「電気シェーバーくん、朝よ!」 頭が真っ白になった僕を救う妻のまじない
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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認知症がある僕は、
「いま、やること」が、わからなくなることもある。
そんな時、横から
「わかりますか?」なんて言われちゃうと、
つい、カチンときてしまう。
ただでさえ焦っているのに、
追い打ちをかけられるみたいで。
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今日は、どうも朝からぼんやり。
毎朝使ってる電気シェーバーに、
電源がいれられない。
背後の妻を心配させたくないから、
余計に焦ってやみくもに、
シェーバーを振ってみたりした。
でも、その時……

「こらっ! 電気シェーバーくん、朝よ! 起きなさーい」
妻は冗談まじりに電源をいれて、
僕にシェーバーを手渡してくれた。
緊張がとけて、途切れていた動作がふんわり流れだす。
「今日も、イケメンになるとするか」
妻のあかるさに、
僕もあかるさを返しながら、
シェーバーを肌にあてた。
「あの人、怒りっぽくなったね。
きっと、認知症のせいだね」
『周りの人』は、そう捉えがちですが、
認知症がある人を怒りっぽくさせている原因の多くは、
私たち『周りの人』の関わり方にあると思っています。
例えば、
「わかりますか?」「できますか?」という、問いかけ方。
「わからない・できないのならば、サポートします」という気遣いからなのでしょうが、
受け止め方によっては
「わからないの?」「できないの?」と問いかけられているようにも聞こえます。
また、周りが
「この人のために教えてあげなければ」などと、
内心では焦って不安に思われているだろう人に対して、
その場でやり方を正している場合もありますが、疑問に思います。
もし、どうしてもその必要があるならば、
あとでお互いが落ち着いたときにでも、話しあえばいいのではないでしょうか。
なぜなら関わり方で大切にされるべきは、
正しい行動をとってもらうことではなくて、
わからない、と不安になっているその人の心を、できるかぎり思いやることだからです。
混乱している時に、意に沿わないことを言われたら、
誰だって「うるさいな!」のひとことも、叫びたくなるもの。
もし自分が、いま、することがわからなくなって、不安で混乱しているときに、
周りの人にどうしてもらいたいか。
まずは、それぞれの、
「私なら、こうされたい」を想像してみることが大切なのだと思います。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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