認知症の人あるあるだからで終了? まずは「どうしてですか?」のひと言を
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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認知症がある、山田さん。
シャツにアイスコーヒーをこぼして、びしょびしょ。
でも、
「俺は、絶対に着替えない」
早く着替えないと、風邪をひいちゃうかも!
あなたなら、どうしますか?
こうなったら仕方ない。
——怒られるのを覚悟で、ボタンに手をかける?
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認知症がある、鈴木さん。
家の前まで帰ってきたのに、
「私はここからは、行かないわ」
玄関に一歩も、足を踏み入れてくれない!
あなたなら、どうしますか?
もう、こうなったら仕方ない。
——腕をひいて玄関に入っちゃう?
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なにはともあれ、
まずは当たり前の、問いかけから。
「どうしてですか?」
話はそこから。
どうするか?は、そこから。
理由を聞くなんて、
そんなの、当たり前じゃないか。
そう思った方は、一体どれくらいいるのでしょうか。
今回挙げたような山田さん、鈴木さんの例は、
認知症がある人と過ごしている人ならば、ごくごくよくある話です。
そのため、私もこれまであまり深く掘り下げて考えてはいませんでした。
けれど、よくあるやりとりだからこそ、
シンプルで大切なポイントがあるのだと気づきました。
例えば、シャツを脱ぎたくない山田さんのその理由は、
「この服を人に触られたくないから」というものかもしれません。
その場合は、ご本人で洗濯できる準備を一緒に整えてから、着替えを勧めてみる、などの提案ができます。
ただ、お恥ずかしい話ですが、
「どうしてですか?」
つい私もそのひとことが、出なくなるときがあります。
早くどうにかしなければ、という状況に、焦りが勝ってしまう場合です。
また、認知症がある人との生活に慣れてしまうと、
本人が困らないようにと、先回りする癖が自然に身につきすぎて、
気づけば理由さえも聞かなくなっていた、ということもあります。
本人の気持ちを見落としてしまっているのも、忘れて。
——それこそ、本当に悲しい状況ではないでしょうか。
いつまで一緒にいられるかわからない、介護の日々。
できるかぎり、相手、そして自分の本心にも、
問いかけられるような余白を、つくっておきたいものです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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