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認知症が心配なあなたへ

医療機関との連携がカギとなる認知症 受診を拒むプライドとの向き合い方

「認知症かも……」と感じた人は“プライドの壁”を乗り越え、早期に医療機関とつながることが大切です。

大阪の下町で、「ものわすれクリニック」を営む松本一生先生によるコラム「認知症が心配なあなたへ」。認知症になること、なったことに不安を抱えているあなたの心を和らげるような、認知症との向き合い方、付き合い方を伝授していきます。認知症になると「何もできなくなってしまう」という誤ったイメージがまだまだ残っているため、診断されるとプライドを傷つけられると感じる人も少なくありません。今回は、“プライドの壁”を乗り越え、早くから医療機関を受診し、サポートを受けることの大切さについて、松本先生が解説してくださいます。

誰でも体のどこかに不具合が生じると「何が起きているのだろう」と心配になるにもかかわらず、その心配の原因がなくなると途端に医療機関に行くことが面倒になるのではないでしょうか。

自分の恥をさらすようですが、ボクは昨年、長年放置していた胆石が胆管につまり、もう少しで敗血症から命が危ない状態になっていました。究極の「医者の不養生」です。胆石で痛い時には「治療してもらおう」と思ったのですが、その痛みが(体の中の胆石の位置が変わることで)消えたとたん、ボクは受診する気持ちをなくしてしまっていました。

認知症の場合は、胆石の比ではありません。認知症と診断されると、今でもまだ「何もできなくなっていく病気」という誤ったイメージがあります。そうしたイメージも手伝い、診断される怖さが大きいこと、さらにメンタル面に関わる病気と思われていることもあり、診断されることへの「恥ずかしさ」などが加わって、受診するまでに自分のプライドを克服しなければならないという難しい問題があるからです。

認知症は気になるけれど

ボクの「ものわすれクリニック」を受診してくる人は、そのほとんどが、「かかりつけ医」の先生からの紹介です。かかりつけ医とは、健康に関することを何でも相談でき、必要なときには専門の医療機関を紹介してくれる身近な医師のことをいいます。そうしたかかりつけ医の「専門医の診断を受けてきなさい」との一言で、本人も家族もおっかなびっくり、ボクのクリニックを受診するといったイメージです。

その際もやはり自分のプライドからか、受診前に100から7を引くと93、93から7を引くと…、と認知症をスクリーニングするための簡易的な認知機能テストの一つである長谷川式スケールの内容を暗記しようとする人もたくさんいます。テストを受ける際には、みなさん「知的なことができなかったらどうしよう……」という「恥ずかしさ」を感じているのでしょう。

かかりつけ医に相談できない

また、実際に受診者に聞くと、かかりつけ医の先生であるからこそ、ものわすれの相談ができないという人も多くいるのが現実です。その理由の最たるものが「家族に知られて心配をかけたくない」というものでした。

かかりつけ医の先生はあなたが先生を信頼して「家族にも言わないで」とはっきりと告げれば守秘を徹底してくれたはずです。

私の経験では、親の介護や自分のことを考え始める年代のかたの場合、自分で物忘れについて心配になっても、それをかかりつけ医の先生に訴えて検査を受けるまで、平均すると10か月ほどの時間がかかっています。それほど躊躇するのでしょう。最初のひと言をかかりつけ医に発して相談するだけでもかなりハードルが高いことがうかがえます。是非、そのハードルを越えていただきたいと思います。

どこの専門医に行けばよいのかわからない

普段のあなたについて知ってくれているかかりつけ医の先生を経由し、専門医療機関で診断を受けるのが最善です。

かかりつけ医を経由せずに、一般的な脳ドックなどを(家族も含めて誰にも内緒で)受け、その時にMCI(軽度認知障害)などの一般的な検査を受ける人も少なくありません。万一、そこで良くない結果などが出ると、それまでの不安や焦燥感が増幅してしまいます。

現状では、認知症は完全に治すことはできない病気です。けれど、早くに医療機関を受診し、しっかりと情報提供やカウンセリングを受けることで、ご本人の心が安定し、安心できるようになります。それが、認知症の悪化を抑える力になるのです。

最善なのは、普段のあなたについて知ってくれているかかりつけ医の先生を経由し、専門医療機関で診断を受けることです。あなたが希望する場合には告知をしてもらい、しっかりと病気に向き合うことが肝心でしょう。

自分の中の無意識の抵抗と向き合う

自分の中の「無意識」のプライドが受診への抵抗となることを忘れないでください。無意識ですから、何もあなたが悪いわけではありません。しかし、意識しないところで受診や診断を避け、結果的に対応が遅くなってしまってはいけません。認知症は痛みや苦しみがない分、受診しにくい疾患です。しかしゆっくり確実にあなたの脳をむしばんでいきます。怖がり過ぎることなく、ボクの胆石のように「まあ、これからも大丈夫だろう」と意識から遠ざけてしまうと、脳の病気であるだけに、後から取り返されない変化が、静かに進んでしまうからです。

怖がらず、医療機関のドアをノックしてみましょう。「認知症かもしれない……」と感じたあなたの不安や恐怖を受け止め、ずっと一緒に認知症と向き合ってくれる医療機関を見つけること。これが、先への希望をもたらすことになり、最も効果的な認知症への対策と言えるからです。

1年間、本コラム「認知症が心配なあなたへ」を読んでいただいてありがとうございました。新しいシリーズは2023年秋に始める予定です。

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