、本末転倒な気持ちになりながら、施設に戻ります。

施設に到着すると、すでに診察は始まっていて、義母は血圧測定の真っ最中。わたしたちの姿を見つけた義母は「ここよ~!」と、手をブンブン振って合図してくれます。おかあさん、それ、血圧がちゃんと測れなくなるやつ……! 案の定、とんでもなく高い数値が出て、看護師さんも苦笑い。

「だって、あなたたちに会うのは久しぶりだから!」

もっともなことを言う義母をなだめながらの再測定。そして、その隙にこっそり、もの忘れ外来の主治医に現状を伝え、どのように母に説明すればいいかも相談しました。先生からお勧めされた言い回しは「いろいろ落ち着いたら一緒にお見舞いにいきましょう」「元気になって、また一緒に暮らせるといいですね」。つまり、夜間のたん吸引が必要でどうこうといったことや、部屋を引き払うなどの詳細は伝えなくてよいというアドバイスでした。

医師に褒められ絶好調! “しっかり者の妻”モードが炸裂

お見舞いに一緒に行きたいけれど、いまは行くことができません。それは、義父の具合が悪いからではなく、少々よろしくないウイルスが流行っているからで、全員がお見舞いに行けない状態にあるんです。義母をこわがらせないよう、慎重に伝えると、義母から思いがけないリアクションが返ってきました。

「そうなのよね。なんか、中国のほうで流行ってたアレでしょう?」

おかあさん、そうです! それそれ!! 義母はテレビで見聞きしていたのか、固有名詞こそ出てこなかったものの、ウイルス蔓延の情報はある程度把握しており、打てば響くような反応が返ってきます。

医師とのやりとりでも、“しっかり者の妻”モードが炸裂。

「お父さん、心配ですね。早く元気になってほしいですね」
「そうですね。でも先生、こういうことはあわてても仕方がありませんから」
「おっしゃる通りですね。さすが、肝が据わっていらっしゃる」
「これまでもいろいろありましたから。ウフフフ」

先生にも褒められ、義母は絶好調。もっとも、口で言うほど納得していたわけではなく、帰り際にはわたしたちと一緒に施設を出ようとし、「A子さん(義母の名前)は、こちらでお待ちくださいね」と、施設の職員さんに呼び止められる場面も。それでも、一緒に写真を撮って義父に送ろうと提案すると、カメラに向かって笑顔でポーズ。そして「バイバーイ! さようならー!!」と手を振り、満面の笑顔で見送ってくれたのです。

食事をしっかりとって、体を動かし、元気で過ごして、また会いましょう! 義母への励ましは、自分自身を奮い立たせる言葉でもあると感じています。

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