聖母マリアも「やりがい搾取」に怒ってる?あるある探検隊の活動報告32
構成/福光恵 写真/レギュラーのマネジャー
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま介護施設をまわっています。テレビや劇場の一般客相手と違って、施設の利用者さんたちを笑顔にするのは、やっぱり難しい! そんな2人が見つけた、今日の介護現場の“あるある”は――。
レギュラーの2人が、仙台市内のハローワークに呼ばれて講演会をしたときのこと。いつものように楽屋でスタンバイしていた2人だったが、開演数分前になっても主催者側の担当者が呼びにこない。どうしたのかと思っていると……。
「大変申し訳ありません。いまちょっと準備に時間がかかっておりまして……。開演を10分ほど延ばさせてください」
この日の講演会の対象は「介護職を目指す若い人」で、20人程度が参加するとのことだった。なんの準備に時間がかかっているのかさっぱりわからないまま、さらに楽屋で待つこと10分。再び主催者側の担当者が、楽屋のドアをノックした。
「お待たせして申し訳ありません。まだ到着していない参加者もいるようなのですが、帰りの新幹線のお時間もありますし、始めていただいていいでしょうか?」
そう促されて会場の会議室に向かうレギュラーの2人。会場のドアをバーンと開け、「どうも〜、レギュラーで~す!」と元気よく講演を始める……はずだった。
ところが、会議室にいたのはわずか3人! こうなると講師も聴衆もないので、机を並べ替えて、5人で向かい合って座ることに。
「みなさん、なんで介護職を目指すことになったんですか?」
そんな質問をレギュラーの2人が投げかけて参加者が答えるという、もはや個別の就職相談状態。人材難の介護業界の現実を目の当たりにしてしまった2人なのであった。
松本くん いやー、ドアをあけて3人しかいなかったときは驚いたな。ふだんのお笑い営業でもいえることだけど、お客さんがあまりに少ないと、お客さんのほうが芸人に気を使うこともあるやん。目があったら笑わないといけない、みたいな。だけど、さすがに3人となると、もう個別対応だから“やる気”がみなぎってた(笑)。
西川くん 介護現場は実際、かなりの人材難みたいやな。仙台のほかに兵庫県でもハローワークに呼ばれて、介護の仕事を目指す人や、介護現場で働いている人に向けた講演会をやったことがあったやん。とにかく、介護職への興味だけでも持ってもらおうという取り組みは、行政も民間もいろいろやってるんだけどなあ。
松本くん 実際に講習会に来てくれる人たちを見ると、本気で介護をビジネスとしてやろうという意気込みを持っている人が多い印象やけどな。講演会後にツイッターを見たら、「実は、自分は介護タクシーのビジネスを始めようと考えているので、すごく勉強になりました」みたいなメッセージが来ていたこともあったし。まあ、施設のスタッフさんたちを見ているとほんまに大変な仕事だから、そんなに簡単じゃないのはわかるけど。
西川くん その代わり、やりがいも大きいで。たまに行って介護レクリエーションしているだけの僕らでさえ、喜びを感じることが多いもんな。笑う機会も減っているであろう利用者さんたちが、僕たちを見て笑ってくれる。僕らの活動が、利用者さんたちにとって“生活の彩り”のひとつになってくれれば嬉しいことや。
松本くん 僕らのほうも昔の話を聞かせてもらって、いろいろと勉強させてもらってるからな。「そんなんあるんですか?」「そうやろ、知らんやろ」というやり取りが普通に勉強になるし、僕の介護レクリエーションのやりがいのひとつになっている。利用者さんのほうも、それを感じて喜んでくれているところがあるよね。
西川くん 介護現場には、そんなことを思って仕事をしている人が多いんじゃないかな。介護施設のスタッフさんは、ピュアで優しい人たちばかりやん。誰かを助けたいっていう聖母マリア様みたいな人ばかりや。
松本くん そうそう。おカネなんて儲からなくてもいいんです。おじいちゃん、おばあちゃんに何もしてあげられなかったから、代わりに、いまいるおじいちゃん、おばあちゃんの役に立ちたい——みたいな人が多いやろ。そういう人たちの善意で、この業界は成り立ってるんや。
西川くん いまは介護の仕事というと、忙しいし責任も大きいのに賃金は安いというイメージがあるやろ。「やりがい搾取」っていうヤツや。でも、そんなピュアな人たちだけやったら、社会は回らないんじゃないかと思うこともある。ピュアは大切なことだけど、志だけでは業界が衰退してしまうんじゃないかと心配しているんや。だから、おカネを稼げるからやるっていう“IT起業家”みたいなのが出てきて、こんだけ稼げるで〜とか言ってくれると、介護業界も変わるんと思うんやけどな。
松本くん 報酬を増やすとか、何かしらシステムを変えていかないと、僕らが利用者の立場になるころには大変なことになりそうや。たとえば、年を取っても働ける人がセカンドキャリアとして介護施設で働く、みたいなことが当たり前になったらいいと思うな。まさに「老々介護」だけど、介護するほうもそれがまたやりがいになって元気になるんやないか。で、僕らも年取ったら「老々」介護レクリエーションをやろう。
西川くん 松本くん、それはたしかにアルな!