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今日は晴天、ぼけ日和

問題行動が起こりそう…抑えられない欲求に歯止めをかける声のかけ方

《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

年老いた裸の夫

真面目で潔癖な性格の、私の夫。

なのに、年老いて変わってしまった。

着替えや入浴を手伝う私に、
頻繁に陰部を見せつけたり、押し付けてきたりするようになったのだ。

拒否しても「妻なんだから」というように、行為をやめてくれない。

私はひどく傷ついた。

骨張った夫の脚

こんな恥ずかしいこと、誰にも話せやしないし、

言ったところで、
「夫婦なんだから」と言われてしまうだろう。

けれどふと、骨ばった、
夫の乾いた脚が目にとびこんできた時、

やけに冷静になっていく私が現れた。

こんなのは間違っている。
私は、私自身を守ってあげなきゃ。

夫の顔

「あなた、そろそろ、
 お母さんの命日ね」

私はあえて、そんな話題をふった。

夫の理性に訴えかけるように。
薄れゆくほんとうの夫を、ひき戻すために。

その目に光が戻っていくのを感じながら、

私は絶対にこのことを、
ケアマネさんに相談しようと決めた。

介護のなかで、多くはありませんが、行き当たることもある、
高齢者の性の問題行動のこと。

その状況に遭遇したとき、介護者がショックを受けるのは当然で、
それが近い関係であればなおさらです。

まず大前提として、同意のない性的な行為は、どんな関係性であっても犯罪です。

パートナーだから、家族だからと、
我慢したり、内々で解決しなければならないと考えたりするのは大間違いです。

「高齢者の性の問題行動は、人恋しさからくるものですから、
 コミュニケーションを多くとったり、思いつめたりせず、周りで明るくいなしてください」と
これまで言われてしまいがちでしたし、現に私も言われたことがあります。

けれど、それこそが介護者に重くのしかかっていた枷(かせ)なのではないでしょうか。

問題行動の一因としては「一部の高齢者は老化による判断力の低下などから、性の欲求を抑えづらくなっている」とみられています。
とはいえ「原因が原因なのだから、仕方ない」と、
絶対にひとりで抱えこまずに、
介護にかかわる専門職や身近な人に相談し、対応を行うことが鉄則です。

しかし、対応を熟慮したとしても、
在宅介護であれば限界があります。

じゃあ、どうすればいいのか。

それは、問題行動が起こりそうだな、と周りが察知した時、または最中でも、
性衝動に揺らいでいる本人が、理性を保ちやすくなるだろうと思われる話題を、積極的にふること。

それが予防線のひとつとなります。

今までしてきた仕事のこと。
家族のこと。
その人が大切にしてきたこと。

そういった本人の人生の核となるような話題を向けつづけて、
自ら、話してもらう。

経験上、私の周囲ではその積み重ねが効果的でした。


もちろんこれは、介護者の安全が確保できている場合の例です。

介護者の愛情や優しさのもと、なあなあにされてきた、性の問題行動。

その被害に遭いそうになったときは、
暴行されそうな時と同じく、
逃げるのをためらわないでください。

まずは、ご自身の身体と心を守っていただければと思います。

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

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