春巻きからキッシュまで 嚥下障害の母のために考案した医師も驚く介護食
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。母の食事量が減り、吐き戻しも多くなってきたものの原因が分からず、低栄養と脱水で入院することになってしまった時のお話です。
初めて知った「嚥下障害」
今、もし、食べる時に飲み込みづらさを感じている方がいたら、速やかに摂食・嚥下外来を受診することをお勧めします。母が食べられなくなってきた時、私は嚥下障害というものを知りませんでした。食事の量が減ったり、背中が丸くなってきたこともサインの一つ。あの時知識があれば、もっと早く対処できたのにと悔やまれてなりません。
母の食事量が減ってきた当初、私は歯の不具合が原因だとばかり思っていました。歯科医院に行き、部分入れ歯や歯を削ってかみ合わせを調整したのですが、食べた後に吐き戻すことが増えて、食べる量は減る一方。歯ではなく、もしや消化器に問題があるのではないかと疑い、次に消化器内科を受診しました、逆流性食道炎、あるいはポリープ……。祖母が胃がんを患っていたことも引っかかっていました。ところが、検査をしても異常なし。結果は良好。にもかかわらず、やはり、食べたものを戻してしまう現象は続いたのです。
そうこうしているうちに、低栄養と脱水の症状が出て入院。嚥下障害であることが分かりました。飲み込むという行為に問題があるなんて考えたことがありませんでした。色々調べていたなかで嚥下障害の専門外来があることを知るのですが、ここに辿り着くまでに数ヶ月が経っていました。
初診の外来では、嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査を行いました。
内視鏡検査は唾液や痰の貯留や声帯の動きを確認するもので、食用色素を混ぜた水を口に含み、鼻から内視鏡を挿入し、飲み込む動作を見ます。食用色素をつけると飲んだものがどのように流れてくるかの確認がしやすく、唾液の誤嚥か飲んだものの誤嚥かも判断しやすくなります。
造影検査はバリウムを飲んでレントゲンで確認するのですが、内視鏡よりも奥の方、食道から胃までの食べたものの流れを確認できます。母は、飲み込んだ後の食道の動きの不良が原因で吐き戻しているのではないかと疑われたため、両方の検査を行い、結果、先生の見立て通り、食道が原因とわかりました。実は、その食道の動きは、背中が丸くなってきたこともかかわっているため、自宅での食べる姿勢の改善が必要と診断。訪問診療という治療方針が決まりました。年齢とともに背中が曲がってくるのは仕方がないと思っていましたが、それが嚥下障害につながっているなんて思いもよらず、本当に驚きました。そこから私は食事介助や姿勢、介護食をさらに勉強し始めるのですが、歯にさほど問題がなかったことも功を奏し、母はみるみる食べられるようになり、一時は口から食べることを禁止されていた人とは思えない食べっぷりに。その後、病気の悪化とともに嚥下レベルも落ちてきましたが、訪問診療の日は何種類もメニューを用意して、その都度母の嚥下状況と食形態を照らし合わせ、「これはOK」「これは危ないかも」というアドバイスをいただくことは、今も変わりません。
コロナ前は先生や助手の方を交えて味見をし、噛みやすさ、飲み込みやすさを確認。何が良かったか、フィードバックももらっていました。
ある日、試食中、先生が「お母さんと同じくらいの嚥下障害の人でクリームパンしか食べてないみたいな患者さんが結構いるんですよ。これだったら食べられるよね!」と、教えてあげたいという趣旨のことおっしゃいました。先生は食形態の見極めをされるも、具体的な調理法は専門外。一方私は担当しているNHK「あさイチ」の料理コーナーで得た知識を活用し、先生の診断に基づいて介護食を作っています。そのアイデアをイベントやレシピ本など、もっと広めたらいいのにと。Eテレ「ハートネットTV」で介護食を紹介したのは先生のこういった言葉も大きかったです。
美味しいものは人を幸せにします。食べることは生きること。どうすれば母が食べられるものが作れるか、今日も頭の中でアイデアを巡らせます。