「思い出の品」と処分しない母 モノがあふれて危険です【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
認知症介護指導者の椎名淳一さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.80代の母は一人暮らしをしているのですが、家の中がモノであふれかえり、床にもモノが置いてあって危ないので、整理のために帰省しました。ところが「もったいない」「思い出の品だ」といってほとんど処分させてくれず、困っています(50代・男性)
A.このお悩みは歳を経て高齢になると家族や身近な人を失ったり、身体的な機能が衰えたりするなど、失うものが増える喪失体験が多く起こることと関係していると思います。その喪失感を埋めるために、自分の身の回りに「いつもあるモノ」を置いておきたいと思うのではないでしょうか。まず前提として、そうした本人の心情や喪失感を理解した丁寧な対応が大事です。まちがっても「こんな不要なものはいらない」という言葉や姿勢で関わらないようにしましょう。対応1つでお母さんと相談者の信頼関係はもろくも崩れてしまいます。
また、通常は物を処分する際には、それが必要なものか、不要なものかの情報を整理したうえで判断していくものですが、その判断力は高齢になると低下しやすくなりますし、特に認知機能が低下している人は過去の記憶があいまいで、これからどうしていくかの判断を現在だけの状況で判断することになってしまいます。その結果、捨てるという判断ができずに、モノを溜め込んでしまうということが起こります。
お母さんの心情を理解してすべてとっておけたらいいですが、「床にモノが置いてある」とのことなので、それにつまずいて転倒したら大変ですね。この場合、処分するのではなく、とりあえず整理をしておくのはいかがでしょうか。今後も使わなさそうで相談者が不要だと感じたものは、クローゼットや押し入れの奥などにまとめて箱に入れておきます。本人にも「ここにしまっておくからね」と伝えると、安心すると思います。ある程度の期間をおいて「この箱の中身どうしようか」と再度聞いてみると、気持ちが変わっているかもしれません。このようにモノを整理しておけば、本人の気が変わったときに処分しやすいと思います。
もちろん不衛生なもの、危険なものなど、すぐに処分したほうがいいものもあります。例えば「このままとっておくと悪臭がするようになる」など、なぜとっておいてはいけないのかを説明して、納得してもらえると理想的です。こっそり処分するというのも状況によっては仕方がないこともあります。私自身も認知症の方を介護する中で、危険なものなど、どうしてもこちらで処分せざるを得ないことがありますが、最優先するのは、本人にとってそれがどのような意味を持っているのかを知り、無下に扱わないことです。
ですが経験上、財布や時計など日々使うものでなければ、後から「あれはどこにしまったのか?」と本人に聞かれるケースはあまりないように感じています。
本人にとって大事なものであれば、一緒にモノを整理しつつ、それにまつわる思い出話なども聞けると、本人の生活への満足感が上がり、さみしい心情や喪失感が埋まるかもしれませんね。
【まとめ】一人暮らしの母の家がモノであふれかえっているのに、処分させてくれないときには?
- 高齢になったり認知症があったりすると失うものが増えていくことが多くなり、その心情や喪失感を埋めるために身の回りにモノを置いておきたくなることを理解する
- 今後も使わなさそうなものはまとめて保管しておき、ある程度の期間をおいて再度どうするかを聞いてみる
- 不衛生なもの、危険なものに関しては本人に説明して処分する
- 本人にとって不要だと勝手に判断することには注意する。
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫