コロナで病院が面会禁止 迫る義父の転院ミッション!もめない介護52
更新日 編集協力/Power News 編集部
《新型コロナウイルス感染拡大のため、3月15日(日)まで面会禁止期間とさせていただきます》
義父が入院する総合病院のホームページに、お知らせが掲示されたのは2020年2月26日のことでした。その数日前、「いくつかの施設で面会制限が始まっている」「親御さんの施設でも、そろそろ始まるのでは?」と聞いていたので、“寝耳に水”ではなかったものの、戸惑いはありました。
というのも、ちょうど義父の退院先探しの真っ最中だったからです。
昨年末に誤嚥性肺炎で緊急入院し、一時は“急変”もありうると言われていた義父ですが、なんとか病状も落ち着きました。これで、義母も暮らす有料老人ホームに戻れれば万々歳だったのですが、「夜間のたん吸引」という、新たな課題が浮上します。
「今後のことを考えると、24時間看護体制のある施設を検討されることをおすすめします」
入院先の主治医の先生にそう言われ、施設見学を始めた矢先の新型コロナ騒動だったのです。
義父が入院する地域包括病棟にいられるのは、最長でも3月末。それまでに、受け入れてくれる施設を見つくろって退院するか、別のリハビリ病院に転院するか。いずれにしても出て行かなくてはいけません。でも、どうやって……?
義父のいる病院から、転院の打診が
もう少し様子を見るか、それとも焦ったほうがいいのか。逡巡していると、病院から電話がかかってきました。同じエリアにある「療養型リハビリテーション病院」への転院を打診する内容でした。状況が状況なので院内見学はできないけれど、希望すれば転院に向けての面談は可能だと聞き、おっかなびっくり、夫とふたりで説明を聞きに行きました。
面談時の話を聞く限りでは、今後のリハビリ回数など希望する条件はかなう可能性があることがわかりました。実際に、希望とどの程度、合致しているかは入ってみないとわかりません。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大状況によっては、新規患者の受け入れや移送の停止措置も考えられるという指摘もありました。ズルズルといまの病院にい続け、タイムリミットを迎えてしまうよりは……と、夫とも相談し、転院手続きのステップに進むことにしました。
さて、ここで気になるのが義父への対応です。これまでは事前に、何らかの形で状況を説明し、経緯を知らせ、承諾をとるというステップを踏んできました。説明もなく、“勝手に決められた”となると、不快感が先に立ち、本来はさほど嫌ではないことまで、一切合切拒否したくなる気持ちにもなりかねないと思うからです。
ところが、折からの面会禁止令で、この義父への説明タイムを設けることができません。幸い、転院に付き添うこと自体は、特例扱いで病院から許可がでました。ただし、義父と一緒にいられるのは介護タクシーで移動するわずかな時間だけです。
荷物を電車に忘れかけたり、駅を間違えたり。さらには……
長引く入院生活の中で、義父の認知機能がどれぐらい衰えているのか。今回の転院をどう捉えているのか。そもそも、病院では義父にどのように説明してくれているのか。最新の状況がまるでわからない中でのぶっつけ本番。ちょうどその日は、私が朝の情報番組で「認知症介護」について取材を受けたVTR映像が流れる日でもありました。電車の中でスマホから放送をチェック。なんとか無事、放映されたのを見届けて、いざ出陣!……というところでまず、電車の中にリュックを忘れそうになって冷や汗をかくことに。
「おいおい、大丈夫か。落とし物しないように気をつけて!」
そう言って笑っていた夫は、10分後に青ざめることになります。
「最寄り駅を間違えた……!!!」
義父が入院していた病院と転院先の病院は、駅ふたつ分離れているのですが、何を思ったかわたしたち夫婦は、無意識のうちに「転院先の病院の最寄り駅」まで来てしまったのです。あわてて戻り、なんとか予定通りに、入院先に到着。退院の手続きを済ませようとしたら……「入院保証金の預かり証」がない!!!
入院時に納めた保証金(このときは10万円)は、退院時に預かり証と引き換えに返金されます。でも、その預かり証を忘れると「再度、窓口に来ていただくことになります」。やり直し……!!!! 夫とふたり、ガッカリしながら、諸々の支払いを済ませ、義父の病室に向かいました。
「調子はどうだい?」「良くないな!」
病室に着くとちょうど、義父は車椅子への移乗のターン。誤嚥性肺炎を繰り返し、かなり弱っていたので、もしかしたらストレッチャーでの移動もあるかも、と思っていただけに、車椅子に座った義父の姿に早くもじーんときます。
「おとうさん、おはようございます!」と声をかけると、義父は軽く手を挙げ、「ありがとう。よく来てくれましたね」と言いながらニコッと笑ってくれました。転院について、病院側がどこまで説明してくれたのか、義父が理解しているのかはわかりませんが、ご立腹ではないようです。よかった!
転院先の病院へ介護タクシーで移動する道すがら、夫が「調子はどうだい?」と訪ねると、義父は「良くないな!」とキッパリ。あまりに力強く言われて、夫もわたしも思わず大笑い。ちっとも笑いごとではないんだけれど、毅然とした物言いがいかにも義父らしくて、面白くて。
もともと時事問題に関心が高く、認知症になってからも新聞は欠かさず読んでいた義父ですが、夫が新型コロナウイルスの話題を振っても、「ふーん」と興味がなさそう。リアクションが薄いことや言葉が少ないのは認知症の進行によるものなのかどうか……。状況がつかめないまま転院先に到着。ここで再び、義父とお別れです。
看護師さんたちの問いかけには積極的に応じる義父
次に会えるのはいつになるのか。再会したとき、義父がどういう状態にあるのか、現時点では見通しがつきません。おとうさんとまた、おしゃべりできるのかな……。そんなことを考えて、鼻の奥がツンとし始めたころ、義父を担当してくださるという看護師さんに声をかけられました。
「認知症だと伺っていましたが、すごくしっかりコミュニケーションしてくださってます」
あれ……!? 介護タクシーでの移動中は、いっしょうけんめい盛り上げようとする息子(わたしの夫)のトークを軽やかにスルーしていた義父ですが、看護師さんたちの問いかけには積極的に応じていたようです。おとうさん……! いいぞ、その調子!!
この調子なら、面会禁止令が解けて義母を連れてお見舞いに行ける日までなんとか踏ん張ってくれるかも。
さて、この義父の転院を義母にどう伝えるか。義母がいる施設も面会制限中で、1カ月近く会えていないけれど、つつがなく過ごせているのか。次回は、有料老人ホームで暮らす義母へのフォローについてご紹介します。